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【注目度ランキング55 位達成!】華麗なる離婚同盟  作者: Marion
アイリーンの結婚
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アイリーンの結婚_2

食事の後、アイリーンは自分の部屋に戻った。

部屋は少女らしいピンクと白を基調とした内装で、まるでおとぎ話の世界から抜け出してきたような美しさだった。


「疲れていらっしゃるのでしたら、少し休息を取られますか?」

部屋に戻ると、レヴィがそう言った。彼女にしては、わずかに気遣いが込められているように聞こえた。


「いえ、大丈夫よ。」

アイリーンは鏡の中の自分を見つめながら言った。


「レヴィ」


ふと、アイリーンが振り返った。


「何でございましょうか?」


「あなたがいてくれて、本当に心強いわ。いつもありがとう」


その言葉に、レヴィの表情がわずかに変わった

。一瞬、何か複雑な感情が瞳に宿ったように見えたが、すぐに元の無表情に戻る。

「恐れ入ります。お嬢様の役に立てて光栄です。」

レヴィは一礼すると、舞踏会用の準備を始めた。

アイリーンは、なぜかその後ろ姿に一抹の寂しさを感じた。


「レヴィ、あなたは私のことをどう思っているの?」


突然の質問に、レヴィの手が一瞬止まる。


「どういう意味でしょうか?…私は申し上げるべき立場ではございません」

「でも、いつも一緒にいるじゃない。何か思うことがあるでしょう?」


アイリーンの純粋な問いかけに、レヴィは長い沈黙の後、静かに答えた。


「お嬢様は、とてもお美しく、お優しい方だと思います」



その言葉は、まるで台本を読んでいるかのように平坦だった。

アイリーンが思っていたような答えではなかったが、それ以上追求することはしなかった。


「ふうん。分かったわ。…じゃあ、舞踏会のドレス選びを手伝ってくれる?」

「もちろんでございます」


レヴィはクローゼットを開け、美しいドレスの数々を取り出し始めた。

どれも一流の仕立て屋が手がけた逸品ばかりである。


「これはいかがでしょうか?」


レヴィが差し出したのは、薄いブルーのシルクドレスだった。

アイリーンの瞳の色によく似合いそうな、上品な一着である。


「素敵ね……でも、少し地味かしら?」

「では、こちらは?」


今度は淡いピンクのドレスだった。胸元に繊細なレースがあしらわれ、スカートは優雅に広がるデザインになっている。


「こちらの方が良いかもしれませんね」


アイリーンがドレスを体に当てて鏡を見ていると、ふと気になることがあった。


「レヴィ、あなたも舞踏会に参加したことはあるの?」


レヴィの手が一瞬止まった。


「いえ、侍女の身分では……」

「そうよね……」アイリーンは少し申し訳なさそうに呟いた。


「でも、あなたもきっと美しく踊れるでしょうね」

「恐れ入ります」


レヴィの返答は、いつものように簡潔で感情を読み取れないものだった。


「レヴィ、いつか一緒に踊れたらいいのに」


アイリーンの純粋な言葉に、レヴィは黙って頷いただけだった。


「アイリーン、準備はできているか?」


夕方になると、父のエドモンが娘の部屋にやってきた。

彼は正装に身を包み、いつにも増して威厳に満ちていた。


「はい、お父様」


「今夜は大切な夜になるだろう。多くの紳士方がお前と踊りたがるはずだ」


エドモンの言葉には、期待と同時に心配も込められていた。


「でも、慌てることはない。いつも通り振る舞えばいい」

「はい」


アイリーンは頷いたが、内心では緊張が高まっていた。


舞踏会には、王国の名だたる貴族たちが集まっていた。

美しいドレスに身を包んだ淑女たち、正装に身を固めた紳士たち——まさに社交界の華が勢揃いしていた。


「フォンテーヌ侯爵ご一家のお越しです」


執事の声が響くと、多くの視線がアイリーンたちに向けられた。

特に、アイリーンに注がれる視線は熱いものがあった。


「あら、あの美しい方はどちらの?」

「フォンテーヌ侯爵のご令嬢よ。アイリーン様とおっしゃるそう」

「なんと美しい……」


周囲の囁き声に、アイリーンは頬を染めた。

注目されることには慣れていたが、これほど多くの人々の視線を一身に受けるのは初めてだった。


「アイリーン」母のイザベラが娘に近づいた。


「ランベルト侯爵夫人がお呼びよ」


そう言うと、母の背後に、女性が立っているのが見えた。

紹介されたランベルト侯爵夫人は、上品で知的な美しさを持つ女性だった。


「これはこれは、美しいお嬢様ですこと。お噂はかねがね伺っておりました」

「お招きいただき、ありがとうございます」


アイリーンは完璧なお辞儀をした。母から受けたマナー教育の成果である。


「ところで、アイリーン様」侯爵夫人が意味深に微笑んだ。

「息子にもお会いいただきたいのですが……」


侯爵夫人はそう言って一人の青年を連れてきた。


「ヴィクトール・ランベルト=ステラです」


青年は深々とお辞儀をした。

美しい銀髪に深い青の瞳、彫刻のような整った顔立ち——まさに理想の貴公子といった風貌だった。


「アイリーン・フォンテーヌです」


アイリーンが挨拶を返すと、ヴィクトールの瞳が一瞬輝いた。


「もしよろしければ、一曲踊っていただけませんか?」


ヴィクトールが手を差し出すと、会場がざわめいた。

ランベルト侯爵家の跡取りが、初対面の令嬢に踊りを申し込むなど、異例のことだったからだ。


「喜んで」


アイリーンは頬を染めながら、彼の手を取った。


馬車の中で、フォンテーヌ家の面々は今夜の出来事について話し合っていた。

「アイリーン、今夜は大成功だったな」


父のエドモンが満足そうに言った。


「まさかランベルト家の跡取りと踊るとは」


アランも感心していた。


しかし、アイリーンは黙って窓の外を見つめていた。

心の中では、ヴィクトールとの出会いが何度も甦っていた。


(あの方ともう一度お会いできるかしら……)


そんな淡い恋心を抱きながら、アイリーンは家路についた。

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