エピソード_23
「まぁ!とっても似合っているわ!」
「本当ですか?」
アイリーンは舞踏会用のドレスを選びにきていた。
今日はルチアも一緒だ。
ヴェロニカは次々とドレスを選び、アイリーンに着せ替えを始める。
「まだまだよ!次はこっち!」
アイリーンは少し戸惑ったが、久しぶりにおしゃれをする機会に、次第に気持ちが浮き立っていった。
試着室に入り、渡されたドレスに袖を通す。
鏡に映った自分を見て、アイリーンは思わず息をのんだ。
「……こんなに素敵なドレス、久しぶり…。」
アイリーンが試着室のカーテンを開けると、ルチアが目を輝かせた。
「いいですね、可愛らしい!」
「うーん、悪くはないけれど、もう少し華やかでもいいかしら?」
そんな調子で何着も試着を繰り返し、アイリーンもいつの間にかドレス選びに夢中になっていた。
「いいですね、アイリーン様…。本当に可愛らしくて……。」
アイリーンが試着室から出てくると、ルチアは思わずため息をついた。
ルチアの視線の先には、淡いピンクのドレスを身にまとったアイリーンの姿がある。
ふんわりとしたスカートの裾が揺れ、繊細なレースが彼女の華奢な体を柔らかく包み込んでいた。
まるで絵本の中のお姫様のようだった。
「えっ……?」
言葉の意図が分からず、アイリーンは驚いてルチアを見つめた。
「…可愛らしいものが似合う方が羨ましいです。私は小さな頃から、可愛らしい服を着ても、どこか違和感があって…。」
ルチアは苦笑しながらそう言った。アイリーンはそれを聞いて眉を顰める。
「そんな……ルチアさんこそ、スタイルが良くて、何を着てもかっこいいし、美しいわ!」
アイリーンは心からそう思っていた。
ルチアの長い足、すらりとした姿勢、どんな装いでも映える洗練された雰囲気——どれも自分にはないものだった。
「それに、背が高いとどんなドレスも似合うじゃない?」
「そうでしょうか…。」
お互いの言葉を聞いた瞬間、二人はふっと顔を見合わせた。
そして、くすくすと笑い始める。まるで心が通じ合ったかのように。
「そういえば…前からお願いしようと思っていたことがあるの。」
アイリーンは少し真剣な表情になり、ルチアの目を見つめた。
「…私のことは、アイリーンと呼んで欲しいわ。もっと仲良くなりたいの。」
「え……?」
ルチアは戸惑った表情を浮かべた。
彼女はアイリーンが公爵家出身であることを気にしているのだろう。
「私たちは年が近いじゃない。それに、もう私は何の立場もない。ただのアイリーンよ。」
アイリーンは寂しげに微笑んだ。ルチアは、そんな彼女をしばらく見つめていた。
「ねえ、お願い、ルチア。」
「……わかりました、アイリーン。」
アイリーンは微笑んだ。ずっと彼女と距離を近づけたいと思っていたのだ。
そこへ、ドレスを選んでいたヴェロニカが突然勢いよく駆け込んできた。
「ちょっと! 私も混ぜて!」
そう言うや否や、ヴェロニカはアイリーンとルチアの肩に勢いよく抱きついた。
「ヴェロニカ様!」
「ちょっと、いきなりは危ないですよ!」
三人はその場でもみくちゃになりながら、笑い声を響かせた。
ドレスを選ぶ楽しさ、賑やかな笑い声。こんな気持ちを味わうのは、いつぶりだろう。
「……楽しいです。」
アイリーンがぽつりと呟くと、ヴェロニカが満足そうに微笑んだ。
「でしょ?」
結局、三人は笑い転げながら、まるで子供の頃のようにはしゃいでいた。




