エピソード_17
「エ、エドワード……?」
立ち尽くすアイリーンの視線の先には、未だに店員に怒鳴り散らすエドワードの姿があった。
「アイリーン、どうしたの?顔が真っ青よ。」
彼女の様子がおかしいことに気づいたヴェロニカは、心配そうに顔を覗き込んだ。
「……もしかして、お知り合いの方ですか?」
ルチアも不安そうに尋ねる。アイリーンは震える唇で小さく呟いた。
「……あの男……ヴィクトールの従者です…。私の元夫の…!」
ヴェロニカとルチアの目が驚きに見開かれた。
「なんですって……?」
アイリーンは震える体を抑え、必死に言葉を続けた。
「でも……どうしてあの男が、宝石店なんかに……?」
アイリーンが疑問に思っていると、エドワードの怒鳴り声がさらに響いた。
「俺を通せと言っているだろう!ほら、これを見ろ!」
エドワードは乱暴に金貨の入った袋を取り出し、入り口の店員に押し付けた。
「これだけの金を見ればわかるだろう!ここにある宝石を、いくらでも買えるんだぞ!」
勝ち誇ったような笑みを浮かべ、エドワードは金貨の袋を見せつけた。
「なんて下品な……」
ヴェロニカは眉をひそめ、軽蔑の目でエドワードを睨んだ。
「…ただお金を持っていると言うだけでは、あのフロアには入れないわ。金で何でも解決できると思っているのかしら。」
ルチアは困り果てた顔をし、深くため息をつく。
「大事にはしたくないのですが……」
彼女の声には疲れが滲んでいた。
「まったく、せっかくの買い物の時間が台無しじゃない……!」
ヴェロニカはその様子に静かに怒りを募らせている。
「こっちはまだ頭が痛いのに……なんて迷惑な男なの!」
何より、二日酔いの頭にエドワードの怒鳴り声は不快で仕方がないようだった。
ルチアとアイリーンはその言葉を聞いて少しだけ苦笑する。
「ここは任せて、ルチア。」
ヴェロニカはルチアを見て楽しそうにそう言った。
そしてそのまま優雅に歩を進める。
その自信に満ちた振る舞いに、ルチアは慌てて声をかけた。
「え!?待ってください、ヴェロニカ様!」
彼女は背筋を伸ばし、まるで舞台の上を滑るように優雅に歩を進めた。
落ち着いた足取りで前へ進み、迷いなくエドワードの前に立つ。
周りにいた人々も、ヴェロニカの見事な立ち振る舞いに何事かと道を開けた。
「まあ、これはずいぶんと賑やかね。ここはお買い物を楽しむ場のはずだけれど?」
ヴェロニカの言葉には棘がないものの、確かな威圧感があった。
「なんだお前は!?」
エドワードは突然現れたヴェロニカに面食らったような顔をしたが、その余裕ある態度に苛立ちを募らせる。
「なんのつもりだ!俺に指図するつもりか!」
彼は矛先をヴェロニカに変え、詰め寄った。
しかし、彼女は扇を顔の前に広げ、冷静な瞳を向けながら、軽く首を傾げるだけだった。
「まあまあ、そんなに大きな声を出して…。きっとお疲れなのね。」
その穏やかな言い回しに、エドワードの顔がさらに赤くなる。
彼女は芝居がかった動きで、目を伏せた。
その動きに合わせてドレスの裾がふわりと揺れ、人々は息を呑む。
「なんだなんだ?」
「なんて美しい立ち振る舞いなの……」
「彼女は誰だ?どこの貴族様だ?」
騒ぎを聞きつけて集まった人々は、ヴェロニカに釘付けになっていた。
彼女の凛とした美しさと、自信に満ちた態度。
ヴェロニカは一瞬でその場の空気を変え、彼女の独壇場となったかのような雰囲気だった。




