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[50]引きこもり魔女と偽物魔術Ⅱ


「協力? ここまでコケにされて、はいわかりましたって言うほど俺たちを安い人間だとでも思ってんのか?」

「おやおや、ボクからすればこのタイミングで街を離れようとしているキミたちの方が疑わしいのだけどねぇ」


 釈然としない。

 こいつの言っていることはわかる。だが、心から信用できるとは思わない。


「アイト、この人の言う通りだよ。そのおじさんにどんな理由があったのかわからないけど、そこにあたしたちが関係しているならどうにかしなきゃって思う」

「イリス……」


 そうだ、事件にイリスの魔術が関わっている以上は真実を探る必要がある。

 あのおじさんに関しても、本当に人殺しをするような人には思えない。

 何か、ウラがあるはずだ。


「ウチらも協力する! あのおっちゃんは誰かを殺してまう人やない! きっとまた、何か理由があるに違いないんや!」

「残念だが、グリム商店(キミたち)は捜査から外れてもらうよ? 私情で動かれては困るんだぁ」

「な、なんやと!?」


 レイリはファラとニアに揃えた手を向ける。


「仮にキミたちが共犯者だった場合、情報漏洩を含め容疑者の逃走を手助けする可能性があるからねぇ」

「そ、そないなことするはずは……!」

「ファラ、ここは言う通りにしよう」


 ニアがファラを制止した。


「この事件、キミたち二人で真実を探ってもらう」

「せやけどニアちゃんっ!」

「大丈夫だ。必ず、二人なら真実を見つけてくれる」


 ニアは真剣な表情だ。俺たちを信用してくれている。

 しかし、この男(レイリ)。ファラとニアを追い出してでも俺たちに協力して欲しいらしい。

 要は人質ってことか。変なマネをすればグリム商店ないし商業組合からの支援も無くなる。

 ここは協力せざるを得ない。


「あたしやるよ! 必ず、真実を見つけてみせる……!」

「よぅし、それならば早速調査に向かうとしようじゃあないか!」


 レイリはイリスの肩に手を回し、そのまま連れて部屋の外に出ようとする。


「お、おい待て! イリスから離れろこの変態ッ!」

「何だい? キミも来るのかい……? 全く、興覚めだねぇ……」


 この野郎、やっぱり一発殴らないと気が済まねぇ!


「《アイト様、ひとつお話が》」


「え? 何だエニグマ?」


 俺の頭の中に直接響くノイズ。

 前にも同じように聞こえたノイズだが、どうして俺はこのノイズをエニグマだと思うのか謎だ。

 しかし、ノイズには何やら考えがあるようだ。聞いてみよう。


「《容疑者には親族がいたはずです》」

「確か、娘さんがいたよな。リーシャって名前だったか……?」

「そうだよアイト! リーシャちゃんはどうしているのかな?」


 イリスが話に入ってきた。

 いや、イリスにはノイズが聞こえていない。

 俺がふと口にした言葉に反応しただけだろう。


「それならば会ってみるかい? 彼女ならすぐそこにいるよ、重要参考人としてね」


 俺とイリスはレイリに連れられ、別室に来た。

 そこには、泣きながらテーブルに着くリーシャの姿があった。


「リーシャちゃん……」

「うぅっ……イリスちゃんっ……!」


 イリスはリーシャの側に立ってなぐさめる。

 次第に落ち着きを取り戻したリーシャからおじさん・彼女の父親について聞く。


「私にも何が何だか……朝起きた時にはもう、お父さんはいませんでした……」

「朝早くってことは、少なくとも前の日から予定はあったんじゃないか?」

「いえ……、普段と変わらない様子でした。それが急に……」


 謎は深まるばかり。

 この様子じゃまともな情報は得られそうにない。

 それにリーシャがここにいるってことは、帝国騎士団はすでに聴取を終えているのだろう。

 それで手掛かりが掴めず、俺たちのところにやってきたってところだろうか。


「なぁ隊長さんよ、そもそも被害者ってのは誰なんだ?」

「あぁ、その話ねぇ……少しついてきたまえ」


 どうしてここで話さない? リーシャに聞かれたらまずいのだろうか。

 俺はレイリに連れられて部屋から出た。


「被害者についてだけど、彼女に聞かれるのは少々まずい」

「え? どうして?」

「彼女の恋人、だった男なのさ」


 なるほど、それで隠したいってわけか。

 これを伝えれば彼女は動揺するだろう。そうか、リーシャも容疑者の一人。下手に情報を与えればこちらが不利になりかねない。

 結構、しっかりと考えて動いているようだ。


「真っ先に考えられるのは、娘に手を出した男への報復だろうねぇ……」

「報復?」

「その男、結構な遊び人でね。彼女にだいぶ貢がせていたみたいだよ、見るからに彼女もお人好しみたいだし。父親としても放っておけなかったんじゃないかな」

「それで手にかけた……相手にも襲われる理由があったのか」

「でも、なんだか綺麗にまとまりすぎている気がしてねぇ。彼女は父親と二人暮らしでアリバイがない。それに、キミたちの作ったものがどうして現場にあったのか謎だ。気になって仕方がないんだよ」


 そういうことか、全部繋がった。

 犯行動機に目撃証言、確かに状況だけで考えればおじさんはクロだろう。

 しかし、この男(レイリ)にはどうしても引っかかるものがあるらしい。

 それを俺たちに見つけてもらいたいということだろう。


「わかった、それなら協力してやる」

「おや? ボクが力を借りたいのは魔女ちゃんの方だよ? キミみたいな金魚のフンに興味はないのだがねぇ……」


 いちいちイライラさせてくる奴だ。まぁ今回ばかりは大目に見てやろう。

 真相解明のため俺たちに泣きついてきたぐらいだ、その根性だけは認めてやる。


「さて、そろそろ気が済んだだろう? 早く調査に向かおうじゃあないか」

「調査って、どこに行くんだよ?」

「決まっているだろう? すべての謎は現場に集まるものさ!」


 俺とイリスはリーシャのもとを離れ、レイリに連れられて事件現場にやってきた。

 ここは市場からそう遠くない小さな港。

 俺がデカブツと戦った場所とは別だが、この街には似たような場所が多々ある。

 港の岸に沿って進むと、下へ降りる階段が現れる。

 階段を下りた先、片側が海に面する行き止まりの手前。

 錆びた鉄格子で区切られた小さなトンネルの前でレイリが立ち止まった。


「ここが現場だよ、この鉄格子の前で被害者はうなだれるようにしていたんだ」

「このトンネルは?」

「地下水道だよ、ちなみにここの扉が開けられた形跡はない。容疑者はボクたちが来た道から街の方へと逃走したんだよ、目撃者もいるしね」

「目撃者は逃げる瞬間を見たのか? 犯行の瞬間は?」

「逃げる姿だけさ。ただ、似顔絵を描けるくらい顔はバッチリと見ていたようだね。そのままここで被害者を見つけて事件が発覚したのさ」


 この場所に行けるのは俺たちが来た道、階段だけ。

 唯一別の道があるとすればトンネルの鉄格子だが、開けられた形跡がないらしい。

 そうなれば、現場にはおじさんしかいなかったことになる。

 目撃から犯行発覚までも時間が短い、誰かと入れ替わるのも難しいだろう。


「なぁイリス、お前の魔術で何かわからないか?」

「う、うん……ちょっと試してみるね……」


 イリスはどこから取り出したかわからない杖を持って何かを唱えている。


「おやおや、キミたちは正気かい? いくら魔術の扱いに長けているとはいえ、ボクたち帝国騎士団が調査した後だよ? そんな簡単に見つかるはずがないだろう?」


 調査しようって言ったのはオメーだろうが。

 何かと否定から入らないと気が済まねぇのかコイツは。


「あっ! なんか反応があるよ!」

「うそぉん!?」レイリが反応する。


 イリスの足元で足跡のようなものが光っている。

 その足跡は鉄格子の先、トンネルの方へと続いている。


「ほれ見ろ、イリスの魔術は凄いんだよ。感謝しろヒョロハゲ」

「ヒョッ……! ヒョロハゲって言うんじゃないっ! ボクは隊長だぞ! レイリ・ヴァンホルンだ!」


 俺たちは手掛かりを求めて鉄格子の先を目指す。

閲覧ありがとうございます。

更新にしばらく時間を要します。お待ちくださいませ。

※無断転載を禁じます。

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