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[28]引きこもり魔女と意思疎通Ⅳ


「おーい、エニグマー! おやつだぞー!」


 俺は再びエニグマを探して裏庭にやってきた。

 神出鬼没のエニグマと出会うのは至難の業だ。飼いえにゅとは言え、ほとんど野良に近い。

 最初にイリスがエニグマを連れていったと思ったが、『気づいたらどこかに行っちゃったー!』だそうだ。

 そうか、それで暇になってファラと一緒にシャワーを浴びていたのか。


「思えば、エニグマと初めて会った時もいきなり出てきたんだよな。出会いは突然にってな」


「えにゅっ」


「うわっ本当に出た!」


 エニグマはテラス下からにょきっと生えてきた。


「どこに行ってたんだよお前、本当に神出鬼没だな」


「えにゅ~」


 エニグマも俺と同様に別世界の存在。銀河最強の魔女ヘックスが俺たちに託した不思議な生物だ。

 そもそも、ヘックスはエニグマのことをペットだと言っていた気がする。本当にそうなのだろうか。


「シンクロ……なんだっけ。要するに一心同体って言いたかったのか? まぁ、ヘックスとは相棒だったみたいだしな」


 おやつに持ってきた蒸したジャガイモを食べるエニグマを撫でた。

 やはりネコなのかキツネなのかよくわからない生物だ。ちゃんとジャガイモも食べるんだな……。


「それに、お前は別の銀河から来たんだ、要するに()()()ってことだな」


「えにゅ!」エニグマもそうだそうだと言っている。


「否定しないのかよ。その辺の自覚はあるんだな」


 エニグマも『魔力』を持っている。何なら、イリスの血を使って魔力を探知することができる。

 ヘックスの相棒なんだから魔力を操れて当然だよな。もしかしたら、イリスにも引けを取らないじゃないか?


「……お前は魔力が使えるんだもんな」


 魔力が使えたら、今まで以上にレベルの高い支援ができるのだろうか。

 ただ、イリスの暮らしを支えるだけじゃない。あいつの使い魔として力を貸すことが……。


「えにゅっ!」


 エニグマが鳴いた。

 何やら俺に伝えたそうにしてその場でぐるぐると回っている。


「何だよ、どうしたんだ?」


 エニグマは途端に立ち止まり、両腕を上げて俺を見る。


「いや、流石にわからん……」


 エニグマは俺の反応に微妙そうな顔をしたが、同じ動きを繰り返した。

 ぐるぐると回って止まり、両腕を上げて俺を見る。何度も、何度も繰り返す。


「なんか、見てたらめまいがしてきた……」


 俺は目頭を押さえる。

 催眠術を受けているような気分だ。じっと見ていると動かないものが動いていると錯覚する動画を見たことがある。

 ぐるぐる回って止まる、ぐるぐる回って……。


「グーッ! ってしてボッ! ……いや、関係ないか」


 エニグマは動き疲れてぐったりした。


「ごめんなエニグマ、お前と話せたら苦労はしないんだけど……」


 そうだ、そもそもイリスは『エニグマが本当は喋れる』とか言って調べようとしていたんだった。

 イリスなら何かわかるのだろうか?


「エニグマ、少しいいか──」


 ふと目を離した瞬間だった。

 さっきまで目の前で忙しなくぐるぐると回っていたエニグマが姿を消している。

 辺りを見回してもエニグマの姿が見えない。


「おいおい、神出鬼没って言うか、こんなの神隠しだろ……」


 一人取り残された俺は仕方なくアトリエに戻った。

 イリスにエニグマのことを聞いてみようと思い立ち、実験室に入った。


「それがね、全然わからないんだよ~」


 イリスは実験室のソファに寝転がってだらだらと魔術書を読んでいる。

 足をパタパタとさせているせいか、スカートの中身が見えてしまいそうで落ち着かない。


「ヘックスの知識で探したんだろ? 翻訳できるこんにゃくとかありそうな気がするが……」


「こんにゃく? よくわかんないけど、エニグマに関する情報は見つからないんだよね」


「見つからない? どうして?」


 イリスは立ち上がると、懐から賢者の石(ヘックス・キューブ)を取り出した。

 キューブが発光し、次々と設計図が部屋の中を埋め尽くす勢いで表示される。


「相変わらず凄い量だな……」


「これでも整理できた方だよ? 竜痣病の治療法を探したときも色々調べたけど、あれはエニグマがいたからできたんだよね」


 そうだったのか。

 いつもイリスは得意げにヘックスの魔術を使った発明品を作っているから手慣れているのかと。


「とりあえず、こうやって目の前に浮いてるのを見て探していくしかなくて。とっても効率が悪いんだよね……」


 尚更にエニグマの手を借りたい状況ってことか。

 しかし、エニグマも気まぐれなのか常にイリスに協力する気はなさそうだ。

 それに神出鬼没で定位置がない。こうなったらエニグマの家を作るべきだろうか。


「思ったんだが、そのキューブって動かせなかったか?」


「え?」


 俺の記憶が正しければ、エニグマがキューブに触れた時に動いていた気がする。

 パズルのように上下左右、きっと手動でも動くはずだ。


「ぐるぐる回して、ぱっと止める……」


 ふと、エニグマの動きを思い出す。

 もしかして、エニグマは俺にこれを伝えるために……?


「イリス! キューブを回せ! 縦とか横とか!」


「う、うん!」


 キューブはイリスの手の動きに合わせて横に回った。

 ビンゴだ。やっぱり、ただ光って設計図を出すだけじゃなかったんだ!

 キューブから光が溢れると、光は線となって大きなひとつの長方形を作った。


「なんだこりゃ……?」


 目の前の長方形には、どこか木造の部屋が映っている。

 薄暗く、ほこりのようなものが画面上に漂う。部屋の中央には巨大なガラス瓶のようなものが置いてある。

 どうやら映像のようだ。しかし、これは一体どこだ?


「えにゅっ」


 エニグマの声がした。

 しかし、俺たちの周囲にはエニグマの姿が見当たらない。


「違う、この声は映像から聞こえている……! これはエニグマの見ている景色なのか!?」


「あー! ここ屋根裏部屋だよ! 上にあるところ!」


 屋根裏部屋だって? エニグマは今、屋根裏部屋にいるってことか?

 しかしどうしてそんなところに? それに、部屋の中央にある巨大なガラス瓶は何なんだ?


「行ってみよう!」


 実験室の天井、本棚に隠れた落し戸を見つける。

 はしごを掛けて戸を開けると、巻き上がったほこりが降り注いだ。

 実験室から差し込む光で屋根裏部屋が明るくなると、見慣れた小さなシルエットが目に入る。


「えにゅ~」


「エニグマ、お前どうしてこんなところに……」


 すり寄るエニグマを抱え、屋根裏部屋を見回す。

 窓は無く、ほこりが漂っていてカビ臭い。至る所に蜘蛛の巣が張ってあり、長年手入れされていないことがわかる。

 そして、一番に目立つのは部屋の中央に置かれた巨大なガラス瓶。

 何かの装置だろうか? ガラス瓶には絶えず脈動する不定形の黒くウネウネとした小さな塊が浮いている。


「これ! あたしが召喚したやつだ!」


「なんだって!? それって、エニグマと一緒に召喚したってやつか!?」


「うん……! でも、どうしてここに? 元の世界に返したはずじゃ……」


 イリスが考え込んでいる。

 この黒いウネウネはイリスが召喚したもの、しかし元の世界に返した……。

 なのに、ここにあるってどういうことなんだ? それに、エニグマはどうしてここにいたんだ?

 この黒いウネウネと何か関係があるのか?


「えにゅっ」


「え? 近づいてみろって?」


「ちょっ、アイト!?」


 俺はエニグマを抱えて黒いウネウネに近づこうと足を踏み出す。

 一歩踏み出すごとに黒いウネウネから何かしらの衝撃波を受けている気がする。

 別に異変を感じているわけじゃない。風を受けているような、違和感は何も……。


 いや、体が、変だ。なんだか、自分が自分じゃないような。


 ……段々と意識も遠のいていく。


「これは、なんなんだ? エニグマ、お前は一体……」


 瞼が重い。

 目の前が、暗くなる。


閲覧ありがとうございます。

ぼちぼち更新する予定ですのでお待ち下さいませ。

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