表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/51

[26]引きこもり魔女と意思疎通Ⅱ


 アトリエの裏庭。

 俺とニアは建物に併設されているテラスに横並びで座っている。


「……」


「……」


 どうしよう、何を話そう。

 自分から少し話そうなんて言ったのはいいが、話の内容は全然考えていなかった。


「……もぐもぐ」


 ニアはエニグマに持ってきた料理を食べている。いや、あんたが食べるんかい。

 しかし、こうしてニアを見ると圧倒される。全身は黒いロングコートで包まれているが、身長は高く、顔はすらっとして整っている。

 一部とはいえ鎧を纏っているんだ筋力もあるのだろう。

 俺と同年代くらいだろうか。


「えっと、ニア……さんは何か好きなものとかあるんですか?」


「……」


 やべぇ、全然返事が返ってこねぇ。

 ニアの表情も固いし、もしかして怒ってる?

 人と話すのってこんなに難しかったっけ? エニグマの方がよっぽど話しやすいのですが!


「ニアだ」


「はい?」


「ニアで構わない」


「あぁ……はい」


 すごい気まずい。

 適当に理由を付けて離れたい気分です。


「笑わないで聞いてほしい」ニアの声色が変わった。


「な、なんだ?」


 ニアは食べていた料理の皿を置くと、姿勢を正してこちらを見る。


「私は、かわいいものが好きだ」


「あ、うん」


「……笑わないのか?」


「あぁ、うん……」


「おかしいとは思わないのか? 何故だ?」


「だって、最初に会った時の方がインパクト強かったし……」


「あ、あれは忘れろっ! 私は常に魔力を使っているんだ、それで仕方なく……!」


 ニアは顔を赤らめ、こちらににじり寄って必死に弁解してくる。


「魔力を使っている? そうは見えないが……」


「そういえばキミには説明をしていなかった。いや、むしろこれを説明する機会はそうそう無いだろう」


 ニアは立ち上がり少し離れると、庭の広いところに立った。


「見ていろ」


 ニアは右手を大きく上空へ掲げた。


盾鉄の誓(アイアン・ハート)


 ニアが何かの名前を呟くと、空から稲妻が降り注ぎニアの右手へと落下した。

 稲妻の落下とともに、ニアの右手からは激しい閃光が放たれた。

 俺は眩しさを遮るよう顔に手を掲げて目を細めた。


「これが私の武器、盾鉄の誓(アイアン・ハート)だ」


 ニアの右手には巨大な盾が現れていた。

 落雷の衝撃を物語るように、ニアの足元は焦げ、体には雷光が(ほとばし)っている。

 空へ掲げる右手に携えた盾を下ろすと、ドスンッと大きな振動を起こして地面にめり込んだ。


「す、すげぇ……」


「試しに持ってみるといい」


 俺はニアに誘われるがままに、地面に突き刺さる盾の元に向かう。

 盾の全体は黒く、表面には銀色で縁取りされた装飾がされている。形は下部に向けて細くなっており、西洋の棺桶のような形をしている。

 俺は盾の後ろに立つ。近くにいるだけでも静電気のようにバチバチとした感覚が襲ってくる。

 持ち手は……これか、力を込めて一気に行くぞ。


「重……ッ! なんだこれ、持ち上がらない……ッ!」


「ふっ、そうだろう」


 ニアは得意げな顔を見せた。

 こんな重いものをニアは軽々と持ち上げていた。一体どうなっているんだ?


「魔力の使い方に秘密があるんだ」


「魔力の使い方……?」


「知っているか。人間は常に力を抑えているという。何故なら、力を制御しなけければ日常生活が困難になるからだ」


 聞いたことはある。

 人間は無意識にリミッターをかけていて、むやみに力を出さないよう制御しているらしい。

 重いものを持とうとして力を込める。そうやって必要な時にだけ力を使えるよう制御して生きているんだ。


「だが、力の制御を魔力で行うとどうなるか」


 ニアはジェスチャーで俺に離れるよう指示し、盾の前に立った。

 俺は離れた場所からニアを眺めると、ニアはおもむろに盾を持ち上げた。

 盾は先程までの重さを感じさせることなく、軽々と持ち上がっている。


「私は力を出さずとも重いものを持てる。重いと感じる感覚を、魔力が肩代わりするんだ」


 魔力で筋力を上げているのか? それとも、魔力で盾そのものを軽くしているのか?

 いや、見た感じどちらも違う気がする。例えるなら、パワードスーツだろうか。

 本人や物に直接、変化をさせるんじゃない。『持つ人数を増やす』ように補助しているんだ。


「って、我ながらイリスみたいな考察をしている……。何だか複雑な気分だな」


「ふんッ!」


 ニアは盾を振り回して魔力の使い方を見せてくれている。

 あの盾の重さがそのままなら、攻撃を受けるなんてたまったもんじゃない。

 怪我で済むはずもないだろう。形が残ってたら幸運(ラッキー)ぐらいの感覚だな。


「……だけど、問題があるとすれば」


「ああ、魔力の消耗が激しい」


 ニアは盾を再び地面へと下ろすと、すぐにお腹を押さえた。

 ……まさか。


「すまない、何か食べ物をくれないか?」


「燃費が悪すぎる……」


 俺は仕方なくニアをキッチンに連れてきた。

 リビングに人影はなく、実験室から話し声が聞こえている。


「まぁ、エニグマにおやつを用意するつもりだったし……」


 問題があるとすれば、ニアが食欲旺盛であることだ。

 どうしてそこまで食い意地があるのか、その謎は解けた。

 とはいえ、ただでさえ節約中なんだ。このままだと今日の夕食すらままならなくなる。


「アイト、キミは本当に料理が上手なんだな」


「急にどうしたんだ?」


 俺が食料棚の惨状とにらめっこしていると背後からニアが声を掛けてきた。


「最初に会った時に作ってくれたもの、とても美味しかった」


「お、おう。……でも、あれは間に合わせだったけどな」


「それでもだ! その、私ばかりでは気が引けるんだ。何か手伝わせてくれないだろうか?」


 ニアは真剣な表情で俺を見る。

 本当に手伝いをしたいようだ。だが、ひとつだけ懸念点がある。


「手伝ってくれるのはうれしいが、せめて鎧は脱いでくれないか……?」


 ニアは驚愕の表情を見せた。……いや、なんでだよ。

 両手にはゴテゴテのガントレット。歩くだけでもガチャガチャと鎧の擦れる音が響いているんだ、そんな恰好でキッチンに立たせるわけにはいかない。


「その、どうしても鎧を脱がなければいけないのだろうか……」


「流石にそれじゃ無理だろ。包丁すら握れないんじゃないか?」


 ニアは考え込んでいるようだ。

 しかし、そこまで深く悩むことなのだろうか。


「……わかった。私も覚悟を決めよう」


 そんな大げさな。鎧を脱ぐだけじゃないか。

 しかし、ニアは顔を赤くして鎧を外す準備をしている。

 待てよ、その鎧って上から纏っているだけじゃないのか?

 鎧を脱いでも下にある黒いロングコートがあるんじゃないのか!?

 どうして顔を赤くしているんだ……!?


「待て待て! 悪かった! 俺が悪かった!」


「止めるな……ッ! 私は決めたんだ!」


「なんでそこだけは頑固なんだよ!!」


 俺は必死にニアを制止した。

 どうやらニアの鎧は服と一体化しているものらしく、鎧だけを脱ぐことは出来ないようだ。

 

「どうしても、駄目だろうか……」


 ニアはしょんぼりとして俯いている。餌をお預けにされた子犬のようで少々心苦しい。

 だが、ニアはどうしても手伝いをしたいようだ。全く、健気なのか頑固なのか……。


「じゃあ、せめて別の服に着替えるとかじゃダメか……?」


 ニアの表情が一気に明るくなった。

 こうなったら、どうにかしてでも手伝ってもらうしかなさそうだ。

 しかし、ニアは身長があるから俺の服しか着れないだろうな……。

 まぁ、満足したら元の服に着替えてもらおう。


「すまない、着替えまで用意してもらって」


 俺はニアに着替えを渡し、浴室まで案内する。

 相変わらず隣の実験室からは楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてくる。イリスとファラが仲良くなって良かった。

 とりあえず、浴室の扉を開けてニアに説明を……。


「あ、あれ?」


 浴室の扉を開けると、バスタオル一枚の姿で組み合っているイリスとファラがいた。

 ファラは全体的に小さくまとまったような体型をしている。控えめの主張だが健康的だ。

 対するイリスは、日頃から引きこもっているのが嘘のように引き締まった体型だ。しかし、所々の肉付きが良くメリハリがある。

 だが、声は隣の実験室から聞こえてたはず。どうしてここに……?


「いいから、出ていけ───ッ!!」


閲覧ありがとうございます。

ぼちぼち更新する予定ですのでお待ち下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ