[20]引きこもり魔女と希望の彼方
総集編です。
俺がこの世界に来てから、色々なことがあった。
最初は引きこもり魔女のイリスが『自堕落な生活』を続けるために、俺をこの世界に召喚したことから始まった。
そもそも、イリスは最強の魔女と呼ばれる英雄を祖母に持つ。そんな祖母に憧れて魔術アトリエで暮らしていたが、自堕落な生活を続けるうちに追い出されることになってしまった。
魔術アトリエの管理人をしているダンテおじさん、俺はオッサンと呼んでいる。
オッサンは保護者としてイリスを養ってきたが、自堕落なイリスに限界を迎えて追い出す決意をしたんだ。
イリスは何としても魔術アトリエから追い出されないよう悪あがきした結果、祖母の遺した『異世界から召喚する魔術』と出会った。これが、俺とイリスの出会うきっかけだった。
それからは、イリスの夢を知った。
イリスは世界を救った祖母、最強の魔女を目指して魔術の研究に取り組んでいる。
初めてイリスの魔術を見たときは感動を覚えた。怪我をした俺のことも、その身を削って助けてくれた。
だが、引きこもっているせいでその優秀な姿を人に見せる機会がない。故に、オッサンはイリスに引きこもってないで外で活躍してほしいと願った。
しかしそれは同時に、イリスが魔術アトリエでの暮らしを手放すことになる。
魔術アトリエは元々、イリスの祖母が使っていたらしい。実際、アトリエにはイリスの祖母が遺した大量の魔術書が所蔵されている。
この場所で、最強の魔女を目指す。そんな夢を応援したいと願った俺は、イリスとともに追い出そうとするオッサンを説得することに決めた。
オッサンの説得は正直、難しいものではなかった。
イリスの衣食住すべての面倒を見ていたオッサンの役割を俺が代わりに行う。幸運なことに、人の面倒を見るのは俺の得意分野だった。
だが、それだけじゃこれまでと変わらない。そこで、俺はオッサンの思いを確かめたうえで『一緒にイリスの夢を応援する』ことを提案をした。
正直、異世界に来たばかりの俺一人じゃイリスを養っていくのは現実的じゃなかった。だから俺は協力者を募り、その第一号をオッサンにしたんだ。
オッサンの協力を得て引きこもり魔女を養う異世界生活が始まった矢先、ある出来事が起きた。
白い謎の生物エニグマとの出会いだ。
エニグマは言葉を話せない。強いて言うなら『えぬぅ』だろうか。
ある日突然姿を現したエニグマに連れられてやってきたのは人気のない暗闇に包まれた森の中。そこで、俺とイリスは超巨大ロボットの頭ヘックスと出会う。
ヘックスは千年以上前にこの世界へとやってきた銀河の魔女。この世界にやってくる際に頭だけになってしまい、相棒であるエニグマがこの世界にやってきたことで再起動した。
エニグマがこの世界に来た理由は、イリスが俺を召喚する前に一度だけ、別のヤツを召喚したことが関係している。召喚の際にエニグマも一緒に召喚されたが、元々召喚された奴は元の世界に返され、エニグマだけはこの世界に留まった。
エニグマを感知して再起動したヘックスだったが、その起動時間は残り僅かしか残されていなかった。『最期にエニグマと会わせてくれた』その機会を作ったイリスに感謝の気持ちを込めてヘックスの知識の全て賢者の石を俺たちに授けた。
しかし、キューブを実体化する際に使った魔力で魔物を呼び寄せてしまい、俺たちは窮地に陥った。
ヘックスが本来、エニグマと一緒に故郷へ帰るためだった力。それを使って俺たちを助けてくれた。
力を失ったヘックスは消えた、相棒のエニグマと希望を俺たちに託して。
ヘックスと別れてから数日後、俺たちの元に小さな来客が訪れた。近くの村に住む少女、ユリンとの出会いだ。
ヘックスとの一件で魔物と戦った際に、イリスの魔術が多くの人の目に触れてしまい、魔術を恐れた村の人々がイリスを『危険な魔女』と噂するようになっていた。それを機に、危険な魔女への頼み事をするべくユリンがやってきたんだ。
ユリンの頼みは『お母さんの病気を治してほしい』というもの。ただの病気なら医者に頼るのが普通だが、危険な魔女に頼むくらいだ。
そこには大きな理由が隠されていた、ユリンの母親は竜痣病と呼ばれる不治の病を患っていたんだ。
俺とイリスは、ユリンとの約束を果たすため竜痣病の治療法を探した。そのヒントをヘックスの件で対峙した魔物に見出した矢先、ユリンまでもが竜痣病になってしまった。
ただでさえ危険な魔女として村の人々から避けられていたのに、ユリンが俺たちと関わったせいで竜痣病になってしまったという噂までもが流れてしまう。それでも、俺とイリスはユリンを助けるため、ユリンとの約束を果たすために治療法を探ることに奔走した。
そしてついに、苦難の末に竜痣病の治療法を開発した。これでユリンと、ユリンの母親を助けることが出来る、そう思っていた。
俺たちを待っていたのは村の人々からの心無い言葉だった。お前たちのせいで病が広がった、もう二度と姿を見せるな。そう言って石を投げられて怪我もした。
だが、その地獄を打ち破ったのは他でもないユリンだ。自分のせいで俺たちが勘違いされてしまった、それを許せなかったユリンは自らの意思を示して村の人々を戒めた。そのおかげで、ユリンの母親にも無事に治療を行うことが出来てユリンたち家族に再び笑顔を取り戻すことが出来たんだ。
「本当に、色々なことがあったな……」
俺は寝室のベットに寝転がり、天井を眺めている。
あれからユリンは、定期的に治療のため母親と一緒にアトリエへ顔を出すようになった。
母親も初めて出会った時とは一変して、優しい母親の姿を見せてくれる。ユリンも嬉しいだろうな。
そんなユリンたち家族のおかげか、イリスのことを『危険な魔女』だと噂する声は無くなった。
それでも、村の人々はあの日の出来事、俺たちに浴びせた心無い言葉を悔いているのかお互いに微妙な関係が続いている。
「イリスも、しばらくは村に行けないって言ってたしな、まぁ仕方ないよな」
何よりも、俺が気にかけていることがある。それは、イリスに投げられた石ころ。
投げたやつを責めたいんじゃない、俺はあの場所いてイリスを守ることが出来なかった。
俺がこの世界にいるのは、イリスの夢を応援すること。そして、イリスを養うことのはずなのに。
「主人を守れない使い魔か……」
ヘックスと出会ったあの場所でも、真っ先に魔物に立ち向かったのはイリスだった。
俺はこの世界の人間じゃないし、特別な力があるわけでもない。
だからといって、全力で応援したいって思ってる奴を見殺しにするほど俺は弱くない。
そう思っているのに。
「悔しいな……。あいつを助けるとか言って、肝心な時は助けられてばかりだ……!」
イリスは言った。魔力は誰にでもあるものだと。勿論、俺にも存在しているらしい。
だが、俺には魔法なんて使えない。尚更に魔術なんて、遥か遠くの存在だ。
ヘックスは言った。越えなければならない試練が訪れると。それは、ユリンとの出来事だけじゃない。
これから先、常に俺たち……。俺に降りかかってくるだろう。
強くなりたい。具体的にどんなものかはわからない。
ただ、イリスを守れるような力が欲しい。日常を守れる力が欲しい。
「俺にできなかったことを、もう一度ここで成し遂げるために」
元の世界では散々な毎日だった。
でも、俺には休日の全てをバイトに費やしてまで、やらなければいけないことがあった。
あいつのため、あいつに許してもらうため。
「なぁ、俺はいつ許されるかな。リサ……」
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