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[16]引きこもり魔女と最後の希望Ⅳ


 俺はエニグマを手に抱きながら暗闇に包まれる森の中を進み、同行しているオッサンは先頭に立って草木をかき分けている。

 こんな夜中に一人で出ていってしまった少女、ユリンを探すためだ。


「えにゅっ!」


「エニグマ、近いのか?! あれは……」


 エニグマが反応を示した方向を見ると、そこには一枚の紙切れが落ちていた。

 これはイリスの魔術書の切れ端のようだ。どうやらユリンが魔術書を持ち出したのは間違いない。

 イリスの魔術書は少々特別で、あらかじめ保存された魔術をページを切り取るだけで使えるという便利なものだ。それを使ったということは、ユリンに危険が迫っていたということだろう。


「急がないと……!」


「おい、あれを見ろ!」


 オッサンが何かを見つけたらしい。

 どうやら魔術書の切れ端が等間隔に落ちているようだ。まるで、道を示すかのように魔術を使って痕跡を残したのだろうか。これを辿っていけばユリンが見つかるかもしれない。


「ユリンッ!!」オッサンが叫んだ。


 ユリンを見つけたようだ。地面に倒れていたようで、オッサンはユリンを抱きかかえた。

 しかし、どこか様子がおかしい。オッサンの背中越しに抱きかかえられたユリンを見た。


「これは……」


 ユリンの顔は黒い痣で覆われていた。間違いない、竜痣病(りゅうしびょう)だ……!

 足から手の平にまでびっしりと竜のような黒い痣が広がっている。

 でもなんでユリンが? この短時間でここまで進行するのか?


「まずは連れて帰るぞ、話はそれからだ」


 ユリンをアトリエまで運んだ。

 リビングのソファに寝かせたユリンは、息苦しそうに呼吸を荒げている。


「どうしてユリンちゃんまで……!」


 イリスはユリンの手を握っている。その手は青白く光っていて、魔術で治療をしているようだ。

 だが、竜痣病は不治の病だ。この子の母親も同じ病に侵されている。

 原因はなんだ? 親の遺伝? それが急に発症するものなのか?


「この子はしばらくここに寝かせよう。母親には私から説明しておく。だが、この子が竜痣病に罹ったことはしばらく伏せておく……」


 オッサンなりの精一杯のフォローだ。

 この状況を見たら誰がどう考えても『危険な魔女』がユリンを竜痣病にしたと思うだろう。

 そうなれば、イリスの夢はおろか俺はこの世界にすらいられなくなる。ダンテのオッサンもただでは済まないだろう。


「……ごめんね、あたしが、あたしが何もできないから……っ!」


 イリスの声は震えている。

 お前のせいじゃない。そう言いたいはずなのにどうしてか言葉にできない。

 あの時、俺がユリンを追い返せばこんなことにはならなかったんだろうか。

 イリスを説得して、ユリンの頼みを聞かないようにするべきだったのだろうか。


「……ふざけんな」


 俺はつい、自分への怒りを言葉にした。

 後悔している暇があるなら、今この状況を何とかする方法を考えろ。

 竜痣病を治療する方法、せめて進行を遅らせる方法でもいい。どうにか、ユリンを助ける方法を考えるんだ。


「もしも、もしもあの魔物が竜痣病に関係があるなら……」イリスが呟く。


「あぁ、もうそれしか俺たちに希望はない」俺はエニグマを抱きかかえる。


「お前ら……」


「オッサン!」「おじさん!」「えにゅっ!」


 俺とイリス、エニグマの声が重なった。目的は同じのようだ。

 イリスと目を合わせ、勢いよくオッサンに向かい合う。


おやつ!(おやつ!) いっぱい用意(いっぱい用意)しておけ!(しておいて!)」「えにゅ!」


 オッサンは俺たちの言葉を受けて呆気に取られている。

 だが、すぐにその意味を察したのだろう。険しかった表情を崩して頷いた。


 ここからが正念場だ。俺とイリスは実験室へ向かい竜痣病を治す方法を探る。

 必ず、ユリンとユリンのお母さんを助けてみせる。


「しかし難しい問題だ。そこでまずは、あの魔物たちについて覚えていることを出していこう」


「うん、あの魔物たちはヘックスの魔力に集まってきたんだよね」


 俺とイリスは過去の出来事、魔物たちと対峙した瞬間を思い出す。

 正直、俺はヘックスの中からモニター越しに見ていたからハッキリ見たわけじゃない。

 強いて言うなら魔物の死体、あれはグロテスクな光景だった。


「あたしの魔術が効かなかったし、元々魔術とも関係が強い種族なのかも?」


「だとしたら竜痣病は魔術と関係があるのか? でも、ユリンもそのお母さんも魔術が使えるとは思えないが……」


「そうなんだよねぇ。魔術は誰にでも使えるものじゃないから、どちらかと言うと魔力の方が問題になっているかも」


 難しい話になりそうだ。

 俺はこの世界の人間じゃない。生まれつき魔力と向かい合ってきたやつにしかわからない感覚があるのだろう。だが、俺にはさっぱりわからん。


「イリス、ちょっとした疑問なんだけど『魔力は誰にでもある』ってことは俺にもあるのかな?」


 イリスはポカンとした。

 こいつは何を言っているんだ。とでも言いたげに懐疑的な視線を向けてくる。

 そんなにおかしいことを言ったつもりはない。……え、いや本当にそのつもりはない。


「……アイト、あたしの血をぺろぺろしたこと忘れちゃったの?」


「またその話かよ! もう許してくれよ!」


 いや、そういえばそうだ。確かあの時、俺がこの世界に来てオッサンに殴られた後。イリスは自分の魔力を渡して怪我を治すとか言ってた気がする。

 それに、今回ユリンを見つけるのにエニグマがイリスの血を使った。オッサン曰く、血には魔力が含まれているらしい。


「あのさ、魔力って食事とかで増えるんだよな? 増えたらどうするんだ?」


「正確には、魔力を含むものを摂取したりして体内に入ると循環するの。魔力は頭からつま先まで全身を巡っていて、余分な魔力は代謝活動を通じて体から勝手に抜けていくんだよ。前に話した、人にはそれぞれ魔力の貯蔵量があるって話もここに繋がるね」


 だから血には魔力が含まれているのか。

 食事をして魔力が回復するのも、実際には魔力を含んでいる材料が影響しているだけ。回復することが目的なら、魔力を含んでいれば何でもいいって訳か。


「でも、俺に血を渡すだけで傷が治せるってだいぶ便利だよな」


「あのね、アイト。あれは緊急かつ非常事態だったから仕方なくやったことなんだよ! 魔力にはね、濃度があって、直接渡すのは本来やっちゃいけないことなんだよ!」


 濃度? なんだそりゃ。また訳が分からなくなってきた。


「普通の治療魔術は、簡単に言うと『治療する相手の魔力濃度に調整した魔力を渡している魔術』なの。だけど、何も調整せずにいきなり渡したら魔力量が不安定になって……」


 説明を話半分に聞いていると、イリスが突然話を止めて頭を抱えだした。


「……ヘックスの魔力に集まった魔物たちの目的が魔力を得ることなら、魔物たちはどうやって魔力濃度を調整しているの? 高濃度の魔力をいきなり食べたりしたら魔力量が不安定になってお腹を壊すどころじゃないよ。下手したら死んじゃうかもしれないんだよ……?」


 イリスがぶつぶつと早口で何かを言っている。俺は置いてけぼりだ、どうしたものか。


「そうなると、魔力を得ることではなく魔力を蓄えることが目的? でもどうして? 自分の体を犠牲にしてまで魔力を集める理由はなに?」


「あ、あのイリス……?」


「わかった! わかったよアイト!」


 反応に困る。どうやら何かをひらめいたようだが、俺には全くわからん。


「あの魔物たちの目的はよくわかんないけど、竜痣病の原因を見つけたんだよ!」


「なっ、なんだって!?」


 衝撃の一言だ。あの不治の病の原因に気が付いたというのか。

 この一瞬で思いつくとは、やはりお前は天才だなイリス!


 で、結局なにが原因なんだ? 


閲覧ありがとうございます。

ぼちぼち更新する予定ですのでお待ち下さいませ。

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