02猫島ならぬ人間島
やってきましたリゾート島。
ぞろりぞろりと団体が到着早々、そわそわと体を揺らしています。
「お約束五箇条、もう一度復唱」
団体の指揮系統を統括するのは1人のエルフ。
白い方ね。
ダークエルフも居る。
ここはリゾート島なんかじゃない。
地球である。
地球のここはリゾート地じゃない。
エルフ達がずっと人間島人間島と言い放つのをエルフ1冷静な女エルフことリリシヤが眺める。
相変わらず雑音が小うるさいエルフ達であった。
こんなに冷たい対応をしているのは単に己が前世人間という存在だからだ。
元人間に人間を愛でる感性は最後までついてこなかっただけだ。
他のエルフ達が自分たち以外の存在を好きすぎるってだけの過剰反応。
見ているだけで暑苦しく、見ていられない。
ただでさえ構いすぎるのを見るのは同種族だとして、同じ感性を覚えると言うのに。
ただただ、暑苦しいことこの上無し。
見るのももうウンザリ。
この企画をやったのはあまりにうるさ過ぎる人間愛の暴走がデシベル騒音になっていたからだ。
前にちょーっと人間の映像を見せたらあっという間にこの生命体はなんだ!?と可愛いの声に埋め尽くされて溺れそうになった。
映像だけでメロメロになった。
人間が動物の赤ん坊にメロメロになるみたいなアレだ。
「触らない・抱きつかない・叫ばない・連れて行かない」
五箇条の最後を忘れている。
重複しているということは重々理解しているが、意味は同じでも必要なのだ。
「住み着こうとしない」
「「住み着こうとしない」」
この地球に住み着いても良い、なんてなった日には、全員異世界からお引越ししてもおかしくないくらい。
最後はかなり言い含めておかねば。
私は、まるで遠足に行きたがらない子供のように、異世界まで引っ張って帰りたくはないんだ。
映像だけで、毎日擦り切れるかと思うほどへばりつくように見ている彼が、現物を見たくなるのは当然のこと。
エルフ達は私含めて、全員が食物連鎖頂点と言っても良いほどの高スペックなステータスを持っている。
そういう観点ではなんの問題もないのだが、このままでは大量に誘拐してきそうな気迫を感じて仕方なく地球に向かったのだ。
先ずは異世界人として地球人と会談をしたりするために、コンタクトを取ろうとして向かおうとしたら、第六感が働いたらしいエルフ達に自分たちも行くと駄々を捏ねられた。
正直捏ねたところでなんとも思わず無視して行ったら力技で全員付いてきた。
魔法を使えるからなんでもありなんだよな、エルフ。
と、愚痴を言いたくなる。
先ずはどこに行くべきかと悩む。
こんなに美男美女の集団が集まっていて目立たないのは此処がまだ樹海の地だからだ。
取り敢えず、人間が沢山いるところにエルフという未知の生物が突然現れたらハザードになるので、常識的に此処へきた。
「ちょーっとおー!みてみてぇ!野生の赤ん坊見つけたわよ!」
と、担ぎ上げてきたのはきょとんとしたまま運ばれている幼女。
「まさかの五箇条のうち二箇条を早速破るとは……耳バットするべき?」
一人で呟いているとみんながデレッデレの顔で色々質問した。
どうやらこの樹海で迷子になったらしい。
その樹海度的に迷子になったら一発アウトな深さの位置に居る私達。
分かったことはやはり迷子。
そして、数キロ先に子供を探す声。
うん、完璧に探されている。
「かんわいい。ふふっ。ツンツン」
一人を皮切りにツンツンし始める。
この人数がツンツンしたら大変なことになるが、手加減されており平気そう。
あと、普通に触るな。
五箇条の触らないを破るな。
「ノータッチ!」
叱ると彼らは名残惜しそうに子供からちょっと離れる。
若干、皮一枚くらい。
意思弱いな。
「さっさと届けてツアー再開するよ」
「そんなっ、折角野生の人間を捕獲出来たのにぃ」
「野生の赤ん坊には親がいるの」
「娘さんをくださいって頼んだらくれるかな?」
「伝家の宝刀という、私の拳を丸めてそのまま殴りつけるやつやられたいの?」
結婚式の挨拶じゃないんだから。
アホの言動は無視してさくりさくりと樹海を移動。
エルフ集団にパニックにはなったものの、子供の迷子を告げて親を探すと慌てて親達が出てきて子供を抱き上げる。
そして、親子の感動場面に水……ではなくエルフがさらりと三人親子を包み込むように突き刺さっていた。
端的に言えば、纏めて抱きしめていた。
場違いが引き起こされている。
抱きつく、触る、二つに抵触していることを確認して指を振ると、驚きに硬直せざるを得ない親子からエルフを引っこ抜く。
「ふれあい禁止」
「あ、あ、ああああ」
涙を流すエルフに引いた顔をした人間達を横目にツアーは樹海から遠く離れた場所へ向かう。
そこは首相官邸。
今此処に居るとは限らないけど、アポイントは最低取れるかなって。
「きゃー!見て見てっ、人間よ!」
「ここは楽園だな」
「持ち帰りたーい」
「こっそりならバレないかも」
「そこ、バレてる」
指摘して注意した。
はぁ、面倒になってきた。
そもそも彼らは同行予定じゃなかったのに。
これもそれも彼が無理矢理押し通したからだ。
スマホを大量に向けられている。