芭蕉はやがて黒くなる
前書きのためのスペース
<今日は時間がないから早朝投稿だぜ>
弘...
「そうか、アリアちゃんは転生して魔法使いになりたいのか。俺はアリアちゃんを守る側近としてチート能力を授かって転生するぞ!」
弘…
「転生して得る能力はみんなからは馬鹿にされるようなやつだけどなんやかんや使い方次第で最強だよな。そしてピンチになったアリアちゃんを助けて俺はアリアちゃんの信頼を得て愛されて結婚して...。最強パーティを作って魔王討伐...そしてみんなからも褒め称えられるんだな」
弘...
「なんか、さっきからうるせぇな。俺とアリアちゃんの妄想を邪魔すんじゃねぇよ!」
バッと目を覚ました。弘は寝ぼけていてしばらくボーっとしていたが、部屋の扉を開いて真理子が立っているのを確認すると舌打ちをした。
「チッ、ババァ入ってくんじゃねぇよ」
真理子は表情を1つも変えず弘を見つめる。その表情はどこか悲しそうでどこか怖そうで頼りないものであった。それでも母親として一歩踏み出して声を発する。
「弘...ちょっとお話したいんだけど...」
弘は母親のそんな様子にえらく動揺したが、布団にまた潜り込んで喋り出した。
「で、何だよ話って」
普段暴言を吐いている息子からは想像もしえない従順さで真理子はやや驚いていた。弘の部屋のカーテンの隙間から太陽光が眩しいぐらいに溢れ出ていたが、弘のいる布団のあたりは想像以上に暗い感じがした。
「私とちょっと散歩しない?」
「は?しねぇよ!子供じゃねぇんだし!」
「私の子供はずっと私の子供よ」
「るせぇ、おめぇみてぇなババァとは絶対しない!」
「そう...」
しばらくの間沈黙が続いた。弘からは声を発することなく布団に突っ伏している。真理子は再び話しかける。
「先月のクレジットカードの請求が8万円ぐらいで、食費もろもろで4万円ぐらいかな。残りの4万円は何に使ったの?」
「おめぇには関係ねぇ話だろ!消えろや!」
部屋の中は散乱としていて異臭を放つレベルであったが、一部アニメキャラのようなフィギュアやグッズは奇麗にされてあった。その中には当然、音芽アリアのものも含まれていた。
「クレジットカードを勝手に使われることについてはもう諦めてるけど、弘ちゃんさ、実は私さもう働けそうにないの。だからさ...」
「あぁ、そうですか、そうですか!俺に働けって言いますか!」
「でも、いきなりは大変だからさ、外に出て慣れて...」
「生活保護があんじゃん。それ貰えば生活できるじゃん、頭使えよバーカ」
「それは...」
「それに俺本気出してないだけだから。本気出したら余裕で億稼げるから」
「だったら本気を出してください」
「俺が稼いだ金をおめぇに使われる未来しかねぇから」
「...」
「俺の勝ちだな、だから俺のためにこれからも働いてくださーい」
「待って、ちゃんと話を...」
「アリアちゃんの昨日の雑談配信だろ?そこだけ見て俺のことだと思ったの?俺はそんな雑魚ではありませーん」
真理子は図星をつかれ動揺する。弘は布団から出て母親の方に立ち向かっていく。弘は体が大きく真理子を見下すような視線になる。
「それかもしあのコメントをお前が送ったのだとしたら許さねぇ。アリアちゃんにとんだ毒を食わせんじゃねぇよ」
そう言って真理子の胸をどついた。真理子はよろめいて足から崩れる。弘は部屋に転がっていたアルコール飲料の缶を真理子に強く投げつけバタンッと大きな音を立てて部屋の扉を閉じた。真理子は涙をこらえ廊下に落ちた缶を拾う。飲料から飛び散った水滴に映る自分の顔は何も見えなかった。
芭蕉とはバナナのことです