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第9話 帝都へ

「お願いします。本当にお願いします……」

「そこまで懇願するとはよほどお城での暮らしが嫌だったようですね」

(ぐっ、この人すんごいお見通しだ……ちょっとここまでくると怖い)


 カーリアン様に嘘をつくのは無理だ。どこか見透かされているような気分になってしまう。優しい方だとは思うんだがどこか得体の知れない感じもする。


「スープ美味しいですか?」

「あ、はい。とても食べやすくて美味しいです」


 今食べている小さなパスタは耳たぶの形とは違って本当に粒のような形をしている。まるでおかゆを食べているような感じだけど、お米とはまた食感は違うかもしれない。


(でも美味しい。アーネスト帝国はリュシアン王国とは食事に違いがなさそうな気はしてたけど、やっぱり。そうだ。カーリアン様におすすめのメニューを聞いてみようかしら)

「あの、カーリアン様。この国のおすすめの料理って何かありますか?」

「私が好きなのはチーズのパンですかね。小麦粉を練った生地を薄く円状に広げてその上にチーズをのせてから窯で焼くんです。とても美味しいですよ」


 チーズはリュシアン王国でもよく食べられていたものだ。なるほど、それは聞いただけで美味しそうだと感じる。


「もしよかったらそのパン食べてみますか?」

「いいんですか?」

「ええ、ぜひ。好きなだけ食べてください」

「ありがとう、ございます……」


 話しながら食べていると気が付けばスープを完食できた。そういえば頭痛も吐き気もほとんど無くなったような。


「完食されたんですね。口にあったようで何よりです」

「いえいえ。とても美味しかったです」

「アーネスト帝国の料理は格別ですよ? 楽しんでください。ああ、それと」


 カーリアン様の口角が少しだけ跳ね上がったように見えた。


「ジャンヌ様はこれからどうなさるおつもりで? もちろんここにいたいようでしたら死ぬまでいてくださって構いませんけど」

(あ、そうだよね、聞かれるよね……でも死ぬまでこの屋敷に居てもいいのかな)

「それで考えている事があるんですけど……ジャンヌ様。ルーンフォルド家で暮らしませんか?」

「え?」


 思ってもみなかった事をカーリアン様から言われ、私は思わず声を出す事が出来ないくらい驚いてしまう。いやいや、そんないきなりルーンフォルド家でお世話になっても良いのだろうか?


「もっと言うとあなたと婚約・結婚してあなたをお守りしたいとも考えています。勿論本当でも、お試しでも、契約婚でも」

「えっ?! ……お気持ちは嬉しいです。けど……」


 カーリアン様が私と結婚?! そんな事をいきなり言われて動揺が止まらないのと同時に婚約に対するネガティブな感情が湧いて出て来る。それはカーリアン様もお見通しのようだった。


「今は婚約する気にはなれない、という事でしょうかね」

「そういう事です。まるでカーリアン様に心を見透かされているようですね」


 そうはっきり言うとカーリアン様はよく言われます。と穏やかな笑みを崩さないまま返してきた。もしかしたらこの他人の心を見透かすような発言を女帝陛下は気に入っているのかもしれない。


「その辺はあなたの自由です。こちらから無理強いする事は決してありませんのでご心配なく」

「いえ、こちらこそなんかすみません」

「どうして謝るんですか。悪いのは王太子殿下とあなたの妹君でしょう?」


 このタイミングでカーリアン様は私の両手をそっと握りしめた。温かい彼の温度が手から全身へと伝わっていく。


(温かい……)


 それにカーリアン様の手をまじまじと見ていると爪は短くカットされていて、指は全体的にごつごつとしているように見え、更に節々は太く使い古されたかのような手つきである。これはどこからどう見ても平民ないし農民の手指だ。貴族の手指じゃない。


「……温かい手をしていますね。それにごつごつしていて」

「貴族の指は男女とも美しいのが常とされていますよね。特に女性はそう。しかしながら平民の考えに暮らしに寄り添い政策を打ち出すには平民と同じ目線になって考えた方がよりよい政策を打ち出せる。だから私は視察に訪れた時などは農作業を手伝ったり織物などもこなしたりしています。だからでしょうね、指がごつごつとしているのは」

「……努力のたまものですか」

「そうかもしれないですね。女帝陛下も機織りに庭園の整備に料理に裁縫をこなしてきました。自分でやれる事はなるべく自分でするのがモットーで、王家の農地に行かれた時は農作業などをよくしています」

(これがアーネスト帝国の強さか)


 貴族だから、皇族だからと怠ける事無く平民と同じように作業をし彼らとの相互理解を深める。これがアーネスト帝国の強さなんだろう。だからこそフミール族と同盟を組めたのかもしれない。


「素晴らしいモットーですね。おおよそリュシアン王国には無かった考え方かもしれません」

「そうですか。アーネスト帝国とはそういう帝国です。よく恐ろしい国だなんて言われますけど」

「カーリアン様と話しているとそのようには感じませんね」

「そうですか」


 それからはみるみる体調も良くなり、カーリアン様とは政治から互いの趣味嗜好まで様々な話をしながら彼の言っていたチーズのパンを食べたり小さなお茶会をしたりして過ごした後は帝都にあるルーンフォルド公爵家の本邸へと移動したのだった。

 

 ルーンフォルド公爵家の本邸はクロード公爵家の屋敷よりも更に広い。宮廷のあるお城と同じくらいの広さはある。

 白と金で彩られた屋敷はまさに美しいの1言に尽きる。


「わあ……」


 馬車から降りると金色の巨大な門がぎい……とゆっくり開かれた。この金色の門、巨大さは勿論の事複雑で緻密な金細工も施されている。


「公爵様、おかえりなさいませ」


 玄関に並ぶメイドや使用人達が一斉に頭を下げてカーリアン様を出迎えた。


「皆さん、このまま大広間へと向かってください」

「はい、公爵様」


 向かった先の大広間は大理石の床に絵画と黄金に彩られた壁と天井。圧巻の内装である。

 カーリアン様は私をメイドや使用人達の前に立たせた。


「皆さん、この方が今日からこの屋敷にて暮らす事になるジャンヌ・クロード様です。どうかよろしくお頼み申し上げますね?」


 

あとがき

カーリアンの言っていたチーズ乗せパンはチーズピザみたいな感じです

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