表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/43

第8話 カーリアン様

「……ンヌさま、ジャンヌ様!」


 誰か……若い男性が私を呼ぶ声が聞こえて来る。どこかで聞いた事のあるような声だ。ゆっくり目を開くと天使に聖職者などが描かれた絵画に彩られた派手な天井が目に飛び込んでくる。


「気が付きましたか、ジャンヌ様」

「あ、あなたは……」


 声がする右側に顔を向けるとそこにはカーリアン様が心配そうな顔をしてしゃがんでいるのが見えた。


「あの、あなたはカーリアン様で……?」

「はい、覚えてくださっていましたか。ジャンヌ様」

「一応、時々見たり名前を聞いたりはしていましたので……」


 カーリアン様。カーリアン・ルーンフォルド公爵。

 彼はルーンフォルド公爵家の若き当主で大臣の1人。彼の母親はアーネスト帝国皇帝である女帝陛下の妹と聞いている。だから女帝陛下の甥にあたる彼は「女帝陛下のお気に入り」である。

 そんな人物が今、私の傍らにいる。


「あなたは山で倒れてました。そこを従者が運よく発見し山を越えて屋敷に連れ帰ってきました。1人トランクを持って移動するという事はかなりの訳ありだったんでしょう」

「そ、そうだったんですか……」


 訳ありなのを見抜いてここまで連れてきてくれたのは感謝しか思い浮かばない。


「ありがとうございます」

「いえいえ、当然の事をしたまでです。医者に診察させて気つけ薬を飲ませたのでもう大丈夫かと」


 気つけ薬……確かに何かを飲み込んだような跡が少しだけ口の中に残っているが味までは残ってない。もしかして無味無臭の薬だろうか。

 

「お食事食べますか? おなかすいたでしょう?」

「頂けるんですか?」

「勿論です。ではご用意いたします」


 あ、そういえばさっき屋敷に連れて帰ったなんて事をカーリアン様が言っていたのを思い出す。なのでここはどこなのかちょっと聞いてみる事にした。


「今、私はどこにいるんですか?」

「アーネスト帝国とリュシアン王国の国境近くにある屋敷です。うちは別荘も入れると5つ屋敷を所有していましてそのうちの1つとなります。本当は帝都までお連れしたかったんですがね」

「じゃあ、ここはアーネスト帝国になるんですか?」

「はい。そうですよ」

「ああ、よかった……」

「その反応、どうやら訳ありのようですね」


 ずいっとカーリアン様の顔が私に近づく。もしかしてこの人は……知っているのだろうか。


「カーリアン様。お食事お持ちしました」


 メイドが1人部屋に現れる。そしてカーリアン様へ白い器をシルバートレイごと差し出した。


「うん、これなら食べられるだろう。ジャンヌ様。小さなパスタ入りのスープです。食べられますか?」

「! 食べます!」

「じゃあ、食事をしながらお話を聞きましょうか。最初に私はあなたをリュシアン王国へ送還するつもりはない事だけお伝えしておきます」

(本当かどうかまだわからないけど……とりあえずは安心して良いのかな?)

「本当ですか?」

「勿論です。あなたの望みにお任せします」

「じゃあ、それでお願いします。私出来るなら死ぬまでアーネスト帝国にお世話になるつもりだったので」


 そう告白するとカーリアン様はやはりね。とでも言う風に2度頷いた。

 よし、ここは包み隠さず全てお話しよう。


「私、実は婚約破棄したんです。王太子殿下と」

「ジャンヌ様……それはお労しい事でございました。何かあったのですか?」

「王太子殿下はうちの妹と関係を持っていました。そして妹は妊娠していたんです。それで王妃様からの教育にもあれこれ思う事があったので全て妹に投げ出して逃げてきました」

「……最低ですね。王太子としてあるまじき事です。側室を持つにしてもまず正妻と結婚してからでしょう、普通は」


 カーリアン様の顔には怒りのような感情がにじみ出ているのがよく見える。それを見た私には嬉しさを感じていた。

 同情して彼に怒ってくれているのが、嬉しいのだ。 


「怒ってくださり、ありがとうございます」

「こんなの怒って当然でしょう。女帝陛下もお怒りになるのが手に取るようにしてわかります」

「しかも、妹以外にも女遊びしていたようで」

「王太子にあるまじき行為ですね……」


 はあ、と大きく肩で息を吐き呆れた表情を見せたカーリアン様。私、こんなに酷い人と婚約していたのかと改めて考えさせられる。しかも何も知らないままで。


「婚約破棄して当然です。あと、来月またリュシアン王国で王太子殿下と会談する予定でしたが……キャンセルする事にします。女帝陛下にもこの事を報告しても構いませんか?」

「私がここにいるという事を、ですか?」


 私とレーン様が婚約破棄した事くらいは報告しても大丈夫だろうけど、私がここにいるのはあまり広まったらいけないような気がする……。どこからか嗅ぎつけて両親がここまで来たら嫌だ。


「すみません。私がここにいるのは伏せてください」

「わかりました。では「ジャンヌ・クロード公爵令嬢は王太子殿下と婚約破棄をした」のと「王太子殿下はジャンヌ・クロード公爵令嬢の妹とただならぬ関係にあり、妹は妊娠した」という2点を報告させていただきます」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ