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第5話 王国の影

「正直2人にはあまり良い印象は抱けませんね」

「そうなんですか?」

「だって王妃様は正直政治の才能は無いと思います。病に倒れた国王陛下に代わって女性ながら政治を行っているのは素晴らしい事ですけど。向いているか否かで言えば向いていないなっていう声は商人からはよく聞きます。だからおれもそうだと思ってしまいますね」


 商人からもあまり良くは思われていないようで、それが庶民にも影響をもたらしているようだ。そりゃあ庶民はガラテナ王妃と顔を合わせる機会なんて一生に一度あれば良い方だ。だからガラテナ王妃の才能はさておきこうして悪評を信じてしまうのだろう。


「それと王妃様最近王家の離宮を改修しているんですよ。おれそこに仕事で行ったんですけど、前は質素な造りだったのがすんごい贅沢で豪華になっててびっくりしました」

「もしかしてあの泉の離宮ですか?」

「そうです! 噂じゃ軍事費の一部を転用してるだなんていう噂も聞きましたけど……それにしてもあんなお城以上に金きらきんで黄金まみれな離宮になっててびっくりしましたよ」


 泉の離宮。王家が所有する離宮の1つで北方にある事から夏の避暑地でもある。白亜の宮殿で質素な見た目で私も領地視察の合間にひっそり見た事があるけどそんな黄金は外装には使われてないしきらきらした見た目でもなかったはずだ。


(いつの間にそんな事に……)

「それは知りませんでした。まさか泉の離宮がそんな事になっていたなんて」

(ていうか途中で泉の離宮通るかも。ついでに見ておこうかしら)

「そうですよ。あと王太子殿下ですが女関係だらしないので有名ですね」

「えっ」


 え、女関係がだらしない? もしかしてメイリア以外に女がいると言うの? ここに来て私は頭を殴られたかのような衝撃を覚えてしまう。

 

「あ、その前にもう山を下り終えます。おれは街へ行く予定ですけどこのまま乗っていかれますか?」

「あの、街へ行った後は……?」

「一応荷物を変えて泉の離宮まで行く予定です。そこが終着点ですかね。あなたはどちらまで?」

「あ……」

(どこまで言ったら良いのかしら)

「とりあえず国境付近まで」

「それなら泉の離宮がある町から安い馬車が出てますからそれに乗ったら良いかと。でも泉の離宮につくまでに夜になりますからねえ」


 確かに夜通しこの人を移動させる訳にはいかない。


「じゃあ、街までで良いですよ」

「わかりました。じゃあ話に戻ると王太子殿下はよく娼館に通われてるんですよね。これはおれ含めて結構な人が目にしているはずです。それに貴族の令嬢10人くらいとそういう関係にあるとも聞きました」

「げっ」


 思ったよりも人数が多すぎて衝撃を超えて吐き気を催してしまった。いや、メイリアだけじゃなかったのか……。

 これは婚約破棄して正解だった。まだ少しだけ残っていたレーン様への未練は全部残らず消えてしまう。


「女遊びが激しいのですね……」

「街にある娼館全てに通っているんじゃないですか?」

「そんなに?!」

「本人は婚約者だなんていらないなんて言ってるって噂も聞きましたね。ジャンヌ様はかわいそうだ。あんな酷い男と婚約したのだから」

(そうか、私はかわいそうなのか……やはり私はいらない存在だったのか)


 彼の知らない顔を知った私。世の中には知らなくて良い事もたくさんあるだろうけどこれは知った方が良かった事に当てはまる……かもしれない。

 その後街へと到着し彼とはお別れして1人街を歩き始めた。

 カラフルで大きなアパルトマンが幾重にも立ち並んでいて見るだけで楽しくなってくる。


(とりあえずここから泉の離宮に近い街までは移動したいわね。リファーの街なら領地じゃないから大丈夫かしら。領地だと両親に見つかったら困るし)


 馬車が無いかを見て回ると馬車は案外すぐに見つかった。しかも空車の馬車が4台くらい並んでいる。そのうちの1台に座って客引きをしている御者に話しかけてみる。


「すみません。リファーの街までお願いします」

「かしこまりました」


 馬車はオープンタイプのもの。貴族や王族が乗るタイプよりかは簡素だけど1人で移動するならこれくらいでちょうど良いだろう。

 座席に座り、足元によいしょとトランクを置くと御者が馬に指示を出し、馬車はごとごととゆっくり加速しながら進み始めた。

 オープンタイプの馬車なので身体へ直に風が当たって気持ちいい。まるで風と共に漂っているような心地よさを感じる。


(ちょっと座席は硬いけどそれ以上に風が心地よいわ。気持ちが良い)


 でも帽子が取れてはいけないので常に手で押さえておく必要がある。そこは我慢しないと。

 馬車はどんどん加速していきあっという間に城から一番近い街を出て郊外の田畑が広がるエリアへと入る。道は石で舗装された石畳の道から舗装されていない土と砂の道へと変わる。馬車の車輪からはむわっと小さな砂煙が舞い上がっては風に流され消えていく。

 ここはちょっと古めのレンガ造りの住居がぽつぽつと建っていてそれ以外は森と田畑で全て覆い尽くされているような環境だ。田畑には農作業をしている人達のすがたもまばらに見える。


(領地の視察でもよくこういう所には行っていたわね……)

 

 領地の視察でもこのような場所にはよく行かされていた。都会とはまた違う静かな雰囲気で、冬になると雪がすんごい積もって幻想的な景色になるし満点の星々も眺められる。


「そろそろつきますよ」


 気が付けば日が傾きオレンジ色の空が見え始めている。日暮れが近いとなると早めに宿を確保して休まなければ。


「わかりました」


 延々と続いていてた田畑の景色からまた建造物が多く立ち並ぶ街へと景色が変わっていく。また道も舗装されていない土と砂の道から舗装された石畳の道へと変わった。

 

「どうしますか? 街に入ってすぐの所で止まります? それとも宿まで向かいます?」

「おすすめの宿があるんですか?」

「はい。良いのを知ってます。よく旅人や旅行で訪れる貴族らが泊まる宿にはなります」

「じゃあ、そこまでお願いします」

「了解しました」


 それから到着した宿はアパルトマン1棟まるごと宿となっている場所だった。これくらいの大きさなら空き部屋もありそうだ。

 馬車からトランクを持った状態で降りて御者に料金を支払う。御者がご婦人1人わけありっぽそうだからおまけしておくよ。と言って大幅に値下げしてくれたおかげで思ったより出費は抑えられた。

 宿へと入ってみると中年くらいの白いエプロン姿の女性が受付に立っている。


「すみません私1人なんですがお部屋空いてます?」

「ええ、空いてますよ。2階から5階までのどこにされます?」

(2階にしよう。階段上がるのめんどくさいし)

「じゃあ、2階で」

「かしこまりました。ご飯はまだ?」

「ええ、まだ夕食は食べてないです」

「じゃあ、準備するわね。私についてきてくれる?」

「はい……!」

 

 階段を上がり茶色いドアに3番と書かれた部屋に入る。1つの階に部屋は5つほどあるようだ。


「失礼しまーーす……」

 

 ドアを開けると中は私のお城の自室を少し狭くして簡素にしたかのような部屋が広がっていた。ベッドは2つ配置されており、それ以外の家具はクローゼットと小さな机と椅子だけだ。シンプルだけど十分良い。


「お風呂は1階に浴場があるからそこを使ってください。これルームキーです」

「はい、ありがとうございます」


 手渡されたルームキーには木造りの大き目のタグがつけられている。そこに部屋番号が丁寧に彫られていた。


「夕食持ってくるから待っててくださいね」

(どんな夕食なんだろうか)


 そういえば久々に自由に食事を楽しむ事が出来るのか。



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