最終話 それぞれの未来・泡沫
カーリアン・ルーンフォルドとその妻ジャンヌ・ルーンフォルドはアーネスト帝国の公爵家として終生皇家に忠誠を尽くした。リュシアン共和国の初代総督夫妻としてのオファーもあったがこれを断ったのだった。
革命軍をなした大商人達は共和国の成人した全ての国民に投票権を与え選挙で総督や大臣を選び、崩壊していたリュシアン共和国を必死に建て直した。
選挙の結果革命軍の上層部だった大商人・ロスター・フォーリアダムスの長男ロイドが初代総督に選ばれた。ロイドはルーンフォルド公爵家夫妻とも交流を持った。
カーリアンはジャンヌと共に各地を旅して周り90歳でこの世を去った。ジャンヌは95歳で亡くなっている。
カーリアンとジャンヌの長女でひとり娘のヘレンは幼い頃こそジャンヌの妹で悪女と名高いメイリアを彷彿とさせるわがままで欲しがりな性格だったが、ある日を機に性格を改めた。後に本人は「実は幼少期の記憶が全く無いのよ。そこだけ抜け落ちている」と話している。
ヘレンは婿養子となるジェイドと結婚し、2男4女の子宝に恵まれた。娘達は様々な王家貴族に嫁ぎ、男子2人も大臣となっている。
ジェイドはアーネスト帝国のイブラヒム公爵家次男。良い縁談であると言える。
ガラテナは国外追放となり、アーネスト帝国の領地であるクラバヒム島に流罪された。その島にある教会で出家し死ぬまで夫や家族の菩提を弔いつつ静かに暮らし続けた。彼女は王家での暮らしは後悔しかないと語っている。
なお、彼女は刺繍をよくしていたのだが、島民にもそれを教えた所ちょっとしたブームになった。
メイリアとレーンはリュシアン共和国のどこかの墓地に埋葬された。埋葬場所は秘匿されているが、皆に教えると西部にある歴代王家の者が埋葬されている教会の地下室である。
火葬された2人はそれぞれ小さな埋葬スペースに埋葬されている。メイリアの小さな墓碑にはこう刻まれている。
「国を滅ぼした悪女に正義の鉄槌を」
「欲しがりは悪の道」
2度と彼女のような者が出ないように祈るばかりだ。
ーーーーー
目を覚ましたら、私は憔悴しきったお姉様に抱き抱えられていた。髪は乱れて汗塗れ。お化粧もしていない。不細工なお姉様。
「おめでとうございます!」
皆、おめでとうございますと口にしている。私……赤ちゃんになったのかしら。手が小さいし、なんか身体中ぷにぷにしているように見える。
「私の、娘……」
え、私……お姉様の娘になったの?
現実を受け入れられない。
「奥方様、授乳を」
「こ、こうでいいのかしら?」
一生お姉様のお世話になるというの?! そんなのごめんだわ!
私は大人しく授乳……のフリしてお姉様の乳首を思いっきり噛んでやる。お姉様はわざとらしく痛がった。いい気味だわ。
ほどなくして私にヘレンという名前がついた。時間が経つにつれミルクから流動食に食事が切り替わったがこれが不味くて不味くて。でも私は赤ちゃんだからこれを食べないと生きていけないのが理解できてるから我慢して食べた。
「えっ、ヘレンもう立って歩いたの?!」
それくらい記憶があるのだから当然でしょ? 何を驚いているのかしら。お姉様は大袈裟ね。
もしかして、私を認識出来てないのかしら。だってメイリアじゃなくてヘレン呼びだもの。
(悔しい)
それはなんだかメイリアとしての自分が忘れ去られたようで嫌だ。どうしたらメイリアを……私を思い出してくれるんだろう?
だから、同じようにわがままを言う事にした。生来私は我慢が苦手。好きな事をして、好きなものに囲まれて、好きなものを食べて生きていきたい!
「こんにちは」
ある日。私の目の前に神父様が現れた。神父様がロザリオを握り、私の目の前で祈りつつ、何やらブツブツ呪文を唱え始めた。
すると、私の視界が白くなる。
(え、何これ)
その時、後ろから女の子の声が聞こえた。
「私の身体、返して!」
私は女の子に背中を押された。同時に感覚というものが消えていく。
いや、いや! そんなのいや! 誰かたすけて! 私は忘れ去られたく……な、い。
私は満たされたかっただけなのに。
以上で完結となります。
最後のメイリアは転生ではなくヘレンの身体に憑依していたという形です。なお本人は無意識無自覚だったようで。なのでメイリアからすれば転生の方が感覚的には近いかもしれません。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。次回作もよろしくお願いします!