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第40話 幸せの終わり②

「なんですって?!」


 メイリアが革命軍から攻められていると知った時は、いつものように宝石だらけのアクセサリーを買い漁ろうとしていた時だった。


「王妃様、戦闘の指示を!」

「そんなの知らないわよ! どうすればいいのよ?!」

「私に聞かれても困ります!」


 メイドは怖くなったのか、それだけを言い捨ててその場から走って逃げ出した。


「戦闘の指示……? 何よそれ。わかんない」


 メイリアはただソファにだらしなく座るだけ。そんなメイリアに構わず城内の兵が指示を求めにやってくる。

 今、国王であるレーンは革命軍に捕縛されていないしガラテナは幽閉されたまま。指示を出せるのはメイリアしかいない。


「王妃様! 指示を!」

「何の指示をすればいいの?」


 質問を質問で返すメイリアに兵はええ……と呆れ果てながらも戦闘の指示です。と返す。


「そんなの知らないわよ。私は王妃よ? 戦闘の指示だなんて無理よ」

「ですが今、国王陛下がいない中城内で一番偉いのは王妃様です」

「えっ、そうなの?!」


 メイリアは途端に嬉しくなった。嬉しさのあまり顔をほころばせ目をキラキラと輝かせる。だって国で一番偉いのはこの私って事よね?! とメイリアは考えたのだった。


「じゃあ、邪魔者全員やっつけて!」

「だから、どうやっつけるのかを……」

「だぁかぁらぁ、そんなの知らない! 革命軍? 知らないけど全員殺しなさい!」

「兵を整えてすぐさま迎え撃て、という事でよろしいのですか?」

(わかんないけど、それでいっか)

「ええ! 迎え撃ちなさい!」


 メイリアの指示を受けた兵士達がぞろぞろと部屋から出ていった。


「私……今、国で一番偉いのね!」


 そうだ。一番偉いの。あのジャンヌお姉様より偉い! とメイリアは恍惚し、浸っている。

 

「素晴らしいわ! じゃあ、邪魔なやつらは全員殺さなくちゃ!」


 と手を広げて不気味に笑いながら語るメイリアだが、実の所おままごと程度にしか理解できていない。王家の誇りとかそんなもの、彼女には無い。


「王妃様! 敵が……!」


 兵士が慌ててメイリアの部屋に入ってくる。鎧の下は冷や汗と汗が混ざり合っていた。


「敵は全部殺して!」

「ですが、数が……!」

「がんばりなさいよそれくらい! 王家の兵士なら勝たなきゃだめよ!」

「ははっ」


 その後も兵士が代わる代わるメイリアの部屋に出入りするかメイリアは殺せとかやっつけろしか言わない。


「俺、もう兵士辞めるわ。投降する」

「俺も革命軍に投降しようと思う。あんな女の元で戦うなんてバカバカしいよ」


 そういう訳で、革命軍に投降する兵士が続々と増えて行った。


「投降する者はこちらに! 武器は全部その場に捨ててください!」


 革命軍やフミール族の兵士は投降してきた王家の兵士にそう大声で呼びかける。


「使用人、メイドの方! こちらに来てください!」

「女子供は傷つけるなよ! 丁重に扱え!」


 城から出てきた使用人やメイドらも次々フミール族や革命軍に保護されていく。保護された人達はキャンプで水や食事を与えられた。


「へぇ、ローラン国にはこんな料理もあるんだなぁ」


 キャンプで提供される食事はリュシアン王国の郷土料理だけでなくフミール族のルーツであるローラン国の料理も含まれていた。麺類にごはん類、小麦粉と水を練って作った生地でミンチにしてこねた肉を包んで茹でたものなどが並ぶ。


「フミール族の方。このスープに入ってる白くて半円状のやつ、なんて言うんです?」

「ギョーザだよ。焼いたり蒸したり煮込んだりするんだ。うまいぞ」

「いただきます……うん、もちもちして美味しい! 生地の中の肉にもだしが染み込んでますね!」

「うまいだろ! おかわりもあるからたくさん食いな!」


 リュシアン王国とフミール族は長年争いを続けていた。しかし今、革命へ向けてというタイミングで溝が埋まりつつある。これもフミール族と交渉し、様々な国々を練り歩いてきた大商人達のおかげだ。


 キャンプの一角では、メイリア付きのメイドがフミール族の男からギョーザ入りスープを受け取り、パンと一緒に食べている。

 このフミール族の男、かつてはリュシアン王国で暮らしていた事もあったとか。


「美味しいわ。ローラン国の料理は初めて食べるの」

「そうなんだね。口にあったみたいで良かったよ。君はなんでメイドをしてるんだ?」

「実は私、元は子爵家の貴族だったのよね。でも領地経営がうまく行かなくなって倒産して、メイドになったの」


 男は見るからに眉と目尻を下げ、同情の表情を浮かべた。


「それは大変だったね……」

「今思えば王家は何も支援してはくれなかった。お酒に溺れて死んだ父親もクズだけど、何度も税を下げてって言ってるのに下げるどころか上げ続ける。そんな王家は嫌だった。でも生活の為にメイドとして働かざるを得なかった……」


 次第に涙を流し始めたメイドに、フミール族の男はそっと頭を撫でた。


「ごめんなさい、気を使ってくれて。フミール族の方は優しいのね」

「フミール族も大変な時はある。けど互いに支えあってきたから……」

「かつての領地は荒れ果てて、餓死者も出たって聞いているのよ……ただ王妃様達は金を搾り取る事しか考えていないのよ! ひどい人達だわ……」


 そんな中、囚われの身となっているレーンは城近くのキャンプに罪人用の荷車風馬車で移動してきた。


「陛下、降りてください」

「ああ、わかったよ。俺は一体どうなるんだ?!」

「それはこれから決まります」


 相変わらず両腕を縄で縛られているレーン。脳内では革命軍の女やフミール族の女を抱いてみたいという不埒な考えを持っていた。しかし、そのような機会はなかなか訪れない。


(マーサ……)


 勿論マーサへの未練もある。しかしメイリアへの愛は完全に消え去っている。

 レーンが待機しているキャンプから少し離れた革命軍の幹部達が集うキャンプ内では、レーンとメイリア、ガラテナの処遇についての会議が行われはじめた。


「国王と王妃は極刑でいいだろうと思う。他の方の意見を知りたい」


 と、1人の幹部は口にした。


「私も死罪しかないと思います。多くの民を苦しませ餓死させ金をむしり取っていくこの2人を生かす理由はないでしょうな」

「孤島に流罪はどうだろうか?」

「それは費用がかかりすぎる。移送にかかる金を考えたら死罪が良い」

「いや、ここはお金は別に考えよう」

「おっとそうだな。それ抜きでも流罪は生ぬるい。多くの民が犠牲になり、グラン王子達も殺されているのに」


 会議の結果。レーンとメイリアは死罪、ガラテナは流罪とする案が出された。最終決定は城を陥落させ彼ら全員の身柄を捕獲し、裁判して決める事になる。

 だが、商人ら革命軍の者、さらには一般の者達からは死罪が妥当だと言う声があちこちから起こっている。


 そしてとうとう……あっさりと城は陥落した。城内に押し寄せる革命軍とフミール族の者達。彼らはついにメイリアの元へと到達した。


「何よ?!」


 荒々しく開かれた扉の音にメイリアは肩をあげて驚いた。そんな彼女を怒りの気持ちを持って革命軍の兵士が見つめる。


「あなたが王妃か」

「そうよ? あ、もしかして……」


 がたがたと肩と背中を震わせるメイリア。だが、革命軍の者達は表情を一切変えない。


「われらは革命軍だ。王妃よ、この城は攻め落とした。こちらに来てもらおう」

「え、うそよ。うそに決まってる。だってみんなが悪者を殺してくれるって……」

「王妃はどうやら子供が産める身体をした子供だったようだな。おい、捕らえよ」


 容赦なくメイリアの身体を縄で縛り始めた兵士。メイリアは言葉にならない叫びを発しながらも激しく抵抗するが数人の屈強な男達の前では効果はほぼ無かった。


「よし、連れて行こう」

「何するの! ここは私の国よ!」

「王妃の国ではない。私達の国だ。そうやって国を私物化したからこの国は崩壊したんだ」

「何を言ってるのよ! 離してよ、いじわる!」


 お父様とお母様がいたらどうにかなるのに。いつもなら王妃だから、王太子妃だからと許してくれるのに。どうして皆私の言う事聞いてくれないの?

 メイリアの脳内はその言葉で覆い尽くされている。

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