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第4話 婚約破棄

 婚約破棄の書類にサインした私は、書類を持ってガラテナ王妃のいる王の間へと歩いていく。


(もう、この城には用は無い)


 書類を提出した後はすみやかに城から出ていくつもり。当然覚悟は出来ている。

 王の間に繋がる大回廊に到着するとそこには多くの兵士が出入りしていたり移動する姿が見られた。彼らの話に聞き耳を立ててみるとどうやら城の近くまでフミール族が猛攻をしかけているらしい。


(戦争のどさくさに紛れて国外逃亡すればすぐには追ってはこなさそうね)


 それに今フミール族が攻めをしかけているのは南方でアーネスト帝国へ行く北方ルートとはちょうど真逆。これなら戦闘に巻き込まれる可能性は低いと言える。


(今のうちに逃げ出せと神様が言ってるかのようなタイミングだわ)


 王の間への扉の前で深呼吸し、近くにいた護衛役の兵士に国王陛下とガラテナ王妃へのお目通りを……。と言うと軽く頷いて扉を開けてくれた。


「国王陛下、王妃陛下、ジャンヌ様です」


 王の間には国王陛下とガラテナ王妃とその侍従達だけでなくレーン様とメイリアの姿もあった。

 国王陛下は玉座ではなく黄金と赤に彩られた天蓋付きの専用ベッドに横たわっている。


(まだいたのか。まあ、いた方が話が早いか)

「皆様、早速ですが私は王太子様との婚約を破棄させて頂きます。こちら書類を確認してくださいませ」

「……ジャンヌ」

「あらぁお姉様! 私の為に婚約を破棄して」

「あなたの為ではないわ。私の為よ。婚約を破棄した方が私にはメリットがあるなって思っただけよ」

「っ! な、なによそれ!」

「メイリアさん、静かになさい」

 

 ガラテナ王妃から制されて黙るメイリア。しかしガラテナ王妃の声からはまるでメイリアに弱みを握られているかのようなそんな弱々しさを感じた。


「……書類に不備は無いわ。陛下、どうでしょうか?」

「あ、ああ……不備は無いな」

「確認ありがとうございます。という訳で失礼致します。城からはすぐに退去させていただきますので」

「ちょっとお姉様!」

「何かしらメイリア?」


 どうやらメイリアは私に何か言いたい事があるようだ。どうせろくでもないんだろうが。


「お姉様悔しくないの?! それになによ、その自信のある表情は?!」

「婚約破棄出来て嬉しいからですわ。だってメイリアは王太子妃……いや、王妃になりたかったんでしょ?」

「うっ……! レーン様ぁ」


 レーン様の右腕に抱きつき泣き真似をするメイリア。だけど無駄。


「あら、良かったじゃないメイリア。泣くような事じゃないわよ。だってあなたの願いが叶うんだから」


 これみよがしに拍手をしながらそうメイリアに言ってやった。まだメイリアは泣き真似をしてるけれど国王陛下とガラテナ王妃、レーン様は困惑した表情を浮かべたまま黙っている。


「私の婚約者……レーン様はあなたにあげるわ。全部全部あげる。でもどうなっても知らないわよ? それでは皆様ごきげんよう」


 私は一礼して王の間を後にする。メイリアが私を呼び止める声が聞こえた気がしたけど無視した。大回廊で王の間へと向かう兵士達とすれ違った後は速歩きで自室へと向かい、荷物を手早くまとめて久しぶりに使う茶色いトランクの中へと押し込む。そして髪型をすこし庶民ぽいものに変えて帽子を深くかぶる。

 お金は領地経営で得てこっそり城内に持ち込んだへそくりがたくさんある。私物も大丈夫。


「よし」


 私は自室を後にして正門ではなく使用人用の出入り口を目指して移動した。


「フミール族の連中今回は相当本気だな」

「噂だとアーネスト帝国や他の国から軍事支援を受けていると聞いた。本当かどうかは知らないがな」

「アーネスト帝国は中立なんじゃなかったか? 確かにフミール族とは同盟結んでいるけど」

「中立は建前って噂も聞いた。とにかくフミール族の軍事力はここ最近向上している。このままじゃあリュシアン王国は滅びてしまうかもしれん」


 という兵士達やメイド、使用人らの囁きを耳にしながら歩いて移動したが、帽子のおかげかフミール族との戦闘モードに入っているおかげかわからないけど誰にも咎められる事無く使用人用の出入り口まで到達した。

 こんな時に国外逃亡するだなんて薄情な女だと思うかもしれない。でももう私は決めた。つらい事からは逃げても良いんだ。扉をぎい……と開くとそよ風に草木が揺れているのが見えた。


「やっと外へ出られる……」


 外の日差しは思ったよりもまぶしかった。多分薄暗い城に半年いたからだと思う。でもちょっとしたらこの日差しの明るさには慣れるだろう。


「さようなら」


 こうして私は城から出ていった。とりあえずは街まで移動してそこから馬車で北へと向かおう。山のふもとまでは馬車で行ってそこからは徒歩になる。


「うーーん……すぐに馬車が見つかると良いんだけど」


 城から街までは結構距離がある。そういえばこの城は山の頂上に位置してるんだった。ああ、まずは山を下って街を目指そう。途中で追手が来なければいいんだけど。


(それにしてもやっぱり距離がある)


 半年前城に入城した時は馬車だったけど今は徒歩。そりゃあ馬車の方がはるかに楽だった。それにトランクが結構重いので私は早速壁にぶち当たってしまった気分に至る。


「あーー……つかれた……」


 すると後ろからがたごとという馬車に近い音が聞こえてきた。振り返ると茶色い牛が藁の乗った荷車を引いて山を下りているのが見えた。


(ちょっと乗らせてもらおうかな)

「すみません! どちらまで向かいますか?」


 と牛飼いらしき若い男性に聞くと街まで向かうと言ったので、ちょうど自分もそこまで行くので乗せてもらえませんかと尋ねた所快く了承してくれた。

 彼の服装を見る限りおそらくただの何ら変哲もない庶民だろう。下請け……使用人と言った直接王家に勤める関係者でもなさそうだ。なら大丈夫そうか。


「すみませんよろしくお願いします」

「この山を下るのは女だとかなりきついでしょうからね。遠慮なく乗ってください」

(よし、ちょっとは楽できるや)


 後ろへと周って藁を押しのけて空いたスペースに腰を下ろすとまたがたごとと荷車が動き始めた。うん、これなら楽ちんだ。足を伸ばしたりして息を吐きながら周囲の風景に目を凝らす。

 大きな道の左右には森が生い茂っている。そう城は山の頂上にあるのでこのような森林がまだ残っているのだ。


(野鳥のさえずりも聞こえて来る)


 どこからかぴちぱちと小鳥の鳴き声も聞こえてきた。と思いきやそれを止めるかのように兵士や騎馬隊が城に向かって行ったり降りたりを繰り返す。


「今日はフミール族が相当粘っているみたいですね」


 と男性が私へと語り掛けて来る。


「そうなんですね」


 私はそう敢えて知らないふりをした。だって私が城の関係者だと思われる部分は少しでも明るみにはさせないようにしなければならないと考えたからだ。


「南の方が結構攻められてるって聞きました。それに最近フミール族は本気出したのか軍事力を上げてるって噂じゃないですか。そのうちここも攻められるんでしょうかねぇ」

「結構肝が据わってらっしゃるんですね」

「俺はじき軍に召集されるでしょうから。それにこんな国に愛着なんてないですし、別に滅んでくれたってかまわないとは思ってます。国王陛下が病気になる前はまだ幾分マシに思えましたけど、王妃様が政治に関わるようになってからは戦が多くなってますよね。田畑が荒れていくというのも聞きますし。悪女だって聞きますけどどうやら本当なんでしょうね」

(……庶民からガラテナ王妃についての評判は初めて聞いた)

 

 ここで私はこの牛飼いの男をちょっと揺さぶってみる事にした。勿論悪気なんてない。単純に気になるから聞いてみるだけだ。


「あの、ガラテナ王妃とその息子である王太子についてはどう思われます?」



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