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第37話 駆け落ちしても良い

 リュシアン王国城内。マーサことアルティナはリュシアンダリア公爵家と養子縁組し正式にレーンの側室となった。

 これを面白く思っていないのがメイリアである。


「何よあの女。全然貴族らしい見た目ではないじゃない」


 アルティナはそもそもフミール族の女性なのでリュシアン王国の貴族令嬢とは見た目は大きく違う。それでいてなぜレーンの心を射止め続けているのか。メイリアは納得していなかった。

 ちなみにレーンの子を宿した娼婦リリアの行方は不明。というか彼女の存在はもはや忘れ去られている。娼館に留め置かれていたが、その後いずこかへと身柄を移された、とだけアルティナは情報を得ている。


「ほんとむかつくわ! 何よあの女! いっつもレーン様と一緒にいるなんて!」


 四六時中レーンと一緒にいるアルティナ。そして王妃であるメイリアを差し置いて寵愛を受け続けているアルティナ。メイリアは彼女へ激しく嫉妬を向けている。

 それは彼女が好きな派手なドレスに超高価な宝石をこれでもかとあしらったアクセサリーを手に入れても消えないものだった。

 

(本当はあんな女追い出したいのに)


 一応メイリアはレーンへアルティナはリュシアンダリア公爵家の娘ではあるが養女なのだから、側室にはふさわしくない。本当の身元も分からないくせに側室に迎えるだなんて危ないとは意見していた。

 しかしレーンは聞く耳を持たなかった。


「お前、側室に嫉妬するだなんて見苦しいぞ」


 それだけを言い、レーンはアルティナを連れてメイリアの前から消え去った。


(悔しい! どうしてあんな対して美しくも無い女なんかが!)


 これまでメイリアは可愛いそして美しいと皆から可愛がられてきた女だ。そんな彼女が側室を大事に出来るわけがない。それも自分以上に寵愛を受けている側室ともなれば、そんな事は出来ない。


(……思いついたわ。こうする他ない)


 メイリアはメイドを呼び、今からお茶会をするからアルティナを連れて来るようにと指示した。


「レーン様は来なくていいわ。女だけのお茶会にしたいの。そう告げておいで」

「王妃様、かしこまりました」

 

 しばらくしてメイリアはお茶会用の応接室へと移動し、そこでアルティナが来るのを待った。しかしながらアルティナは中々訪れない。

 メイリアが移動して15分後、ようやくアルティナが訪れた。しかもレーンも一緒だ。


「申し訳ありません。国王陛下がどうしても一緒に来たいと言うので」

「国王陛下。ご退出願えますか? これは女同士のお茶会ですの」

「嫌だ。お前の事だ。マーサに何か危害を加えるつもりなんだろう」

「はあ?! そんな事する訳ないじゃない! グラン王子様達を殺すよう指示したあなたとは違うのよ!」


 アルティナやメイド達の目の前で繰り広げられる夫婦喧嘩をアルティナは今がチャンスだと何かをひらめきながら見つめていた。

 それは、自分が身を引く事でアーネスト帝国へ戻れるのではないかという事である。


(チャンスだ。ここを逃せばいつまたチャンスが訪れるかは分からない。本当はあまり自分の意志を出してはいけない所だけど……)

「国王陛下。王妃様。お話があります!」


 アルティナがそう切り出した瞬間、レーンとメイリアの視線がアルティナの方へと向けられた。


「な、なんだ……?」

「なによ? なにを話す気?」

「国王陛下。お暇をいただきとうございます。私は側室の座から降りたいのです」


 側室を辞めるとの宣言。メイリアは勝ち誇った笑みをしようとするもそれを我慢し、女神のような顔を向けるがレーンは納得していないのが丸わかりと言った所だ。


「それは許さない。お前は俺の側室でいるんだ」

「申し訳ありませんが、私には側室は務まりません。私はただの踊り子マーサ。国王陛下が私を愛してくださった事はとても嬉しく光栄な事でございますが、私は側室には……この城の生活には向いておりません。それがはっきりとわかりました。国王陛下、どうか王妃様とお幸せにお暮しください。それでは私はこの城から出ていきます。それと王妃様、私はきっぱりと身を引きますからご安心ください」


 貴族令嬢らしくドレスの両裾をつまんで深々とお辞儀をしたアルティナ。部屋から出てった瞬間とマーサ! と彼女の偽名を呼ぶ国王陛下とおやめなさい! と彼の身体に抱き着き動きを止めるメイリア声が廊下まで響き渡って来る。アルティナは振り向く事無く自室へと向かい私物を片付けると、メイド達に紛れて急いで城を出た。それからは工作員らしく山を猛スピードで駆け下りながらドレスを脱ぎ捨てて平民の服へと着替え、なんとか近くの街の手前までたどり着いた。


「はあ……はあ……」

(そういえばここから西に行けば革命軍の拠点があると聞いている。まずはそこまで向かおう。そこで革命軍に関する情報を仕入れる事が出来れば……)


 荷物を持って西にある革命軍の拠点へとひた走るアルティナ。彼女はスタミナには自信はあるが、それでも息が切れかけてきている。


(あともう少しの場所にあるはず。はやく、はやく行かないと!)


 その時、後ろからマーサ! とレーンの声が聞こえてきた。目の前には革命軍の拠点でもある割と大きめの酒場が見えてきている。しかもその近くには革命軍に所属している平民の男達が店の前を掃除していたり、商人と思わしき男達が雑談したりしていた。


「マーサ! 逃がさんぞ! 俺はお前と駆け落ちしてもいい! お前と一緒にいられるなら王位なんていらない!」

(駆け落ち?! ……ここまで来たなら仕方ない!)


 駆け落ちしても良いなどと叫ぶレーン。アルティナは振り向くと単身追いかけて来るレーンの腹部に思いっきり右足で飛び蹴りを入れた。驚きながらも後ろ向きに倒れていくレーン。


「ぐふっ……どうして。マーサ、お前は一体何者なのだ……」

「陛下。私はただの踊り子。そして……フミール族の者であり、アーネスト帝国の者です」


 アルティナは続座に私物の入ったバッグの中から眠り薬の入った瓶を取り出すと蓋を開けて倒れたままのレーンの口にどかっと放り込む。そして意識を失ったのを確認してから拠点にいる革命軍の者へと声をかけ、レーンの身柄を拠点へと引き渡したのだった。


「この方、国王陛下です。どうかよろしくお願いします」

「ありがとう。革命軍としてもこれは有利な事だ」


 革命軍の者から感謝のしるしと丸い小さなパンを2つ水の入ったガラス瓶1つを入手したアルティナは、馬を借りて跨るとアーネスト帝国へと駆けていく。

 

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