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第33話 駆け引き

「まずその前に。彼、革命軍の人ですね」

「へ?」


 革命軍? いきなり聞いた事ないワードが出てきた事で頭の中にクエスチョンマークが浮かび上がる。が、若い男は苦虫を噛み潰したかのような苦しい表情を見せた。


「ど、どうしてわかったんすか……あなたは……」

「私はカーリアン・ルーンフォルド。女帝陛下の甥です。少し前からリュシアン王国の今の王政を排除しようとしている動きがあるという噂は耳にしておりました。それとあなたのポケットの手紙、ちょっと読まさせていただいてもよろしいですか?」


 若い男の右ポケットからは白い紙がぽろりと出ている。カーリアンはその紙を受け取り広げて何が書かれているかを即座に読んだ。


「ふむ、革命軍へ支援をお願いしたい。ですか。革命軍のリーダーが分からないのが残念ですが。そこの方、まずは革命軍がどのような実態なのかお聞かせ願えますか? 仕事の斡旋はそれからになりますけど」


 後ろ手を組みにこにこと笑うカーリアンだが、同時に逆らったらどうなるかわかってるよな? と圧をかけているのも理解した。若い男もその圧を感じとったのか、わかった。と言ってつらつらと話し始めた。


「革命軍はまだ結成して日が浅い。それに俺は末端の方だ。文字の読み書きが出来ないからな」

「リーダーは?」

「リーダーじゃなくて、上のもんが複数いるって感じです。で、会議して決めるみたいな」

「へえ。王様いないのですか」

「本当は決める予定だったんすけど、それだと革命軍の存在がバレた時のリスクになるって事で決めなかったんですよ。で、革命軍の上のもんはリュシアン王国の大商人どもです」


 大商人達が主導となって革命を起こそうと企んでいるのか。王族の誰かや貴族でもましてや平民だけでもないのが意外だが。


「そんで俺達は革命軍に秘密裏に支援をしてくれるよう、他国へ呼びかける為にわざと難民に紛れてこちらへとやって来た。リュシアン王国からは本物の難民もあちこちへ流失してる」

「そんなに経済が疲弊しているのですか」

「ああ、ルーンフォルド公爵だっけ? とにかく王太子妃様がぜいたくばかりしているからな。王太子妃様に隠れて4大公爵家の令嬢達や夫人達もこっそりとぜいたくしてるって聞いた」

(メイリアが元凶か。それにきっとお母様とかも……)


 革命軍の実態が聞けた所でカーリアンは納得した表情を見せながら、良い仕事先があると若い男に告げた。


「ほんとっすか?」

「ええ、うちのルーンフォルド公爵家の使用人です。福利厚生も文字の読み書きも先輩達が教えてくれますからご安心ください」

「えっ……お、おれが、公爵家屋敷の使用人ですかぁ?! い、いいんですかそんな高待遇な……」


 若い男はまさかルーンフォルド公爵家の屋敷で働く事になるとは思ってもみなかったのだろう。口を魚のようにぱくぱくさせながら驚いている。


「ええ、ぜひどうぞ」

「あ、ありがとう……ございます!」


 ベッドに横たわる若い男がベッドから起き上がって、カーリアンに深々と頭を下げる。使用人なら福利厚生だけでなく、近い場所で彼の様子を見る事が出来る。

 ……あれ、もしかしてカーリアンはそれを見越して……?


「カーリアン」


 と小声で聞くと彼は屋敷に戻ってから詳しい話をすると言ってくれた。

 医師から痛み止めの薬を処方してもらい、迎えに来た馬車に乗り込み屋敷へと戻った。若い男は診療所で一晩様子を見る事となった。明日、使用人長が彼の元へ迎えに来る予定だ。

 屋敷に到着した後はカーリアンに勧められて自室で休む。税理士事務所へはカーリアンが行くと言ってくれた。


「しっかり休んで回復した方が良い」

「そうね、ごめんね忙しいのに」

「ううん、でもジャンヌが生きていて良かったよ。肩もはまったし。無理な動きはしてはいけないよ?」

「ええ、そうね。……心配してくれてありがとう」


 カーリアンがふふっと笑うと、私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。ちょっとだけどきっと心臓が跳ねあがった感覚がした。


「ああ、さっきの話だけど」

「? カーリアン?」

「革命軍は手元に置いておいた方が良いと思ってね」



ーーーーー



 それから若い男……カータスは身体が回復してきた所で使用人として働き始めた。結構真面目な働きぶりで使用人の先輩方からも驚きの声があがっていると言う。

 そして衝撃的なニュースが届いた。なんとグラン王子とガーヴェイン王子が何者かに殺害されたのだと言う。グラン王子の妻は無事という事だが、2人とも首元を横にかっ切られており、アサシンの仕業だとして捜査が進んでいると聞いた。

 まあ、真犯人は目星がついているけど。


「レーン様の仕業なのは把握していてよ。自分の位置が危ういと思ったからアサシンに指示して始末させた。もう証拠は手に入っているけどそれをガラテナ王妃に渡すか否かは考え中ですわ」


 宮廷の後宮内にある絢爛豪華な茶会室にて、女帝陛下は紅茶を飲みながら余裕のある笑みを浮かべている。私もカーリアンも紅茶の入ったカップこそ持っているが、私の場合飲む気にはなれないでいた。


「アサシンが吐いたのですか?」

「ええ、カーリアン。アサシンはこちらで捕縛したわ。リュシアン王国の王家の紋章の入った指輪を持っていた。本人も自白しているわね」

「それでどうなさるのですか? ガラテナ王妃と国王陛下に何か条件でもつきつける、とか?」

「ええ、そうね。難民を一緒に送り返しますからちゃんと面倒見るようにって言うつもりでしてよ」

「難民を送り返す?」


 せっかくこちらまで来た難民を送り返すとでも言うのか。一体何を考えているのだろうか?


「あの、女帝陛下」

「何かしら、ジャンヌさん?」


 にこにこと笑う女帝陛下の笑みが怖くて、緊張している自分がいる。でもやっぱり気になるという感情の方が勝ってしまった。


「どうしてリュシアン王国から来た難民を送り返すのですか?」

「良い質問だわ。こちらは難民が押し寄せてきて困っているの。それをリュシアン王国に知ってもらう良い機会じゃなくて?」

「女帝陛下。実際は経済的にはそこまで困ってませんよね」

「あら、さすがは経済大臣のカーリアン。これはあくまでパフォーマンス。リュシアン王国のせいでアーネスト帝国が困っているという事をアピールする為のね。それと革命軍がここにも来ているそうね?」


 やはり女帝陛下。革命軍の事は知っていたのか。

 というか革命軍の存在をいつから知っていたのだろうか?


「カーリアン、いつから知っていたの?」

「実は婚約パーティー前から知っていた。けど、秘密にしておいたんだ。大事な婚約パーティーにジャンヌが集中できるようにね」

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