第31話 両親からの手紙
私とカーリアンのくちづけに、黄色い歓声がこれでもかと降り掛かってきた。
「きゃあ~」
「婚約者同士のキス! ドキドキするわ!」
(いや、私の方がドキドキするし!)
結局後宮で暮らす先帝の側室達による演奏会の時も、婚約パーティーが終わった後もどきどきとした胸の高鳴りはやまなかった。でも、結婚して初夜となるとこれ以上の事をする訳だから、今のうちにキス位慣れておかないといけないんだろうけど……!
(やっぱり、ドキドキする……!)
パーティーがお開きになった後はみなちりぢりになって解散していった。側室達も女帝陛下とカーリアン、私に挨拶を終えた後は自分達の居住スペースへとそろぞろと戻っていく。
それにしても側室達の演奏は素晴らしかった。胸のドキドキが邪魔してよく聞けなかったけど。
「ジャンヌ。じゃあ、帰ろうか」
「そうね」
「2人ともお疲れ様。キス良かったわよ」
女帝陛下からも言われると顔がより熱が上がったかのような感じになる。
「いやいや……」
「女帝陛下にも気に入って頂けて良かったです」
「カーリアン……」
「だってそうだろう? 本当はあの王太子どももいたらもっと面白かったんだけど」
確かにあんな事を言ったレーン様にガラテナ王妃、両親にキスを見せつけたらどんな表情を見せていたかは気になった。
女帝陛下にお別れの挨拶をした後、馬車が止まっている方へと歩き出す。すると女帝陛下からお待ちなさい。と声がかかった。
振り返ると女帝陛下の右側に女官2名が花束と、溢れんばかりに野菜の入った木のバスケットを持っているのが見える。
「これ、よかったらお屋敷に飾って頂戴。あと野菜良かったらどうぞ」
「いいのですか?」
「ええ、ジャンヌさん。召し上がって頂戴な」
「ありがとうございます……! カーリアン、見て!」
「ああ、とても美味しそうです。女帝陛下、ありがとうございます。感謝します」
「いえいえ。今日はゆっくり休みなさいね。お疲れ様」
花束と野菜を貰い、馬車に乗って屋敷に戻ると花束はばらしてメイドがローラン国産の高級な白い陶磁器の花瓶に生けてくれる。野菜はメイドがコックに渡しに行った。
「野菜美味しそうね」
「ああ、今日は野菜尽くしのディナーになりそうだ」
「ええ、楽しみ」
また、カーリアンの顔が近づいた。さっきのキスを思い出してしまい、顔から火が吹きそうなくらい熱くなってしまう。
「? どうした?」
「あ、いや……何も」
カーリアンはこれ以上は聞いて来なかったので助かったけど、いつものような後ろ手を組んだ余裕そうな表情は変わらない。
(ああ、この人にはかなわないや)
夕食は女帝陛下から頂いた野菜がふんだんにつかわれたものとなった。特に前菜のボリュームがすごい事になっていた。でも、とても美味しい!
葉野菜はしゃきしゃきとしていて、根野菜は歯ごたえはあるけど硬すぎない、かりっとした食感があった。それにどれもみずみずしくて新鮮! どれも美味しく頂いたのだった。
それから1週間くらいが経過した後。書斎にてカーリアンと共にルーンフォルド公爵家へ届いた手紙の封を開いて返信を書いたり、必要な書類に判やサインをしたりと事務的な仕事をしていた時だった。
「リュシアン王国のクロード公爵家よりお手紙が届いています」
執事が手紙を1通、私へと手渡してくる。両親からの手紙と聞き、どうせリュシアン王国に戻ってこいとかそういうくだらない事が書かれているんだろうなと訝しみながら、手紙を受け取って封を開けて中身を取り出す。
(どうせ、嫌な事だろうな)
手紙に目を通すとやっぱりくだらない事が書かれていた。
簡潔にまとめると領地経営が赤字どころかかなり苦しい事になっており、どうか私とカーリアンの力を借りたいという事だった。リュシアン王国に戻らなくても良い。アーネスト帝国にとどまったままでも良いからどうにか援助を受けたい。メイリアにこの事を伝えたら援助は出来ないと言われたので姉であるジャンヌ、お前しか頼れないと記されていた。
「どうする? ジャンヌ」
「また性懲りもなく……。いくら言われようとも援助はしません。4大公爵家の1つなのですから領地経営くらい自分でやってもらわなければ困るわ」
「どうもメイリアに頼んだみたいだね」
「まあ、あの子は領地経営のりの字も知らないくらい知識は無いでしょうから」
とはいえそんなメイリアが私の立場を欲しがってたんだからああいう事になったんでしょうし。
(王太子妃になったからには領地経営くらい出来ないと話にならないはずなんだけどねえ、ガラテナ王妃?)
私はまっさらな便箋を1枚取り出そうとしたが、止めて置いた。
「ねえ、カーリアン。返信必要ないわよね?」