第30話 くちづけ
その後婚約パーティーはアクシデントもなく終わったのだった。あのリュシアン王国の連中どもがいなくなった後私達の元には数多くの出席者達が駆けつけ、婚約を祝う言葉やレーン様や私の両親をひどいと批判する声が集った。
「婚約おめでとうございます」
「ジャンヌ様、異国の地でどうか幸せを掴んでくださいね。応援していますから!」
「それにしてもレーン王太子があんなにクズだとは思いませんでした。ジャンヌ様おかわいそうに」
「妹もひどい人だったみたいですね。傾国の悪女という噂が立っております」
彼らからの言葉を受け止めていくと、これまでの苦労により味わってきた恨みつらみなどと言ったどす黒い感情が少しずつ浄化されていくような感じがしていく。
(皆からこんなに同情されるのは初めてだから、なんだかよくわからないけどすっきりするなあ……)
パーティーの最後。女帝陛下がもう大丈夫でしょう。さっきはカットした方が良いと判断したけど彼らがいないのならもう大丈夫そうね。という事で私達からの挨拶をする事となった。順番は前後する形にはなったけど、しないよりかはましだ。
「先にカーリアンからどうぞ」
「いいのかい? じゃあお言葉に甘えて」
先にカーリアンがお立ち台のど真ん中に立ち、皆へと目線を投げかけた。
「挨拶が遅くなり申し訳ありません。この度私カーリアン・ルーンフォルドはジャンヌ・クロード公爵令嬢と婚約する事となりました。私はジャンヌを一生ずっと支え、側にいたい。そう考えております。単純かもしれませんがそれだけ彼女が好きで彼女を守りたいと思っているのです。どうか私達をそっと応援してくだされば嬉しいです」
わあああああっと巻き上がる歓声と拍手。カーリアンはぺこりとお辞儀をして感謝を表すと、次は私の番が回って来る。
「ジャンヌ」
「うん、がんばる。……皆さん初めまして。ジャンヌ・クロードと申します。この度はカーリアン様と婚約する運びと相成りました。不束者ですがよろしくお願いいたします」
(どうしよ、緊張で考えてきた言葉が吹っ飛んだ! でも、メモを出す訳にもいかないし……!)
緊張でこの続きの言葉が全然出てこない。頭の中をひねり出そうとも何にも言葉や文字が出てこない。
何とかぐるぐると思考を巡らせて、ひねり出すように出した言葉をそのまま口に出す。
「あの、私はこのアーネスト帝国が大好きです! カーリアン様も女帝陛下も大好きです! 皆さんもだ、大好きです!」
……シーンと静まる会場。あ、これ変な事言ってしまったか?
「かわいい! すばらしいっ!!!」
「ジャンヌ様ーー!! かわいいですーー!!」
「わあああああっっ」
色んな所から歓声と共にかわいいとか聞こえだしてきた。えっとこういう時はどんな返しをしたらいいんだ?
するとカーリアンが私の右肩をそっと抱き寄せる。
「かわいいでしょう? 私の婚約者は」
と語ると更に歓声が熱くなった。そして私はカーリアンと目が合う。
「かわいいよ。ジャンヌ」
「あ、や……」
そしてそのまま、互いの唇の先が触れ、ぐっと重なった。彼の温かな、だけれど燃えるような熱が私の唇全体から顔、全身へと伝導していく。
私の身体がカーリアンの熱で柔らかくとろかされ、じくじくとなっていく。
(え、キス……?! されてる?!)
こんなキスだなんて生まれて初めて。しかも大勢の前で披露する事になるとは。私の頭の中が色んな感情で覆い尽くされた時、カーリアンの唇がすっと私の唇から離れていった。
「あ……」
「どきどきした?」
「は、はい……」