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第3話 回想

 思えば私は両親から愛された記憶が無い。赤ん坊の頃は多分愛されていたのかもしれないけど、覚えているのは厳しさと期待だった。いや、あれは期待じゃなくて他の公爵家へ対する対抗心だろう。


「いいかジャンヌ。お前は必ず将来王家へと嫁ぐんだ。その為には良い令嬢にならなければならない」 

「そうよジャンヌ。あなたは絶対に王家へ嫁ぐのよ」


 そう物心ついた時からまるでエクソシストの術を受けるかのように言われ続けてきた。

 

 両親が私を王家へ嫁がせたい理由はクロード家の地位向上と名誉とお金である事は勿論幼い時からわかっていた。王家の男性と結婚出来るのは4大公爵家の令嬢のみ。クロード公爵家はその4大公爵家のひとつ。他の3家を差し置き王族との強固なつながりを得て重役に付けば収入だって増えるし名誉にもなる。

 私は両親の願いを叶える為のただの道具にしか過ぎなかったのだ。


「ジャンヌ! なんだその手つきは!」

「ごめんなさいお父様……」

「食事は抜きだ!」


 テーブルマナーを少し間違えば食事は抜きにされた。その他にも勉強をさせられたり、10歳の時からは実践が一番だ。と父親に言われて領地経営の仕事を一部任されるようにもなった。


(思ったよりお父様って仕事出来ない?)


 クロード公爵家の領地がいかに荒れ、悪化の一途をたどっていったかを知った私は我慢出来ずに独断で改革案を打ち出し取り引き先や領地経営に詳しい人物へ自ら手紙を書いて送ったりしてあれこれ動いた結果、クロード公爵家の領地は持ち直し、私がレーン様と婚約する直前にはようやく赤字から黒字へとなんとか転換出来たのだった。

 

 ちなみに私の仕事ぶりを執事から聞いた父親は私を特に褒めるわけでもなく、私へ仕事の全てを押し付けるようになった。領地の視察に経費の管理などを丸投げするようになったのだ。


「ジャンヌ、王家の男に嫁ぐなら領地経営は出来て当たり前の仕事だぞ?」


 その当たり前の仕事が出来てないのがこの父親である。対抗心に負けて見栄を張る本当に無能な男だ。レーン様と婚約してからも私は使用人を通じて領地経営の仕事は続けている。


(ほんと嫌になる……)


 しかしながら両親はメイリアは甘やかして悪い意味で溺愛を注いできた。多分両親はメイリアには何もかも期待していないんだと思う。実際メイリアは幼い頃から容姿と媚売りと被害妄想くらいしか取り柄が無くて勉強も出来ないし馬にも乗れない貧弱な令嬢だった。

 でもメイリアは両親からは欲しい物を全て与えられて育った。そのメイリアへの態度で父方の祖父母や他の3公爵家からは厳しい事を言われた事もあったが両親は全く意に介する事は無かった。


「メイリア嬢はもっと厳しく育てた方がよろしいんではなくて?」

「ふん、何をおっしゃいますのハロゲン公爵夫人。厳しくするのはジャンヌだけで結構ですわ」


 などと言った具合の会話を母親がしていたくらいだった。

 13歳になり貴族学校に入学した後も領地経営の仕事は引き続き行っていたので、学業と領地経営の2つを掛け持ちする日が始まった。幸運な事に貴族学校ではそれなりに友人には恵まれたが、お茶会には参加出来なかったし友人の屋敷に遊びに行く事も出来なかった。

 レーン様とはこの頃からの縁ではあるけど会話をした事は一切無かったはず。

 そして両親の態度は私が貴族学校に入った後も変わらなかった。

 

「ジャンヌ、テストの点が前回より落ちているじゃない!」

「お母様……申し訳ありません」

「あなた本当に王家へ嫁ぐつもりはあるの? ちゃんと自覚を持ちなさいよ! テストの点が上がるまで貴族学校以外の外出は禁止します!」

「お姉様かわいそう! あはははは! おもしろーーい!」

(……ほんとクズで無能なやつらばっかり。ていうか貴族学校以外に外出だなんてほとんどした事が無いんだけど覚えているのかしら? おかげで領地の視察にもいけないし)


 さらにメイリアが貴族学校に入学してからは彼女の分の宿題も任されるようにもなった。


「お姉様! これお願い!」

「はぁ……自分ではやらないの?」

「うっ……お母様! お父様! またお姉様が私をいじめるのぅ!」

「なっ……」

「ジャンヌ! またメイリアをいじめたのか?!」

「違います!」

「嘘をつくな! お前は王家へ嫁ぐ者なのだからそんな事あってはならない!」


 メイリアが被害妄想を発動させるといつも両親はメイリアの味方になり私を責めた。

 メイリアはしかも私が自分をいじめるという噂を貴族学校で流していたようだ。これは幸いにも貴族学校の生徒全員がメイリアの噂を信じる結果には至らなかったのだが、それでも噂を信じた者達からは陰口を叩かれたりしたものだ。更にはメイリアの噂を信じる派閥とメイリアを嫌う派閥などが揉め事を起こすなんて事もしょっちゅうあった。

 

(馬鹿馬鹿しい)


 正直陰口を叩かれるのも、派閥同士揉め事を起こすのも馬鹿馬鹿しいとしか思えなかった。それにしてもメイリアは私の何が気に入らないのだろうか? 貴族学校で聞き耳を立てている分には私の立場が気に入らないというのは把握しているのだが。


(だったら努力すれば良いのに)


 でも己の為に自己研鑽を積むという事をしないのがメイリアだ。だから言っても意味が無いのもわかっている。

 

 そして私はレーン様と婚約した。貴族学校での成績一覧を見たガラテナ王妃の推薦もあったのが決め手だったそうだ。

 両親は特に喜ぶ事はなかった。そしてメイリアは癇癪を起こしてずっと自室にこもっていたが数日後けろっと復活したのも記憶に新しい。

 ……もしかしたらメイリアはこの時からレーン様を寝取ろうと決めていたのだろうか?

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