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第29話 お幸せに

「それにメイリア妃を選んだのはレーン王太子殿下、あなたではなくて?」

「……っ!」


 ぐさりぐさりと女帝陛下の言葉がレーン様の胸を容赦なく刺していく。レーン様もガラテナ王妃も反論できずに唇をかみしめている。だがガラテナ王妃はそこまで悔しがっているようにも見えない。


(多分、レーン様が痛い目に遭っているのが見ものなんだろうな)


 女帝陛下はワイングラスを傾け匂いを嗅ぎながらごくりと飲み、美味しいわね。と呟く。その余裕綽々な態度にレーン様は閉ざしていた口をおそるおそる開いた。


「女帝陛下は信じてくださらないんですか? 悪いのはメイリアだって……!」

「だって誘惑に負けたのはあなたでしょ? それにあなたが元々ジャンヌさんとは仲がよろしくなかった事くらい把握しておりますもの」

「……っ! ジャンヌ、お前は!」


 レーン様が私の方ぎっと睨みつけてきた。だってあなた私を愛そうとはしてなかったじゃない。今更あなたのものにだなんてなりたくない。


「女帝陛下には正直にお伝えいたしましたわ。女帝陛下に嘘をつくなんて誰が出来るのです?」

「くそっ……」

「メイリアが嫌ならメイリアを捨てて他の4大公爵家の令嬢からまた新しいのを見繕えばよいではないですか。なぜ私にこだわるのかしら? 従順な令嬢なら4大公爵家の中にもいるでしょう?」

「だって……その」

「ガラテナ王妃もそう思いませんか?」


 とりあえず何も言えずに突っ伏しているだけのガラテナ王妃に私は言葉を向けた。ガラテナ王妃は芝生に目線を向けたりしつつ口をパクパクさせる。


「だって、その……あなたは優秀だったから」


 そうだろうな。4大公爵家の令嬢の中で貴族学校で最も優秀だったのが私と聞いている。それは両親からのしつけによるものだ。だが、4大公爵家の令嬢の中でも優秀だった子は何人かいるのも知っている。


「私以外にも優秀だった方はいますよ? 別に私にこだわる必要はないじゃないですか」

「それは……そうね。あなたの言う通りだわ。……レーン! 戻りましょう。これ以上説き伏せたってどうにもならないわ」

「母上はジャンヌに戻ってきてほしくないのか?」


 レーンがガラテナ王妃に振り返り、そう質問を投げかける。


「そりゃあメイリアさんとの2択だったらジャンヌさんの方が良いけど……他にも令嬢はいるじゃない。ね?」

「ふん……まあそうだよな。適当に見繕えばいっか。それにこんな陰気なやつやっぱごめんだわ」

「あら、やっぱりそうでしょう? 私こそレーン王太子殿下は願い下げですわ。メイリアとお幸せに!」

 

 と言ってやったらちょっとだけ胸がすかっとした気分になる。レーン様もガラテナ王妃も何も言い返す事は無かった。


「ガラテナ王妃、国王陛下の為にも早くお戻りになられた方がよろしくてよ。これ、薬を持っていきなさいな」


 女帝陛下がメイドに薬箱を持ってこさせ、それを受け取るとガラテナ王妃に手渡した。女帝陛下はこの厄介な2人にさっさと母国に戻るように促しているらしい。

 ガラテナ王妃がありがとうございます。とだけ女帝陛下に告げてレーン様と共に出口の方へと向かって行くと入れ替わるようにして私の両親がどたばたとやってきた。


「ジャンヌ! さっきはすまなかった」


 いきなり父親が頭を下げて謝って来るのでカーリアンと目を合わせる。一体何を企んでいるのだろうか?


「ジャンヌ、お前にはクロード公爵家へと戻ってきてほしい。何、一時的なものでも構わない」

「何が言いたいのですか? お父様?」

「最近、その……領地経営が、その」


 言葉を濁しているがうまく行っていないのは丸わかりだった。おそらく出席者と懇談した事で問題がさらに浮き彫りになって来たのだろう。

 でもその辺は私はメイリアにあげた身。もう私のやるべき事ではない。


「それはメイリアに言ってください。私は関係ありません」

「な……」

「という事ですので。ごめんあそばせ」

「おい! 私達を見捨てると言うのか! お前はクロード家の娘なんだぞ!」

「ジャンヌはルーンフォルド公爵家の者です」


 怒りのままに飛び掛かってこようとする父親と、眉間にしわを寄せてこぶしをぎゅっと握りしめている母親の前にカーリアンが割って入る。


「ルーンフォルド公爵家の者に関係ない領地の経営までさせるつもりでしょうか? そんな愚行女帝陛下が許しますかな?」

「ええ、許さなくてよ。それに他国の領地。仮にも4大公爵家の者が領地経営すらできないだなんて随分と恥ですわね?」


 くすくすと笑う女帝陛下とは対照的に顔を赤く染め上げる両親。結局女帝陛下の指示により両親は先に退出していったレーン様とガラテナ王妃を追うようにしてパーティーの場からつまみ出されてしまったのだった。


「ふう、愚かな人達だこと。クズの相手はしたくないのよね」


 女帝陛下はふう。とわざとらしくため息を吐くとワインをごくりと全て飲み干した。


 

 

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