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第28話 今更悔いても

「どうぞどうぞ! あふれんばかりの拍手をこの2人に!」


 女帝陛下はさらに出席者を煽るように拍手を進める。しかし両親は拍手しようとしないので隣にいた出席者からは訝しまれている。そして何やら言われるとぱんぱんと投げやりに拍手をし始めた。


(レーン様がいない)


 もしかしてこの期に及んでドタキャンでもしたのか? と一瞬思ったがそれは違った。ガラテナ王妃からは少し離れた場所に彼はワイングラスを持って立っていたからだ。


(なんだ、いるか)


 だが、不満は顔には出さない。幸せそうな笑顔を振りまくだけだ。カーリアンと手を振っていると女帝陛下がお立ち台に登り私とカーリアンの間に立つ。


「こちらにおわすのは私の甥、カーリアン・ルーンフォルド公爵です。若くしてルーンフォルド公爵家の当主となり経済大臣として手腕を振るってくれています!」


 カーリアンが手を振るとあちこちからカーリアン様! とかルーンフォルド大臣! という声があがる。


「そしてこの度可愛い可愛い私の甥であるカーリアンと婚約したのがこのジャンヌ・クロード公爵令嬢! 彼女はかつてリュシアン王国の王太子殿下と婚約していましたが、王太子殿下と今のメイリア王太子妃が不貞を働くという酷い悪行により婚約破棄せざるを得なくなったとてもかわいそうなご令嬢です!」


 女帝陛下がそう遠慮なく言い放った瞬間、出席者達の目線は一斉にレーン様へと向けられた。

 レーン様は眉間に皺を寄せ、忌々しく唇を噛む。


「レーン王太子殿下がそのような事を……」

「女遊びがひどいとは言っていたけど」

「メイリア王太子妃ってわがままなやつだよな? あんなのに引っかかったのかよ」

「終わりだな。ジャンヌ様がかわいそうだ」


 この出席者達の反応、まさに目論見通りと言えるかもしれない。


「お待ち下さい!」


 しかしこのタイミングで両親が手を挙げながら出席者達をかき分けこちらへと向かってくるではないか。

 女帝陛下は危機を感じたのか右手を挙げる。その瞬間武装した兵がいずこから現れ私達と両親の前へと立ちはだかってくれた。


「その女はリュシアン王国を捨てた女だ! どこがかわいそうなご令嬢だ!」


 父親の叫びは信じがたいものだった。リュシアン王国を捨てた女呼ばわりに私の頭の中のピアノ線がぷつりと切れた。


「何を言っているのかしら。私はメイリアが欲しいと言ったからメイリアに全部あげただけよ?」


 その言葉に両親は口を閉ざした。その代わりに出席者から巻き起こるざわめきがより一層激しくなる。


「メイリア王太子妃に全部あげたって……」

「じゃあ、悪いのはメイリア王太子妃じゃないの?!」


 ひそひそと、しかし確実な声。そうだ。メイリアが欲しいからあげただけ。

 だけど、それ相応に後悔……痛い目には遭ってもらわなきゃフェアじゃない。メイリアが産んだ男児の死は全く望んで無かったし残念だとは思うがそれとこれは別だ。


「お静かに。今日の主役が困っているでしょう?」


 女帝陛下の一言で一斉にざわめきが収まりしん……と静かになる。さすがの両親も女帝陛下に文句は言えなかったのか兵士に促され出席者の輪の中へとすごすごと戻っていった。


「では、2人の幸せを祈って乾杯しましょう」


 ウェイターによりアーネスト帝国産のワインが入ったグラスがぞろぞろと配られる。配り終えた所で女帝陛下がグラスを天に掲げた。それを見て私とカーリアンも同じようにグラスを天へと掲げる。


「乾杯!」


 乾杯後はワインを飲みながら歓談の時間となる。本来は乾杯前に私達の挨拶があったのだが両親が騒ぎを起こした事でカットにしたと女帝陛下から小声で打ち明けられた。


「危ないと思ってね。ごめんなさいね」

「いえ、私達を案じてくださりありがとうございます」


 ここまで私の事を気にかけてくれるのは感謝しかない。

 女帝陛下の指示により私とカーリアン及び女帝陛下の周囲にはさっき駆けつけた兵が目を光らせている。うん、この方が安心してワインが飲める。


「ジャンヌ、私の近くにいた方が良い」

「カーリアン、ありがとう」


 カーリアンからも声をかけられた時、ゆっくりとレーン様が私達の元へとやって来た。


「……この度はご婚約誠におめでとうございます」


 レーン様の顔はにやりと笑っていた。ただの営業用の作り笑いなのかそれとも何か別の意図を含んでいるのかまでは読み取れない。


「ありがとうございます。王太子殿下。そう仰っていただき光栄です」


 カーリアンはそう当たり障りなく返した。光栄です。という部分がなんだか少しだけねっとりとした感じには聞こえたけど。


「……ジャンヌ」


 レーン様が私の名前をぽつりと呼ぶ。そこへカーリアンが手で制する動きを見せた。


「ジャンヌ様、ですよ。王太子殿下」

「ああ、すまん。俺は……本当はジャンヌと婚約していた。だからなんだかルーンフォルド公爵に取られたような気がしてならないな」

「は?」


 カーリアンに私を取られた? 一体何を言っているのかよくわからない。しかも敬語じゃなくなっているし。

 そんな中レーン様はにこにこと笑ったまま話を続ける。


「メイリアは悪い女だ。俺は騙されたんだよ。あの女はよっぽど王太子妃になりたかったようだね。今になってようやく騙されたってわかったよ」

「何をおっしゃっているのです。騙したのはあなたの方ではありませんか? レーン王太子殿下」

「ルーンフォルド公爵。落ち着きたまえ。悪いのは俺でなくてジャンヌの妹だよ。それで俺はメイリアと離婚しようと考えている」


 いや、悪いのはあなただってそうだろう。レーン様。今に及んでそんな事を言い出すなんて馬鹿げている!


「ふむ、それで離婚してどうしようと考えているのですか?」

「ルーンフォルド公爵には申し訳ないが、ジャンヌを王太子妃に迎える。先にジャンヌと婚約していたのは俺だからな。かまわないだろう? リュシアン王国の王家男子は4大公爵家の令嬢としか結婚できないからな。ジャンヌを側室や公妾にするわけにもいくまい」


 は? と私とカーリアンが目を合わせる。この人、本気でそう言っているのか? 今まで一度も私を愛そうとはしなかったくせに。

 でもあまりの衝撃と怒りのせいでレーン様へかけるべき効果的な言葉が出てこない。


「いえ、それは不可能です。諦めなさい」


 そこへなんと女帝陛下が訪れてきた。傍らにはガラテナ王妃も一緒にいる。


「これはこれは女帝陛下。本日も見目麗しく……」

「そんな事はどうでも良いの。今私の可愛い2人に何を話していたのかしら?」

「ああ、俺はジャンヌをルーンフォルド公爵に取られたんですよ、だから返してほしいって言いました所拒否されてしまいましてね。母上、どうか言ってやってくださいよ」

「女帝陛下、うちの息子はメイリアさんに騙されたんです……」


 ガラテナ王妃がどう考えても乗り気じゃないのは見て取れた。でも彼女からしてもメイリアより私の方がはるかにましなのは十分理解しているんだろうなと言うのも分かった。本音と乗り気じゃないのが合わさっている。


「寝言は寝てから言いなさいな。ばかばかしい。ジャンヌを取られたからって取り返せと懇願するだなんて、王太子殿下のやるべき事ではありませんわ。あまりにも弱弱しくて情けないと思わなくて?」


 女帝陛下の笑みから放たれる鋭い言葉がレーン様の胸を貫いた。

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