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第25話 リュシアン王国side④

 メイリアはソファで寝転びながら珍しく本を読んでいた。

 本はリュシアン王国の歴史書。古びた分厚い本を読んでいるというか眺めている。

 

「はあ……」


 しかしながら彼女の顔は晴れない。時々眉間にしわを寄せてしかめっ面を見せている。そしてお腹に手が伸びていく。


「痛いわね、なんだか……張るような痛みだわ」

(もしかして生まれるのかしら? でも、予定より早すぎない? そういうものなの?)


 メイリアはふうーーっと大きく深呼吸をした後、呼び鈴を鳴らした。


「王太子妃様。いかがなさいましたか?」

「医者を呼んで頂戴。お腹が張るように痛いの」

「かしこまりました。今すぐにお呼びします」


 医者は近くにいた為すぐにメイリアの部屋へと駆けつけた。部屋に入るや否やメイリアはソファからゆっくりと立ち上がり、よろよろとベッドへ移動する。


「診察いたします」

「ええ、お願い」


 診察はすぐに終了した。医者はメイドが用意したボールで手を洗いタオルで拭きながら安静にするようにとメイリアに告げる。


「もう生まれるの?」

「わかりません。まだ時間がかかるとだけ」

「そう……じゃあ下がって良いわよ」

「ははっ」


 医者とメイドが部屋から下がった後。メイリアは目をつむってうつらうつらと眠り始めた。

 すると彼女の視界にはリュシアン王国城内にある建物に囲まれた芝に覆われた狭苦しい中庭と黒い喪服を着たジャンヌが現れる。そう、メイリアは夢の世界に入ったのだ。


「あらぁ、お姉様。何しに来たのよ。私に会いたかったのぅ?! いやだわあ、お姉様になんか会いたくないわ。とっとと消えて頂戴」

「……」


 メイリアの目の前に突っ伏しているジャンヌには、メイリアの声は届いていないようだ。


「ちょっとお姉様?! 聞いてる?!」

「……」

「お姉様?!」

「……あなたのせいよ。これも自業自得ね。メイリア」


 ジャンヌはその場にしゃがみ、地面を見つめている。その地面にメイリアが目を向けるとそこにはメイリアの首が転がっていた。


「ひいっ! な、なんで私の首が転がってるのよ!」

「……かわいそうね。でも、私の方がもっとかわいそうよね」

「お姉様は何もかわいそうじゃないじゃない! 私の方がかわいそうよ!!」


 メイリアがジャンヌに向けて声を荒げるとメイリアの視界は少しずつ薄く白くなり現実のものへと戻っていった。


「ん?」


 目覚めたメイリアは下半身が濡れているような感覚を覚える。更にメリメリというような痛みも感じた。


(これ、まずいかも……!)


 幸いベッド横にも呼び鈴があったのでメイリアはそれを必死に腕を伸ばして掴み、からからと鳴らす。しかし中々メイドは来ない。メイドが来ない間もメイリアは何で来ないのよ! と叫びながら呼び鈴を振り続ける。


「王太子妃様、何かありましたか?」

「何かありましたか? じゃないわよ! 痛いの! それに何か濡れてるし!」

「医者を呼んでます……!」


 それからメイリアの長い長い戦いが幕を開けた。本来なら用意されつつあった産屋へと移動し出産に臨む予定だったのだがメイリアはそこまで移動できるわけないじゃない! という事でメイリアの部屋で出産が行われる事となった。医者からの知らせを聞いたガラテナ王妃は予定よりも早まった事に驚きつつ、万全の体制を取るようにと指示を出した。


「レーンは?」

「今日は朝から視察に出ております」

「視察って嘘ばっかり。どうせ女の所にいるんでしょ?! 探し出して城に戻るように伝えなさい! 立ち会えなくても城内に控えておかなければいけないのに……はあ」


 レーンはこの日もマーサ……アルティナと共に貴族の屋敷で少人数のお茶会をしていた。ゲームをしながら紅茶を片手に呑気に楽しんでいる。

 

「王太子殿下はマーサさんをずいぶんと気に入っているようですね」


 と、屋敷の主のひとりである公爵夫人が笑う。彼女は4大公爵家に属する公爵家に嫁いだ女だ。


「ああ。時期が来たら公妾にするつもりだ。側室となるとどっかの貴族にマーサを養女に入れてからじゃないといけないらしい。ほんと堅苦しいよ」

「メイリア様よりマーサさんの方がお好き?」

「勿論だよ。マーサは良い女だ。礼儀作法もなってるしわがままも言わないからな」

「確かにそうですわね。マーサさんは私からもよき女性に見えますもの」


 と公爵夫人は言っているが内心では疑いと軽蔑の感情を抱いていた。


(貴族令嬢でも無い女がどうやったらレーン様の心を射抜いたのかしら。もしかして騙されているのでは?)


 公爵夫人はお菓子を取りに行きますから失礼しますわね。と言って席を立つ。そして向かった先は自室。そこにはメイドに変装・擬態した女性のアサシンが待機していた。


「マーサを始末なさい。レーン様を誑かしているに違いないわ」

「かしこまりました」

(マーサがいなくなれば、私がレーン様の愛人になれる。旦那への愛なんかとうに尽きたわ……!)


 その時だった。


「失礼します」


 マーサ……アルティナが公爵夫人の部屋に入って来た。


「!」

「ごめんあそばせ」


 アサシンはアルティナの首元に狙いを定めてナイフを向けるがすぐさま返り討ちにあった。背中に馬乗りになり、両腕をぎっしりと握り膝で踏みつけるようにして固定する。


「なっ……!」

「まもなくレーン王太子殿下がこちらに来ます。言い逃れは出来ませんよ?」


 公爵夫人はがっくりと肩を落とし、うなだれる。すぐさまレーンが部屋に来てアルティナは事情を全て包み隠さず説明した。


「なっ……マーサになんて事を!」

「だって! こんな卑しい女何を企んでいるかわかりませんもの! この女が公妾になるなんて嫌よ! 私を選んでくれたらよかったのに……!」

「お前は人妻だろう? 今はマーサが良いんだ。お前なんて興味はわかない」


 公爵夫人とアサシンはレーンが連れてきていた侍従と兵士により城へと連行された。最終的にはレーンの友人を殺そうとした罪という形で投獄される事になる。

 捕縛された公爵夫人とアサシンをレーンが急いで手配した罪人用の馬車に乗せている時、城からの使いがレーンの元へと到着した。

 

「王太子殿下。王太子妃様が産気づかれました。急いで城に戻るようにとの仰せです」

「早くないか?」

「王太子妃様も王妃様も驚いておいでです。何かあってはいけないという事で早く城へとお戻りになるようにと王妃様が……」

「戻らない。立ち会いも出来ないしいたって意味がないじゃないか。俺はこれからマーサとゆっくりするんだ。という事でよろしくな」

「で、ですが!」

「うるさい」


 レーンは腰に帯剣していた剣を抜き、使いの首元に向ける。使いの顔は一瞬にして血の気が引いて真っ青になっていく。


「ひっ……」

「もういけ。母上に何を言われようとも今日は戻らないからな。メイリアなんてどうだっていい。あんな女もう飽きたよ」


 吐き捨てるようにつぶやいたレーンはアルティナの右肩に手を優しくぽんと置き、馬車に乗るようにと促した。


「ごめんなマーサ。つまらん邪魔が入ってしまって」

「いいえ。王太子殿下こそご無事ですか?」

「俺は大丈夫だ。君こそ大丈夫だったかい?」

「ええ、私は無傷です。ご心配おかけしてしまいごめんなさい」


 アルティナが控えめ且つわざとらしさも織り交ぜながらレーンに謝罪すると、レーンは彼女を馬車の中で抱きしめてキスをする。そして我慢できなかったのかそのままアルティナを座席の上に押し倒したのだった。

 

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