第24話 出産
婚約パーティーが間近に迫りくる中、私達はその準備に追われる日々を過ごしている。当日身につけるドレスにアクセサリーの手配など、枚挙にいとまがないくらいだ。
しかも手配はほとんどカーリアンがしてくれた。経済大臣や公爵としての仕事の合間を縫って準備してくれたのは感謝しかない。
(アクセサリーもドレスもどれも綺麗すぎて選ぶのに時間がかかってしまった……!)
ネックレスはアーネスト帝国の領内で採れるダイヤモンドをふんだんに使用したものになる。このアーネスト帝国の領内で採掘されるダイヤモンドには「アーネストの雫」という通称が付けられている。
逆を言えばアーネストの雫はアーネスト帝国でのみしか採掘出来ない事も指している。だからリュシアン王国のアクセサリー以上に高価な代物だ。
(多分値段を付けるならリュシアン王国の王太子妃ティアラよりも高いわね、きっと)
また婚約パーティーにはガラテナ王妃も急遽出席する意志を示して来た。この期に及んでまさかガラテナ王妃も出席するとは思わなかったが……。
(多分、私の様子を見に来たいのね)
正直ガラテナ王妃にもレーン様とも会話はしたくないが私の幸せそうな姿を見せつける良い機会にはなるだろう。
レーン様はわからないけどガラテナ王妃には、ショックを与えられるかもしれない。
ーーーーー
そんな中、メイリアが男子を出産したという話が飛び込んできた。
昼過ぎといういつもより早い時間に宮廷から帰宅したカーリアンから急ぎの話があると言われ彼と共に書斎に入ると、そこで告げられた。
「そうなの? カーリアン」
「ああ、速報だ。だけど……」
「何かあったの?」
「子供の状態が非常に良くないらしい」
カーリアンからの情報をまとめてみる。
メイリアは予定よりも早くに破水したもののそこからがかなり長い時間を要したそうだ。
そしてメイリアは途中で気を失いそうになりながらもなんとか男子を出産したという。
男子だとわかった瞬間、髪も振り乱したまま疲れ果てて横たわるメイリアは狂ったように笑いだし喜んだとか。
(そうよね。男子を産んだとなれば跡継ぎを産んだ事になるものね)
だが、産まれた男子の産声は弱々しく、身体も予定よりも早くに産まれたせいか小さいそうで出産に立ち会った複数の医師の診察によると、予断を許さない状況にあるという。
「今リュシアン王国中の医師が城に呼び寄せられている。アーネスト帝国にも医師、特に赤ん坊を診れる者をすぐに派遣してほしいという依頼が来ている」
「だから情報がすぐにこちらにも届いたのね」
「ああ、そうだろうね。本来なら隠し立てしてもおかしくないシチュエーションだけど、本当にそれどころじゃ無いんだろうね」
「女帝陛下はなんて仰ったの?」
「すぐに派遣するとの仰せだ」
アーネスト帝国にはリュシアン王国以上にたくさん優秀な医師がいる。女帝陛下は寛大な決定を下したという訳か。
あとメイリアの状態はどうなのだろうか?
「メイリアの容態はどうなの?」
「こちらもあまり芳しくないらしい。産まれてきた子よりかはましだけど」
メイリアは陣痛により意識を何度か失いかけただけではなくかなり多量の出血を起こしたそうだ。また、後産も大変だったそうで今もベッドでほぼ寝たきりの状態なのだとか。
本人の意識自体ははっきりとしており、血を補う為にスープや大好物のお肉をしっかり食べているそうだ。
(意識がはっきりしていて食欲もあるなら大丈夫そうか)
「それなら直に回復しそうね。メイリアだから」
「姉である君がそういうならそうだろうね」
「レーン様は?」
「城内にはいないそうだ。出産には立ち会えないからいても仕方ないって事だろうね」
リュシアン王国では王子及び王太子、国王は妃の出産には立ち会えない。立ち会えるのはメイドと産婆及び医師。だから立ち会える男性は医師だけとなる。
出産に立ち会えないなら城にいても何にもならない。なら城にいる理由も無いって訳か。メイリアを孕ませた割には薄情な男だ。いや、もう愛情は冷え切ってリリアかアルティナにお熱なんだろうな。
(リリアもそろそろレーン様に捨てられるかもね。レーン様の事だから)
そしてその数日後。婚約パーティーの前々日の夜の事だった。
「メイリアの子が亡くなった」
「そうなの……」
「だがこの知らせは女帝陛下が放っている密偵からのものだから、公式発表はまだなされてない」
「じゃあ、しばらく隠すって事?」
「そうだと思う。大方メイリアがごねているんだろうけど」
「カーリアンもメイリアの事がわかるようになったのね」
それからカーリアンの話を更に聞くと、メイリアの子は解剖にかけられるか否かで揉めているそうだ。メイリアは亡くなった理由を知る為にも解剖にかけるべきだと言っているがレーン様は早く葬儀にかけたいと意見が割れている状態に至っている。
また、城内ではメイリアがわがままで欲しがりだからその罰だろうという噂で持ち切りとも聞いた。
いずれにせよ、メイリアの幸せはあっという間に終わったのである。