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第21話 契約結婚の誘い

「お気持ちは嬉しいです。でも……」

「でも?」

「今はその、結婚する気にはなれなくて……」


 私は胸の内を正直に隠す事無く女帝陛下に打ち明けた。女帝陛下はクッキーを頬張りながらうんうんとうなづく。


「カーリアン様は素敵な方だとは思っていますけど……」

「あなたならそう言うだろうと思っていたわ。全てお見通しよ。ああ、もちろん無理強いはしないから安心して頂戴ね。一番優先すべきなのはあなたの意見だから」

「え?」


 にこにこと笑う女帝陛下だが目つきだけは笑っていないどころかとても真剣なものになっている。それにしてもあなたならそう言うとだろうと思っていた、か。なんだか心を見透かされているような気分になる。


(そっか、カーリアン様の叔母だものね。似た者同士って事かしら……)

「最近、カーリアンを狙う悪い女の噂が後を絶たないのよ。カーリアンはそれでとても困っているのよね。もちろん私だって困っているわ」

「え、そうなのですか? カーリアン様?」


 それは初めて聞いたけど……でも高位貴族の若い独身男性、ましてや公爵家当主となるとあまたの女性が狙っていてもおかしくはない。


「ええ、そうなんです。なので虫よけとなる女性を探している所でもあるんですよねーー。そこでタイミングよくあなたと出会ったという訳で」

「だから優しくしていたんですか?」

「それとこれとは別です。客人を優しくもてなすのは今回の話とは関係なく基本中の基本且つ当たり前の事です」

(確かにド正論)


 私を山で助けて屋敷に連れて帰りもてなす。下心があろうがなかろうが確かに人を助けて優しくもてなすのは当たり前の事だ。

 おまけに視察への同行も出来た。実際悪い女と言う名の虫よけの為ならそこまでする必要はないかもしれない。


「カーリアン様は私の事をどのように思っているのですか?」


 核心に迫る質問を彼に投げかけてみる。


「こんな事を言って良いのかはよくわかりません。ですが私の気持ちを正直に語るなら、私はジャンヌ様を深く敬愛しています。ずっとお支えしていたいです。それにあなたを傷つけたレーン王太子殿下とその妻メイリア妃を許す事は出来ません」


 ああなるほど。彼と結婚する事であの2人への復讐も果たせる事が出来るのではないだろうか? このまま私がメイリアに全部あげただけじゃあ、フェアじゃない。向こうにもそれ相応の痛みは感じてもらわないと。

 私への深い敬愛と、私を裏切った2人へ対する怒りの気持ち。その2つを思いっきりぶつけられた私は身体中に稲妻のようなびりびりとした衝撃を受け、ごくりと唾を飲み込んだ。

 このような方とはもう2度と、出会えないだろうから。


「わかりました。私はあなたと結婚します。不束者ですがよろしくお願いします」

「ジャンヌ様……!」

「ジャンヌさん、唐突に決めちゃっても良いの? 最初はお試し期間を設けるというのでも良いのよ? ねえカーリアン」

 

 女帝陛下がカーリアンの顔を覗き込んだ。お試し期間か……それって契約結婚って事か? それとも婚約と言う事か?


「ジャンヌ様、えっとお試し期間どうします?」


 これまでずっと余裕な表情をしてきたカーリアン様がここに来て若干動揺の表情を見せている。


「お試し期間って、婚約の事ですか? それとも別です?」

「私はどちらでも構いませんわ。カーリアンにお任せします。契約でも本当でも、婚約してからでもすぐに結婚でも。アーネスト帝国の民はどちらでも祝福してくださるでしょう。愚かなクズ王太子に捨てられたかわいそうな公爵令嬢が異国の地で私の甥と結ばれ幸せを手にした、とね」


 うん、クズって言ったな。今度こそははっきりとクズ王太子と聞こえた。

 私かわいそうアピールにはなるし、アピールがうまく行けばアーネスト帝国どころか他の国々からもかわいそうだと構ってくれるだろう。

 やっぱりこれはレーン様とメイリアへの復讐にもなる訳だ。レーン様に捨てられたかわいそうな私が異国で幸せを手にしました。アーネスト帝国万歳! そしてリュシアン王国王家とクロード公爵家の評判は地に落ちるって訳か。


「そうですね。私がカーリアン様と結婚すればレーン様やメイリアへの復讐にもなる訳ですか。これまで私は逃げ回っていましたが、やっぱり逃げ回るだけではいきませんものね」


 その私からの返答にカーリアン様と女帝陛下はほんの一瞬だけ悪辣な笑みを浮かべた。

 やっぱりこの2人、1番怒らせたらいけない人だ。アーネスト帝国はこの2人がいてこそ、かもしれない。

 それに復讐は完遂させてこそ、じゃないか? 


「その復讐、完遂させたいです。あの2人が地獄に落ちる様を見たいか見たくないかで言えば間違いなく見たい。ですから……」

「もちろんご協力いたします。ジャンヌ様。そしてあなたをずっとお支えいたします」

「ありがとうございます。カーリアン様」


 こうして私はカーリアン様、女帝陛下とお茶会及び昼食をごちそうになりながら話し合った結果、ひとまずは形だけの婚約する事となった。

 

 婚約披露のパーティーは大々的に行われるという事も決定した。勿論リュシアン王国へ招待状も送付する。これまでは行方不明扱いだったけど、これからはアーネスト帝国にいるという事を大々的にお披露目する形となる。もう逃げも隠れも出来ないけど、いずれ見つかるかもと身を潜めているよりかは良いかもしれない。

 正直リュシアン王国とは関わりたくはない。が、復讐になるならむしろ招待状を送り祝福される私達を見せつけるのも良いかもしれない。


 だってあなた方の結婚式はとてもとても寂しいものだったでしょうから。


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