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第19話 お茶会

「女帝陛下はここに私がいる事を知っているのですか?」


 確かにそれに関しては言わない約束をしたはずだが。


「すみません。私がここにいるのは伏せてください」

「わかりました。では「ジャンヌ・クロード公爵令嬢は王太子殿下と婚約破棄をした」のと「王太子殿下はジャンヌ・クロード公爵令嬢の妹とただならぬ関係にあり、妹は妊娠した」という2点を報告させていただきます」


 というやり取りもきちんと脳内に残っている。という事は別の筋から情報を入手したとか?


「いえ、1週間後に開かれる女帝陛下のプライベートなお茶会に私も出席するのでジャンヌ様も同席してはいかがかと考えたのです。せっかくですしジャンヌ様は一度だけでも女帝陛下と顔を合わせておいた方が良い機会になるだろうと思っただけですのであしからず」

「なるほど、疑ってしまってすみませんでした」

「謝らないでください。疑うような発言をした私が悪いのです」

(確かにカーリアン様ってどこかうさんくさい部分はあるよね。本人には言えないけど)


 実際私はまだ女帝陛下とお会いした事は一度も無い。もしお会いできてお話も出来るとなればこれは良い機会になるだろう。

 ……女帝陛下が私の味方になってくれる事に越した事はない。


「では同席いたします。それにしてもプライベートなお茶会ですか」

「そうです。ジャンヌ様も把握しておられるかと思いますが、基本お茶会は貴族の者や他国から招いた客人と共に行う公式行事としてのお茶会と、家族や友人達をもてなしたりする私的なお茶会の2つに分けられます。今回は後者ですね」

「楽しみですね。女帝陛下とはまだ一度もお会いした事がありませんので」

「普段は優しいお方ですよ。家族思いのね。私が幼い頃にはよく手作りのクッキーをプレゼントされました。きっとお茶会でも女帝陛下が自らおつくりになったクッキーが並ぶ事でしょう」


 カーリアン様の思い出にに浸る顔を見ると、本当に家族仲は良かったんだろうなと思ったのだった。

 そういやカーリアン様のご両親は既に他界されているのだっけか。それならより女帝陛下はカーリアン様を放っておく事は出来ないだろう……。

 

 それから約束の日時が訪れ、馬車で宮廷へと向かった。馬車が止まりカーリアン様の手を借りて馬車から降りるとそこはすでに建物が立ち並ぶ中だった。四方八方に白亜の建物が幾重にも並んでいてまるで取り囲まれているような感じさえ受ける。


「え、ここって……?」

「ここは宮廷の中です。もっと言うと後宮ですね」

「ここが、後宮なんですか?!」

「はい。女帝陛下が即位してからは先代の皇帝陛下の皇后や側室達がここを住まいにしておりました。最も先代の皇后、もとい私の祖母は他界しているのでもっぱら側室達の住まいですけどね」

「一度嫁いだらここから出る事は出来ないのですね」

「そうです。だからここが彼女達にとっては終の棲家となっています」


 そうか。言われてみれば後宮と聞くと勝手ながらもっとわいわいしてそうなイメージがあった。しかし今はしんと静けさが漂っている。


「確かに静かですね……」

「ではお茶会が行われる会場へ向かいましょう。迷子になってはいけないので私についてきてください」

「はい、道案内よろしくお願いします」


 にこりと笑って前を向き、歩き出したカーリアン様。道を知っているのか迷う動作は見られない。それにしても辺りは白亜の壁で覆われていて、まるで石造りの海の底にいるようだ。

 建物の中と外をいったりきたりしているうちにどこからかハープを奏でる音が聞こえてきた。


「おや、このハープの音は……ラナン様ですか」

「ラナン様?」

「先帝の側室の1人で側室の中では最年少にあたる方です。先帝の晩年に召し抱えられた方なので」

「そうですか……キレイな音ですね」

「ラナン様のハープは美しいですからね、では行きましょう」


 目がぐるぐるしそうなのをこらえつつ、石畳のちょっとぼこぼこした道を歩いていくと開けた場所に到着した。美しく整備された芝生に花々。中庭だろうか?

 そしてその庭園のど真ん中には紺色のドレスを着用した中年くらいの女性が座ったまま白い陶磁器のティーカップに紅茶を注いでいるのが見える。


「女帝陛下。カーリアンです」

「あら、カーリアン。待っていたわ。お隣にいる美しい貴婦人はどなたかしら?」


 うわ、このお方が女帝陛下か。なんか女帝と言うよりかは平民の女性っぽく見えるけど、高貴な身分って感じのオーラ発してるような雰囲気を感じる。

 すぐさまカーリアン様から小声で自己紹介をと言われたので私は緊張しながら彼女へ向けて貴族の令嬢らしく挨拶をする。


「初めまして女帝陛下。ジャンヌ・クロードと申します。こっこの度はお目にかかれました光栄に存じます……!」

「あら、あのクソ王太子の……ああ、クロード公爵家のご令嬢ね。初めまして。こちらこそお目にかかれて光栄ですわ」


 今、クソ王太子って言った気がするんだが気のせいだろうか? まあ、確かにレーン様の女遊びの激しさに不貞にと褒められたものではないし、むしろ不快に思っていても仕方のない事なのだが。

 いや、気のせいじゃない気がする! 女帝陛下をちらりと見るとにこにことお上品に笑っている。ああこの人は怒らせたら1番危ないタイプかもしれない。


「さあさ、今日はゆっくりしていって頂戴。カーリアン。ここで昼食も頂いていく?」

「陛下、よろしいのですか?」

「ええ、お茶会しつつ昼食会も執務と一緒にすれば良いわ。その方が効率的よ。時々侍従がこちらに来ると思うけどそれでも構わないかしら?」

「もちろんでございます!」

(マルチタスクってやつだ……。私は苦手な方なんだけどさすがは女帝陛下ってとこかしら)

「それとあなたれっきとした大臣の1人なのだから、意見もお聞きしたいわ。ジャンヌさんもよろしくて?」

「私は大丈夫です。ジャンヌ様はどうされますか?」


 意見か……こんな私がアーネスト帝国の政治に口出しして良いものなのだろうか?


「私のような女がアーネスト帝国の政治に口を出しても構わないのですか? だってリュシアン王国から来たのですよ?」

「あなたが領地経営を頑張っていたのは勿論知っていますよ。それとカーリアンは経済大臣。様々な人から分け隔てなく意見を頂くのは政治にとっても重要な事です」


 女帝陛下の考えはまさに正論だ。それにしても私のような人間からの意見も聞くとは器が広い。


「ありがとうございます。女帝陛下。お言葉に甘えさせて頂きます」

「ええ、じゃんじゃん言ってくださいな。この広大な帝国をよりよいものにする為に必要な事ですからね」


 女帝陛下が私達を席に座るように促してくれたので着席した後は彼女が進めるままにクッキーやサンドイッチを口にした。サンドイッチはハムとチーズが挟まっているものとスモークサーモンとチーズが挟まっているものの2種類あり、どちらも塩気が癖になる。クッキーと小さく切られたパイもとても美味しい。


「陛下、ミートパイもお作りになられたのですね」

「ええ、カーリアン好きでしょう? ミートパイ」

「はい。幼い頃から大好きです。ジャンヌ様もぜひ遠慮なく召し上がってください」

「そうだ、思いついたのだけどジャンヌさん、ここで一生暮らさない? それなら住民票とかすぐに手配するわ。それと……」


 女帝陛下は一瞬私とカーリアン様、そして空を見上げた後にこりと笑った。


「カーリアンと結婚しない? 私が仲人を務めてあげるわよ」


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