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第16話 工作員

「あの、あなたは……」


 白いドレスを身に纏った黒髪の美女。カンテラの光を前方に向けて彼女の姿をよく見てみるとリュシアン王国ともアーネスト帝国とも違う雰囲気を持っている。なんとなくだがフミール族の女性と似ているような気がする。

 カーリアン様は立ち上がって、広間で話をしましょうと言ったので場所を中庭より明るい広間へと移した。


「アルティナ。ジャンヌ様へ自己紹介をお願いします」

「はじめまして。アルティナと申します。カーリアン様にお仕えしている者です。お会いできて光栄にございます」


 アルティナと名乗った女性は私へと貴族の令嬢らしく優雅なお辞儀をしてくれた。


「初めまして。ジャンヌ・クロードと申します」

「ジャンヌ様。こちらこそよろしくお願いいたします」


 それにしてもアルティナは美しさ気品さだけでなく男性を魅了するような妖しさも持ち合わせているように見える。


(レーン様は何も考えずに手を出してしまうんだろうな)

「アルティナは我がクロード公爵家に仕える工作員です。フミール族の女性で私の母親がクロード公爵家に嫁いでからは家族ぐるみでクロード公爵家に仕えて参りました」


 やはりフミール族の女性だったのか……って工作員?!

 クロード公爵家はそのような人材も雇っているのか……。


「あ、その公爵家が工作員を雇っているだなんて初めて知りました……」

「工作員は皇族達に仕えています。そして私は女帝陛下の甥にあたります。ですからクロード公爵家が工作員を雇うのも自然な事です。もちろん皇女の嫁ぎ先にも工作員は雇われています。それが他国であっても」

「そうなのですか……」

「理由は……言わなくてもおわかりでしょう?」


 そこは理解できる。


「ええ、はい」

「とまあ、紹介はここまでにしておきましょう。アルティナ。報告をお願いします」

「もう手紙が届いているかもしれませんがレーン王太子殿下はメイリア嬢と結婚するそうです。あと政治的なものは……あとでよろしいでしょうか?」


 ちらりとアルティナが私を見た。ああ、そっか。私がいるから話せないのか。


「ごめんなさい! すぐに退出します!」

「あ、いえ、後で構いません。こちらこそ申し訳ありません」


 広間から出ていこうとする私をアルティナが手で制した。少しだけ申し訳なさそうに眉を下げている。


「では、報告に戻らせていただきます。レーン王太子殿下と接触が出来ました」

「ほほうそうですか」

「彼はわたしをかなり気に入っているご様子に見受けられます。それにメイリア嬢の愚痴もこぼす頻度がだんだんと増えてきているように感じます」

「メイリアとは不仲なのでしょうか?」

「現状はっきりと不仲であるという証拠はありません。しかしながらメイリア嬢は妊娠しておいでなのでわたしはじめ他の女性を抱いているようです」

「レーン様が仰っていた愚痴を聞かせてください。アルティナ。ジャンヌ様もいらっしゃいますしね」

(うわ、カーリアン様すんごいあくどい笑みだ……)

「では……ごほん。「ジャンヌもたいがいハズレだけどメイリアはもっとハズレだよ。身体しかいいとこが無い。はあ、あのわがまま何とかならないかなあ……」です」

(うっそ、一言一句覚えてるの?!)


 さっそくレーン様はメイリアと言うハズレを引いたのを理解しているようだった。が、それ以上にアルティナがレーン様の言葉を全て一言一句覚えているのに驚きを超えてもはや戦慄さえ感じてしまう。


(アルティナさん絶対敵に回したらダメなやつよね、これ……)

「なるほど。そのようなひどい事をおっしゃられていたのですね。報告ご苦労様です」

「いえ、カーリアン様」


 ぺこりとお辞儀をするアルティナをよそにカーリアン様は腕組みをして何やら思案しているような仕草を見せる。


「やはりここはもっと手を打つより他ない、か……」

「カーリアン様、どうなさいました?」

「いえ、すみませんがここでお開きにしましょう」


 彼の言葉を受けて私は自室に戻る。カーリアン様と話していた最中はあれだけ感じていた疲れがどこかに行ってしまっていたのに、部屋に1人でいるだけでその疲れがまた身体中に戻ってきてしまっている。


「はあ……」


 ジャンヌもメイリアもハズレ、か。メイリアがハズレ扱いされていた事はちょっとだけ笑えるしざまあみろって感じだが私もハズレ扱いされていたのはやっぱりつらい。心の奥底でレーン様に期待していた自分がまだいるんだろうなと感じたのだった。

 

 それから視察は無事に終わり、帝都にあるルーンフォルド公爵家の屋敷に戻って来た。なお、アルティナはまたリュシアン王国へと馬に跨って駆けていった。

 彼女を見送った時、彼女はこれを。と私に何やら白い用紙でラッピングされた箱に入れられた贈り物をくれたので今からそれを自室で開けてみる。

 ラッピングをほどき、紙製の箱を開けると中には細かい網状の袋に入ったポプリが入っていた。


「わあ……良い匂い」


 ポプリは青い花びらで構成されている。ポプリと一緒に入っている用紙にはこちらは入浴用のポプリです。と記されていた。

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