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第15話 欠席

 私が「もし」いたら、リュシアン王国に戻って来いという事なのだろう。

 だが私にはリュシアン王国に戻る気はない。


「この「ジャンヌ・クロードお姉様がもしそちらにいましたらぜひ出席するように」という文面、他の招待状にも書いているんでしょうか?」

「書いているのでは? さすがにあなたがここにいるのを彼らが知っているとは思えないですし」

「そうですよね……手当たり次第ってところでしょうね」


 さすがに私がアーネスト帝国にいるという事は彼らにはバレていないと信じたい。


「他の招待状に書いているかどうかは女帝陛下はじめ見てみないとわかりませんが。ジャンヌ様はどうなさいますか?」

「勿論欠席で」

「かしこまりました。では招待状には私の欠席のみ記しておきますね」


 そうだ。カーリアン様の欠席のみしか記さないと私がアーネスト帝国にいる事がバレてしまう。


(それにしても急な結婚式だなあ、どうせメイリアのわがままなんだろうけど)


 メイリアの急なわがままだなんてしょっちゅうあった事だしどうせレーン様やガラテナ王妃が相手でも関係ないのだろう。むしろレーン様やガラテナ王妃に対してはざまぁみろという気持ちさえ湧いてくる。

 

(レーン様は責任を感じて貰わないとね。メイリアがいかにハズレなのかを)


 ほくそ笑みそうになるのを我慢しながら離宮で昼食を取った後はまた彼と視察に向かい、領民達の話を聞いた。

 話はどれも現状に満足しているものやカーリアン様への感謝ばかり。小さな要望こそあれど、不満は一切出てこなかったのである。

 視察を終えて離宮の自室のベッドで横になる。本当は夕食を摂りたかったけど、疲れが想定以上に酷く食欲も無いので取りやめたのだった。


「はあ……」


 疲れたとはいえ、嫌な気分は一切ない。むしろ驚きや発見ばかりで有意義かつ、もっと自分を磨かないといけないという思いにも駆られそうになっている。


「やっぱり、この国に……来てよかった」


 アーネスト帝国に来てよかった。リュシアン王国も未来の王太子妃の座なんかも捨ててよかった。心からそう思える。


「ジャンヌ様。失礼します」


 ベッドの上で手足を投げ出すようにして寝転がっている所へカーリアン様の声が響き渡る。私は疲れた身体を必死に動かし、急いでベッドから飛び起きて部屋の扉まで走った。


「ど、どうぞ……!」

「ジャンヌ様。パスタ入りのスープ召し上がりますか? これなら食べられそうかと思い、ご用意致しました」


 扉の前で立つカーリアン様の手には細やかな文様が彫られたシルバートレイが握られている。トレイの上にはスープの入った器と輝く銀のスプーン、そしてお白湯が入ったコップが乗っている。


「ありがとうございます」


 これならちょっとは食べられそうだ。カーリアン様から受け取って机に置き、ゆっくりと口に含む。カーリアン様はまた食べ終わった頃にお皿を回収しに来ると言って立ち去っていった。

 スープは野菜が欠片ほどの大きさ。少し薄めの味付けだが塩気だけはしっかりと効いていて疲れた身体に染みわたって来る。細長いパスタも柔らかく煮込まれていて食べやすい。


「美味しい……」


 あっという間にスープを飲み干して安楽椅子の上に座って白地に金の縁取りや大輪に咲く花の文様が描かれている天井を眺めていると、カーリアン様が再び部屋に現れたので彼にシルバートレイごとお皿を渡す。


「美味しかったです。ありがとうございました」

「頂けたようで何よりです。明日も視察があるのでしっかり食べておかないと、最悪バテてしまう可能性がありますから」

「そうですよね。ご心配をおかけしてすみません」

「いえいえ、私も今日は疲れちゃってあまり食べてないんですよ。だからジャンヌ様とお揃いです」


 にっこりと笑うカーリアン様。その笑顔はどこか無理しているような感じが少しだけ見られた。


「……無理しなくていいですよ。カーリアン様」

「お気遣いありがとうございます。それでお願いがあるんですが」

「なんでしょうか?」

「中庭で星でも眺めませんか? 疲れてるんですけど眠れなくて」

「もちろん。ぜひ」


 中庭のベンチに移動し、そこから空を見上げた。リュシアン王国で見たそれとは変わらない、綺麗な星空が見えている。


「綺麗ですね。リュシアン王国でもアーネスト帝国でも同じように美しく見えているのはとても良い事じゃあないでしょうか?」

「なるほど。それは確かに良い事ですね。どこにいても景色が変わらないのは良い事です」

「カーリアン様は星を眺めたりするのですか?」

「寝付けない時はたまに見ます。寒い日はホットミルクを片手に」

(おしゃれだなあ……さすがは公爵家当主)


 すると後ろからこつこつと靴音が静かに響いてきた。誰だろう、メイド?


「?」


 音が鳴る方を振り返るとそこには女性がいた。メイドの服ではなく貴族令嬢のような装いをしている。でもこんな時間に貴族令嬢が1人でアポも無く来るのは不自然だ。


「カーリアン様。ただいま戻りました」

「ああ、アルティナ。よく戻って来ましたね。お疲れさまでした」


 

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