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第12話 大農場

「ぜひ!」


 これは即答するしかない。だってアーネスト帝国の、それもルーンフォルド公爵領地なのだから絶対に行ってみたい所だ。


「そうですか。あなたならそう答えてくれると思っていました。あなたの領地経営での手腕はもちろん存じておりますので意見があれば遠慮なくどんどん仰ってください」

「……はい。よろしくお願いします」


 ルーンフォルド公爵家の領地は一体どのような場所になるのか。確か帝都の近くだとは聞いているけどまだ目にした事が無いのでとても楽しみだ。

 それから夕食後もわくわくとした感情がやまなくて全然寝付けなかった。


「おはようございます」


 朝。メイド2人が私を起こしに部屋へと訪れた。私は目をこすりながらもなんとか身体を起こして彼女達へと挨拶をする。


「おはよう……ございます」


 挨拶をするや否やメイド達はてきぱきと私の服の着替えからお化粧に髪結いを手伝っていく。いつもの事ではあるけどこの慣れた感じと無駄のない動きに今日はより一層おいてけぼりになりそうで怖い。


「出来上がりました。朝食がご用意されていますので食堂へどうぞ」

「ありがとうございます。では行ってきます」


 食堂へ入ると既にカーリアン様が椅子に座っていた。こちらを見ると椅子からばっと立ち上がって、おはようございます。と深々とお辞儀をする。

 これもいつもの事ではある。どちらも公爵家の人間ではあるけどカーリアン様はルーンフォルド公爵家の当主で私はクロード公爵家の娘で王太子の元婚約者。別にそこまでかしこまらなくても良いようにも思うんだけど、まあいっか……。

 

 食事の後、そのまま私はカーリアン様とメイド1人と共に馬車に乗り込んだ。


「今回の視察は1週間とかなり大掛かりなものになります」

「えっ」


 それは初めて聞いた。しかも荷物は1週間分まとめていないのだが……!


「カーリアン様、荷物は……!」

「ご心配なく。メイドが1週間分用意してくださっていますし宿泊場所となる離宮にはありとあらゆるものが置かれていますから」

「り、離宮に泊まるんですね……」

(最初から教えてくれたら良かったのに……)

「本当はサプライズで直前まで秘密にしておきたかったんですがね」

 

 いたずらっぽく笑うカーリアン様。私を驚かせる為に言わなかったのか。


「アーネスト帝国の離宮ですから素晴らしいですよ?」


 と、今度は自信満々な笑みに変わる。何度も思うがカーリアン様の愛国心は揺るぎないものなのがよくわかる。


「ぜひ見てみたいものです」

「ええ、ぜひジャンヌ様の目に入れたいと思っておりましたから」


 ごとごとと馬車が移動する。周囲の建物の数がどんどん減り代わりに田畑と森林が増えていく。田畑はリュシアン王国のそれより簡潔に言うと、綺麗に整備されているし田畑1つ1つがどれも大きい!

 実際リュシアン王国は小国でアーネスト帝国は広大な大帝国。やはり領土の違いもあるのだろう……。


「農場が気になるのですか?」


 カーリアン様から声をかけられたので、頷く。


「この辺一帯は大農場です。ただの田畑ではありません」

「農場……ですか」

「はい。ルーンフォルド公爵家が代々所有してきた土地に農民を雇い住まわせる事でこうして農業をやっている……という訳です」

「なるほど。賃金制ですか? そして歩合制か違うのかもお聞きしても構いませんか?」

「歩合制ではありません。毎月決まった額の給料をお渡ししています。ちなみに大農場で収穫された野菜は市場に並んだり交易の品になったり皇族や我がルーンフォルド公爵家に軍に献上されます。そこから売上金の一部を給料として農民に与えているのです」

「儲かるんですか?」

「安定して儲かると言えば嘘になります。だって相手は自然なのでうまくいかない時だってあります。でもこちらとしては給料の未払いや給料の削減はしたくありませんからそう言う時が起こればなんとかします。幸い私が当主に就任してからはルーンフォルドの大農場が不作に至った事はこれまで1度も有りません」


 それはすごい。不作に至った事は一度もないとは……。


「オフシーズンは皆、どうして過ごしていらっしゃるんですか?」

「担当している作物によって変わりますね。オフシーズンが無いパターンもあります。まず1つ目の選択肢としては別の仕事をさせています。漁業や宝石・炭鉱の採掘を手伝わせたりですね。そしてもうひとつはここから別の大農場を見ればわかります」


 馬車がごとごとと移動して大農場から巨大な縦長の建造物へと景色が変わった。灰色のレンガ造りの建物は工場か何かだろうか?


「これは……?」

「あれも農場です。中でキノコを栽培しています。ここは年中栽培しているのでその手伝いをしたりしています」

「なるほど……」

「他にも仕事に空きがある者には畜産業を手伝わせたりもさせていますね」

「ふむふむ……」


 リュシアン王国にここまでの大農場や工場のようなキノコ農場は無い。本当に驚かされる。


「この大農場で働く農民の福利厚生は手厚く保証していますし休暇もちゃんと取得出来るようにしています。男女関係なくですね」

「素晴らしい農場ですね……」


 私も領地内で働く平民へは手厚くしてきたつもりだ。でもアーネスト帝国及びルーンフォルド公爵家とのスケールの違いをひしひしと感じさせる。

 何より歩合制ではなく固定給制で働く農民というのは初めて聞いた……。

 その後も話を聞いたが細やかなシフトスケジュールなどまさに「管理」されているのがよく理解できた。


「せっかくです。ここで一旦止まって大農場を見てみますか」


 キノコ農場からまた田畑の広がる大農場へと景色が変わった所で馬車がゆっくりと停止した。

 カーリアン様の手を借りて馬車を降りると大農場で働く農民達が出迎えてくれた。皆リュシアン王国の農民と比べると清潔感と高級感がある見た目をしている。あまり農民らしく見えない。


「公爵様、ようこそいらっしゃいました!」

「皆さんお仕事お疲れ様です。田畑の案内をよろしくお願いします」

「はい、かしこまりました! ここ一体は麦を育てております。生育はどの区画も滞りなく進んでおります!」


 それにしても、ここの農場の人達はルーンフォルド公爵家屋敷の使用人達のような統制の取れた動きをしている。そこもあまり農民らしく無い。


「カーリアン様」


 私は小声で彼に耳打ちをする。


「リュシアン王国で見る農民とは違う気がします」

「それもそうですね。だって大農場で働く農民はただの農民ばかりではありませんから」

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