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第11話 視察への同行

「皆さんはじめまして。ジャンヌ・クロードと申します。よろしくお願いします」

「彼女はリュシアン王国の王太子と婚約破棄をしてこのアーネスト帝国へと訪れてくれた。王太子はジャンヌ様の妹と不貞を犯しさらには女遊びも激しいと言うひどい男だったようだ。皆、彼女を丁重にもてなしてほしい」

「はい、公爵様」


 一糸乱れぬ動きと声。まるで軍隊のように統率がとれたメイドと使用人達の動きに思わず見とれてしまっているとカーリアン様は私の方へと覗き込むようにして顔を近づけてきた。


(わっ近い)

「どうなさいました?」

「あ、いや、すごい統率がとれているなって。リュシアン王国でこういうのは見た事無かったもので」

「? 当たり前かと思っていましたが……どうやらリュシアン王国は結構ルーズなんですね?」

「まあそこは人によると思いますが……」


 両親もメイリアもレーン様も真面目な方ではない。レーン様は最初見た時は真面目な方だとは思ったけどメイリアに手を出した時点で真面目じゃないと言うか女関係がふしだらすぎるし……。ガラテナ王妃は真面目過ぎて逆に几帳面すぎると言うか、ちょっとの事でも突っつかれると言うか……。


「まあ、色々あるんですよ。リュシアン王国の人達は」

「そうでしたか。失言をお詫びします。申し訳ありませんでした」

「いやいや、謝らないでください」

(実際私の周囲はろくでもないやつらばっかりだったし。メイドや使用人や仕事相手だったら真面目な良い人も少なからずいたけど)


 それにしてもこの屋敷はとにかく広いうえに部屋が圧倒的に多い。それに地下フロアもあるので迷子になってしまいそうなくらい部屋は多い。

 区画自体は前後に分かれていて手前がカーリアン様の仕事部屋に書斎、図書室にお客様をもてなすゲストルームがあって中庭の池を超えた後ろの区画には女性や使用人、メイドらの居住フロアや巨大な厨房などがある。

 また地下にも図書室や資料室にドレッサールームや遊戯場などがあるそうだ。


「ジャンヌ様はこの中庭を挟んだ奥の区画に住んでいただくようになりますがよろしいですか?」

「もちろん大丈夫です」


 中庭の池は広大で、そこには水色の蓮の花が咲き乱れていた。蓮の花はこれまで図鑑の絵でしか見た事が無かったので驚きだ。その池のど真ん中をぶった切るようにして広々とした渡り廊下が設置されていてそこから行き来するようになっている。また渡り廊下から左右に小さな廊下が枝分かれしていて東屋に繋がっている。どれもとても幻想的な景色に見える。


「あの、蓮の花はどこから持ってきたんですか?」

「アーネスト帝国の隣国かつ東の方にあるローラン国という国から移植してきました。こことは全く違う文化が広がっている国ですね」


 ローラン国。あちらの文字だと楼蘭国と書く国で、広大な領土を誇るアーネスト帝国にとっては隣国で重要な同盟相手でもある。確かアーネスト帝国との交易は盛んでアーネスト帝国で作られた食器類にガラス類は楼蘭国でもかなりの人気を誇っていると聞いた。リュシアン王国にもごくまれににローラン国の使者が訪れてガラテナ王妃と謁見していたっけ。

 そしてフミール族はこのローラン国にも出没しているどころかローラン国の西の方を本拠地にしており、他にも拠点がいくつかあるという噂だが、ローラン国の王自体は彼らを敵視しているとは今の所聞いた事が無い。

 

 それにしてもフミール族の行動範囲は非常に広い。今はリュシアン王国を目の敵にしているのでもっぱらリュシアン王国との戦闘がメインか。

 それにしても遠い所からよく移植出来たものだ。蓮の花弁も大きくてバラよりも大きいんじゃないかってくらい大輪の花を咲かせていて色も透明感があり美しい。これは花瓶にいけたらすごい煌びやかになりそうだがそのまま眺めるのも面白い。それに葉には水をはじく効能があるのか、水の玉が葉の上にちょこんと乗っているのも見える。


「ほほう……カーリアン様はその国に行かれた事があるのですか?」

「はい。女帝陛下の名代として何度か行った事があります。このアーネスト帝国とは雰囲気も文化も言語も何もかも違っています。でも皆穏やかで優しくて親切でした」


 彼からローラン国に行った時の話をいくつか聞いてみた。ローラン国では主に馬車とラクダという動物に乗って移動するのと2種類の交通手段があり、馬車は石畳や土の平らな道で使われるのに対して、砂漠と呼ばれる黄色っぽい砂が広大に広がっている上に乾燥していて日中と夜とで寒暖差がえげつない場所ではラクダの背中に乗って移動するのだそうだ。

 それとカーリアン様はローラン国の衣装にも袖を通してみたらしく、首回りがすーーすーーしたとか。食事も独特でトウガラシなどの香辛料を使った料理は舌がぴりぴりしたらしいものの、小麦粉を練って作られた蒸し料理などはとても美味しかったそうだ。


「そうなんですね……私も行ってみたいです」

「ジャンヌ様、いつか行ってみましょうね」


 カーリアン様が後ろに手を組んだ状態でにこりと笑う。紳士的な笑みが私の心を癒してくれているような気分だ。

 ああ、もっとこんな優しい方にお会いできればよかったな……。


(もっとカーリアン様と親睦を深めていれば……いや、レーン様との婚約という道からはどうしても逃れられなかったか。でも早くにメイリアに譲っていればこんな事にはなってなかったかな……)


 今更ながらもっと早い段階でメイリアに全部押し付けていればよかったと後悔の気持ちが湧いてくるが、じゃああの両親がそれを許すか? と自問自答してみるけど答えは出なかった。

 それから私はすぐにこのルーンフォルド家での暮らしに馴染む事が出来、日中は図書室で本を読んで知識を得て午後からは刺繍をしたりして過ごしていた。

 そんなある日の夕食。カーリアン様と共に大食堂にて夕食の前菜である野菜の煮込みを食べていた時だった。


「ジャンヌ様。この暮らしにも幾分慣れてきましたか?」

「はい、おかげさまで慣れました。とても快適で過ごしやすいです。いつもおありがとうございます」

「いえいえ、感謝には及びませんよ。それでもしよろしければ明日から私はしばらくルーンフォルドの領地へと視察に行くのですが、ジャンヌ様もご同行されますか?」




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