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第10話 リュシアン王国side

「王太子レーン殿下がジャンヌ・クロード公爵令嬢と婚約破棄した」


 というニュースは瞬く間にリュシアン王国の貴族達だけにとどまらず平民達にも知れ渡った。

 そしてレーンの子を身ごもった女がいるという情報もいずこから漏れ出てしまったのである。

 王家はメイリアがレーンの子を身ごもったという事実だけは平民や貴族達から反感を買われるのを恐れて公表せず、メイリアが出産しレーンと結婚してから公表する予定だったのだが。


「女遊び激しいからいつかはこうなると思っていたよ」

「ジャンヌ様も可愛そうだよなあ。クロード公爵家からすれば本当に損失だ」

「レーン殿下と関係持った女は誰なんだろうな」

「どうせ娼婦だろう。娼館入り浸っていたし」

「娼婦から王太子妃は無理だよなあ。せめて公妾か側室だよな。そもそも王妃様が許さなさそうだよ」


 平民達の間ではレーンの子を身ごもった女は誰かという話題でもちきりになっていた。

 しかし貴族達の話題は別だった。


「ジャンヌ様がいなくなったらしい」

「婚約破棄してから城内にいるのを見ていないそうだ」

「もしかして秘密裏に処分されたのではなくて?」

「処分て……そんな人殺しだなんて王家がするはずないですわよ」

「でもクロード公爵家からすればこれは恥辱だろう。クロード公爵家はジャンヌ様に対して昔から厳しく接していたではないか」

「もしかしてジャンヌ様は修道院に入れられたんじゃないかしら。奥院は訳あり令嬢の牢屋みたいなものじゃない」

「えーーそれならジャンヌ様が可愛そうよ。彼女何もしてないのに」

「ねえ、大変! レーン殿下の子を身ごもったのはジャンヌ様の妹のメイリア様らしいわよ!」

「ええ、あの性悪女が?! 姉の婚約者を寝取るだなんて趣味悪くない?」

「うわあ……それは酷いわ。ジャンヌ様がかわいそう。もしかしてジャンヌ様はメイリア様に殺されたんじゃない?」


 という平民達の話題以上に物騒なものだった。勿論メイリアを嫌う令嬢は少なくないので当然の反応ではある。

 

 ジャンヌが城から出た後、フミール族の撃退に成功した王家。城にはジャンヌがいた部屋へ入れ替わるようにしてメイリアが入ったのだが早速トラブルが発生した。


「ちょっと! この部屋狭すぎるわよ!」


 メイリアは部屋の広さに納得がいかず、もっと広い部屋に住まわせるようにと使用人や侍従達に要求していたのだ。しかし彼女はまだ王太子妃でなければレーンの婚約者でもない。ただの公爵家令嬢だ。そんな人物なのだからジャンヌの部屋で暮らせられるだけありがたい所なのだが、どうやら彼女はそうは思っていないらしかった。


「すみません。規則となっておりますので」

「はあ? 何よそれ。私にさからうって言うの?」

「さからうとは?」

「私の命令にさからうのかって言ってるのよ!」

「さからうも何もあなたはクロード家の令嬢ではありませんか。王家の者ではございませんし」

「うっ……うう、うわああああん……! いじわる! レーン様に言いつけてやる!!」

「なっ……!」


 メイリアは専用の執務室で執務中のレーンまでわざわざ泣きつきに行った。使用人や侍従達は皆困惑の顔を浮かべているばかりである。


「なっメイリア……! 今は執務中だぞ……」

「レーン様聞いて! 使用人の人達が私に意地悪するのぅ! 狭い部屋に入れられるのよ!」

「でも俺達はまだただの関係で君はクロード家の令嬢じゃないか。婚約もしてないし」

「お願い! 早く婚約だけでもして! じゃないと私あの狭い部屋に結婚するまでずっと入れられちゃうの! それはいや!」

「はあ……」


 レーンは頭に手を乗せて困り果てた表情を浮かべるが側近達は誰もレーンに手を差し伸べようとはしなかった。それだけ彼の信用が低いと言う証左だろう。

 

「メイリアさん?! 執務中に何をしてらっしゃるのかしら?」

「王妃様!」


 ここで事態を聞いたガラテナが執務室に入って来た。レーンは更にはあ……と大きく息を吐いた。


「メイリアさん。婚約はあなたの子供が生まれてからよ。じゃないと貴族達が私達を信用しなくなってしまうもの」

「そんなの適当に言わせておけばいいじゃないですか! 王家が貴族の言いなりになる必要なんてありません!」


 この時点でメイリアはまだ貴族である。この反論は彼女にとってはブーメランとも言えるのだがどうやら彼女はそれに気が付いていないようだ。


「あのね、貴族がいてこその王家なのよ。それに王家の男子は代々4大公爵家の令嬢から結婚相手を選ぶという事になっているのはあなたも知っているでしょう? だからーー」

「お願い! 私あんな狭い部屋にいたくないのぅ!」

「あの部屋にジャンヌさんはいたのよ? ジャンヌさんは狭いとは一言も言わなかったのに」

「私と出来損ないなお姉様を一緒にしないでください! うわあああん!!」


 メイリアの癇癪は止まる気配がない。呆れたレーンの側近が一旦執務室から出るようにメイリアへと進言するがメイリアは聞く耳を持たない。


「嫌よ! あの部屋がどうにかなるって決まるまではここを出ていかない! レーン様、何とかしてください!」

「ふう……わかった。じゃあ俺の隣の部屋を使えばいいさ」


 その決断にメイリアは泣き止んで目を大きく丸くさせたが反対にガラテナの眉間にはより深いしわが刻まれる。


「本気で言ってるのレーン?! 彼女はまだ令嬢の身、甘やかすのは……」

「そうやって厳しくするからいけないんだろ。こいつは甘やかした方が良いんだ」

「レーン様……! ありがとう! 大好きですわ!」


 メイリアはレーンに抱き付き、右頬にキスをする。ただレーンはメイリアには気づかれないように、ややうっとおしそうにした表情を浮かべた。


「これで解決したろ? じゃあ、下がれ」

「ええーー、もう少しいたいわぁ。レーン様の素敵な姿見たいもの!」

「やれやれ……わかったから、少しだけな」

「はあい」


 ……内心、レーンはメイリアをめんどくさいと感じ始めていた。最初メイリアは単なる遊びのつもりで彼女に手を出したレーン。思ったより身体の相性が良かったのでその後2度くらい抱いた後メイリアは妊娠した。

 ジャンヌへは最初から愛は無かったし、陰気なジャンヌを抱こうとも思わなかったレーンだが、メイリアは別だったようだ。

 しかしながらメイリアはわがままで欲しがりな性格。レーンはメイリアをめんどくさい上に彼女に手を出したのはまずかったな、まるでハズレを引かされたと薄々後悔しつつあるようだ。

 一方クロード公爵家では……。


「ジャンヌはまだ見つからないのか」

「はい、当主様。城を出たのは事実のようですがそこからの消息は掴めてないようです」

「王家はジャンヌを探していないのか?」

「みたいです。婚約破棄した令嬢に目をかけるほどの余裕は無いと」

「はあ……国中を探すんだ。とにかくあの不出来な娘は探して離れにでも押し込めてやる。メイリアがいたから良かったものの王太子と婚約破棄などクロード家の恥だからな」

「かしこまりました」


 執事が会釈をして近くの使用人に指示を出す。


「全く、誰のおかげで王太子殿下と婚約出来たと思っているんだ……! それに領地の経営は行き詰まるし良い事がないではないか」


 クロード公爵の怒りに満ち溢れた呟きが、リビングホールに冷たくこだまする。

 

 

ーーーーー


 夜。レーンはいつものように娼館へわずかな家来と共に向かって行っていた。山を馬で降りて街へと到着した時彼の目の前に一瞬で浮かび上がったかのように若い女が現れる。


「おい! 王太子殿下の前で不敬だぞ!」


 だが、女は妖しい笑みを浮かべたまま白いドレスの裾を持ち上げ、なんと太ももまでたくし上げてレーンを誘惑する。レーンはその誘惑に一撃で負けてしまったのだった。


「おい、今日はそいつでいい。今から王家所有の建物に案内しよう」

「……ふふ」


 この妖しい笑みを浮かべた美女の正体は……。


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