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癒やし、その8 登録

 田中は書類に一通り書き込んで提出した。名前の欄には名字だけ書き込んで、出身地は一瞬悩んだが、田中が知っているこの世界の国の名前は一つしかない。キナの出身国である帝国とだけ書き込んだ。


 そして次の【トレジャーハンターとして目指す宝物】という欄に、


【結婚】


「ハッ!」


 まずい。何を書いているのだ。グーリンデから言われたことが衝撃的過ぎて、そのことばかり考えてたら、こんなことを書いていた。何とか書き直したいと思った田中だが、修正液なんて便利なものはどこにもない。


 何とか羽ペンで消して、【異界の迷い物】と書き直しておいたのだが、受付嬢の目の前で書いたので多分見られた。


「エルフならともかく人種で42歳はもう諦めた方がいいと思うにゃ」

「そうですねー」


 田中は、この受付嬢の前で、もう一生分の恥をかいたと思った。


「じゃあ、最後に鑑定球に触って欲しいにゃ」

「鑑定球?」

「そうにゃ、42歳にもなって知らないにゃ?」


 この世界では常識らしい単語のようだ。だが、田中は当然この世界の常識がない。でもグーリンデの言葉では、【異界の迷い子】であることを知られない方がいいようだ。ここはうまくごまかしておいたほうがいいだろう。


「あ、いえ、最近見ることがなかったもので」

「まあそんなにしょっちゅう見るものではないにゃけど……。まあいいにゃ。これに触るにゃ」


 受付嬢はそう言ってカウンターに置かれていた丸い水晶のようなものを指さした。それはほかの2人の受付嬢の席にも置かれていて、隣を見ると、ちょうど同じ人種の若い男が鑑定球に触れているところだった。


 若い男は、田中も出すことができるようになったステータスボードを鑑定球の前に出していた。ステータスボードは人前で出していいものなのかと思ったら、若い男のステータスボードは名前と職業欄しか表示されていなかった。


 田中はあれでいいのかどうか戸惑いながらも、ステータスボードに名前と職業だけになってくれと願った。そして、表に出した。そうすると、


名前:タナカ

職業:雇われ商人


 と書かれたステータスボードが現れた。田中が前に出した時と表示の仕方が違う。この世界の仕様に合わせてくれているということか?田中はステータスボードさんはとても優秀だと思った。そうしてから田中は横の人の真似をして鑑定球に触れた。


 そうするとステータスボードの表示が変化して行く。そこにはギルド側として必要と思われる内容が表示されているようだった。


名前:タナカ

職業:雇われ商人

犯罪歴:なし

年齢:42歳

適正ジョブ:魔法使い

適正トレジャーハンターランク:ブロンズ


 と、表示されていた。


「犯罪歴なし、適正ジョブは魔法使いにゃね。適正ランクはブロンズ。なるほど魔法がそこそこ使えるから急に夢を叶えたくなったとかいうそういう感じにゃね。おじさんにありがちなことにゃ。OKにゃ。離していいにゃよ」


 田中の世界でもAIによる自己診断ができるようになってきたが、こちらは触るだけで、田中の中から情報を吸い出せるようだ。


 魔法によるものだろうか?


 田中にはいまいち判断がつかなかったが、おそらく、そういった類のものだろう。でも、おそらく今表示している内容以上の情報は表示されないらしい。


「じゃあブロンズからトレジャーハンターを始めてもらえばOKにゃ」


 OKにゃ。と言われても正直、何をどうしていいのか分らなかった。トレジャーハンターとしての説明みたいなものはないのだろうか?


「トレジャーハンターについての説明はいるかにゃ?」


 田中の戸惑いが伝わったのか、そんなことを言ってくれた。今日初めてこの受付嬢が親切かもしれないと思った。


「ええ、では、お願いします」

「必要ありません。私の知り合いですから」


 その言葉は田中ではなくてグーリンデだった。振り返るとその姿があった。変わらず綺麗な人だ。先ほどまで一緒にいたキナとヒトミの姿はなかった。


「グーリンデにゃ?にゃんか用事にゃ?」


  受付嬢はグリーンデを知っているようだ。


「ええ、これからこのタナカさんと2人パティーになるので、その申請です」

「2人パーティー?グーリが42歳の人種の男と?」


 受付嬢は驚いている。無理もない。田中だって驚いている。


「はい」

「キナとヒーちゃんはどうしたにゃ?」

「先ほどパーティーを解散しました」

「ず、随分、突然にゃ。そういうことは事前にギルド側に言っておいてほしいにゃ」


 田中もそう思う。できればもうちょっとちゃんと相談してから、結婚の話はして欲しいところだ。


「すみません。タナカさんは昔お世話になった人種の方のご子息なのです。私はその恩返しで、しばらくの間、この方の面倒をみることにしました」

「そうにゃのか?」


 にゃーにゃー喋る人が不思議そうに田中を見てきた。


「え、ええ、まあ、グーリンデさんとは昔から懇意にさせてもらってます」


 田中は調子を合わせた。営業職を始めて24年。これぐらいの臨機応変さは持っていた。何よりも受付嬢の様子からしてグーリンデはここでそれなりに知られている人物のようだ。それならば変な意地を張って恥をかかせるわけにはいかない。


「初心者でグーリに教えてもらえるにゃんて、運のいい奴にゃね。じゃあ本当にパーティー替えにゃ?」

「ええ、タナカさん。それで構いませんよね?」


 綺麗なグーリンデの瞳で見つめられるとすぐにでも頷きたくなった。しかし、田中には地球に帰る方法がある。会社だって辞められるなら辞めたいが、この年で無職は正直きつい。


 今の職場もさんざん探して、やっと見つかった場所である。次に探すのは、おそらくもっと苦労する。いや、それでも会社だけのことなら、グーリンデの言葉に全面的に乗っかったと思う。


 しかし、地球には両親もいる。帰らないわけにはいかない。


「あの、グーリンデさん。ちょ、ちょっと、そっちで先に大事な話をしておきたいのですが、いいでしょうか?」


 次元のつなぎ方も10日と1日でずっといいのかという気もする。何しろそれだとこちらにいる時間が長ければ長いほど、向こうですごいペースで田中は年を取っていくことになってしまう。


 グーリンデともしか、もしかであるが、結婚などしたらずっと夫婦として生活をすることになる。もしもこちらに長く居すぎて20、30年経てば親の年齢を越えてしまう。浦島太郎になってしまう。


 田中はとにかくグーリンデと話し合わねばと思った。


「タナカさん。私ももちろん今後のことについての話し合いはするつもりです。でも先にパーティー登録を終わらせておきたいのですが……」

「グーリンデさん。大事なことなので先に言っておいた方がいいと思うのです」

「ふむ……、タナカさん」

「はい」

「私、キナによく勝手に思い込んで突っ走るなと言われるんです。ひょっとして、何か突っ走っているでしょうか?」


 田中はむしろ突っ走っている部分しかないと思った。ひょっとするとあのパーティーの苦労人はキナかもしれない。


「い、いえ、できれば私としましては一度冷静になって話し合っておきたいと」

「グーリ。何かこの人困ってるにゃよ。あと、話なら個室が今日は空いてるにゃ」

「分かりました。ではニャルテ。個室をお借りしますね」


  そうして田中はグーリンデと2階にある個室に入った。

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