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癒やし、その3

 ステータス画面を相変わらずそのまま出して、テレビをつける。田中には大変なことが起きたけど世間は相変わらずそのままで、テレビではあの地震に対する速報が流れているわけでもなかった。


 田中は自分で作った肉じゃがは綺麗に食べて、洗い物も終わらせて、ビールのおつまみを作ることにした。ジャガイモをポリ袋に入れ、オリーブオイルをなじませる。そしてアルミホイルを敷いてオーブントースターで焼くのだ。


 焼くこと20分。良い匂いがしてくる。あっという間に簡易のポテトフライの完成である。


 これをビールのつまみにする。


 塩をつける。口に放り込むと、ホクホクで美味い。


 ほんの小さな幸せ。田中は満足だった。


 そしてビールを片手に胃に流し込む。日々の疲れがすうっと抜けていく。田中はもう一つと思って、ポテトフライを口に放り込む。さらにビールを一本ぐっと流し込んだ。


 すぐに洗い物をまた終わらせると時計を見る。と、あの事があってから、3時間ほどが経過していた。適当に流しているバラエティー番組を見ながら、田中はもう一度ステータス画面を見た。


「実に不思議だ。どうしてこんなものが出てくるようになったんだ?」


 一応ネットで、


【目の前にいきなりステータス画面が現れる】


 という内容で検索してみた。しかし、目の病気を疑うものなどが出てきただけで、どれも田中の症状とはあわなかった。田中にはこのはっきり見えてるステータス画面が、目の病気だとはとても思えない。


 第一、あのファンタジー世界。あれも田中の目の病気が原因ならば、田中は本当に病院に行った方がいい。目の病気ではなく、精神科の方である。しかし、田中の目の前には確かにステータス画面があるし、出したり消したりも自由だ。


 唯一難点として、MPの残量がどれだけなのかわからないことである。MPをどれだけ使ってしまったのか?どんな感じで回復するのか?それがわからないことが不便だ。しかし、


「おお!」


 まるで田中の心に応えてくれるように、ステータス画面にノイズのようなものが走って、変化した。


名前:田中

種族:人間

レベル:1

職業:サラリーマン

称号:次元を渡る者

   六属性使い

HP:10/10

MP:19/136

力:10

素早さ:10

防御:10

器用:10

魔力:1724

知能:13

魔法:ダイヤモンド級【異界渡り】(MP136)

   サファイア級【次元斬】(MP68)

   ストーン級【火弾】(MP3)

   ストーン級【土壁】(MP3)

   ストーン級【浮風】(MP3)

   ストーン級【水球】(MP3)

   ストーン級【治癒】(MP3)

   ストーン級【闇抜】(MP3)


「なんだ意外と自分で好きに表示を変えられるんだな。MPはあの時俺が偶発的に【異界渡り】を使ってしまったと考えたらいいのか?だとすると結構回復してるんだな。さっき多分【治癒】でMP3使ったんだよな。だとすると、えっと……」


 田中は簡単な計算だったが、一応スマホを取り出すと電卓を使って、どれぐらいの時間でどれぐらい回復しているのか計算してみた。


「MPは24時間よりも早く完全回復するのか?」


 あれから3時間経ってる。3時間で19プラス3で22の回復だ。計算によると19時間ぐらいでMPは完全回復することになる。


「ご飯を食べたけどそれは回復に関係ないのか?」


 小学生の頃にやったゲームでは飲食はMP回復の役には立たなかった。というかご飯を食べるシーン自体があまりなかった。昭和のゲームには飲食による回復がメジャーではなかったのだ。しかし、飲食によって回復してくれないと結構困ったことになる。


 何しろ【異界渡り】はMPが136必要である。だとすれば向こうについてからMPが回復するまでかなり無防備な状態になってしまう。


「なんか頭に角が付いたウワギとかドラゴンぽいのが空を飛んでたもんな」


 もしあの生物が田中に襲いかかってきたら危ないことになってしまう。それは困る。


「確かめてみるか。ご飯はもうお腹いっぱいだが、ビールならまだ入るよな」


 田中は飲み過ぎてしまうので、ビールは余分に買っていない。しかし、ぬるいビールなど飲みたくないから、今日買った分は冷蔵庫の中に入れて冷やしてる。一日一本と自分に強く厳命していたが今日はその禁を破ることにした。


 買ってきたばかりのビールを出して蓋を開けた。それは田中にとってかなりの贅沢だった。発泡酒の一本でも安月給の田中には堪えるのだ。しかし、それだけの価値はある。一気に発泡酒を飲みほす。


 まだ生温くてやはりあまりおいしくない。しかし我慢だ。そしてステータス画面を確認した。


「おお」


 またもやリアルタイムでステータスが変化するのがわかった。MPの部分が24に急激になったのだ。


「異世界に入っても、ビールを飲めばいいならなんとかなるか?でもお酒はあんまり強くないから3本が限界だよな」


 それ以上になると、かなり足取りが怪しくなる。ともかくいいことがわかったのは間違いない。MPがビール3本で15回復するなら、魔法が5回使える。あの頭に角のあるウサギのような生物と5回遭遇しても大丈夫かもしれない。


「いつ行こうかな?」


 慎重派の田中はMPが回復したらすぐに【異界渡り】を唱えたいと思うほど無謀ではなかった。幸いこれまで貯めてきたお金はそこそこある。いつか田中を好いてくれる人を見つけて、結婚することを夢見ていたのだ。


 だから田中は貯金をちゃんとしていた。今まで田中は決してこれには手をつけないと、心に誓っていた。いつか出会う運命の人のためである。42歳田中はまだ結婚をあきらめてなかった。その虎の子の預金通帳出してきた。


 資産運用とかは何だか怖いので挑戦したことはない。


「【1523万円】」


 一生懸命、一生懸命、自炊もして、発泡酒をビールと思って、ちゃんと貯めてきたのだ。ギャンブルもせず、趣味もこれといってない田中は面白くない男だった。女の人のお店にも一度として行ったことがない。基本一人が好きなので、付き合いも悪い。


 でもそのおかげで1523万円貯めた。毎日貯金することだけを楽しみに生きてきたような人生だった。


「ついに放出する時が来たか?」


 電車通勤のために車にも乗らず、一度として、大きく使ったことがない貯金だった。


「いや、まだ早い。もしかしたら魔法が使えないかもしれない。もしかしたらこれは夢かもしれない。もう少しちゃんと確かめてからにしよう」


 田中はそう考えた。田中は慎重派だった。


「明日のこの時間ならMPが完全回復してるよな。そうしたら【異界渡り】をまず使ってみよう。それとビールも3本用意しておいて、ほかの魔法も使ってみよう」


 まずそう考えた。田中は自分がまずあちらに自由に行けるのかどうか。その確認をしなければいけないと考えた。もちろん、それでもまだ異界に入る気はなかった。それよりも先に【治癒】以外の魔法を使用してみてからだと考えた。


「でも、部屋の中で使ったら危ないよな」


 最近はタバコを吸う人も減ったが、父親はタバコを吸う人だった。田中は吸わないけど、母親から、『絶対家の中で、お父さんのライターで遊んじゃダメ』。としっかり教育されて生きてきた。だから、家の中で危なそうな魔法を使っちゃいけないことぐらいわかった。


「どこで試してみようかな」


 そう考えるだけでワクワクしてきた。小学生でアニメを卒業してしまった田中にも魔法に憧れる思いはあったのだ。


「うん、そうだな」


 それほど考えずに結論が出た。田中が住んでる場所は住宅街だが、東京のベッドタウンとして造られた山梨の辺鄙な田舎である。特にこの辺は強引に山を切り開いて造られた場所だった。


 少し足を伸ばせば山の自然が広がっている。火の魔法もあったことから一応、水回りも気にしたほうがいいと思って、人が来そうにない山奥の池を検索した。


「5キロも離れてる……」


 仕事終わりの田中が徒歩で頑張るにはきつい距離だった。


「よ、 よし、電動自転車を買っちゃおう!」


 山道なのでただの自転車では不安だ。しかし電動自転車だと山道でもスイスイ走れるという噂である。幸い自転車屋さんは近くにあるようだったし、自転車で走れる道路から池は数百mの場所にあった。


 電動自転車はいくらするだろうか?値段の想像がつかなかった。社会人なのに1万円より高いものはめったに買ったことのない田中だった。


「1万円以内であったらいいな」


 田中はその日、湯船が無いので、シャワーのみの風呂に入って寝た。明日を楽しみに眠るなんてどれぐらいぶりのことだろう。そんなことを思いながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] この少し淡々と進む三人称、好きなんだ。 今後も期待。
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