争奪戦
受験生なのに何をしているんだか...
「はぁー。どうしてこうなるかなー。」
阿修羅は大きくため息をつく。ここはクラウドの闘技場。場所をいうならば露天が並んだ道の先である。阿修羅はその闘技場に立っており阿修羅の10mほど後ろにはメシル、恋、灯、メルとリルが立っていた。そして阿修羅の前方には大剣を持った血の気の多そうな大男が立っていた。その体格はがっしりとしていて身長は2mくらいはあるのではないだろうか。そして特に鍛冶に知識のない阿修羅から見ても鈍らと映るその大剣ではあるが大男は自信十分といった様子である。といっても大男のLVは67。中堅よりやや高い程度であった。
「阿修羅さんよー。その2つ名頂いてくぜーへへっ。」
大男の名前はグラツ。まったく聞いたこともないため因縁があるというわけではなかった。
これは2つ名争奪戦これは2つ名を掛けた決闘である。仕掛けた側は勝てば相手の2つ名をもらえるが、負ければ全財産の半分をランダムで相手に譲渡されることになるといった決闘である。財産といったものはこのゲームでは曖昧なもので人に預けている金やアイテムは含まれないそのため、多くの対戦者がランカーに押しかけることもあると思うがそれはない。2つ名争奪戦が可能になるのは前回の争奪戦が行われてから3ヶ月後となっているため、連戦などはないのである。
とはいっても阿修羅が争奪戦を申し込まれたのは1年ほど前のことであり、今更といった感じである。そのLVをみてさらに拍子抜けていた。
「あー。それはいいから。早く始めるぞ。急いでるんだ。」
阿修羅はやや挑発気味にいった。
「っち。お高くとまりやがって、この成り上がりが!」
案の定グラツは大剣を振りかぶりながら突っ込んできた。大剣スキル『ラッシュ』。対敵、プレイヤーともによく使われたスキルである。速度、威力ともに申し分ないが最近ではモンスターへの切り込み用スキルと化している。理由は簡単で、あまりに使い安すぎたのだ。そのため多く見られ、広く知られてしまった。阿修羅もソロプレイヤーではあったが、大剣を使っていた時期もあったため簡単に対処しようとグラツの振るう大剣の剣先を『紅月』でそらす。
「っへ!そんな対処じゃとまらねぇよ。」
そらされた大剣はそのまま払われることなくそのまま別のスキルへ移行する。剣類スキル『カットイン』。紅月と接触している大剣に大きな力がかかる。阿修羅は押されていた。
おかしい。たとえどんな装備をしていたとしても押されることなどありえなかった。相手とのLV差は17。この17LVの差は大きい。本来ならラッシュを払い、カットインも弾き、スキルも使わない一般攻撃で決まっていたはずである。少なくともバージョンアップ前は━━━━
ここで阿修羅は気付く、彼にあって自分にはないであろうものを。
「職業...かッ!」
そういってカットインを弾き飛ばす。
「っは!ようやく気付いたか!俺はバーサーカーだ。力で職業を持たないお前には負けねえよ。」
そういって再びラッシュを放つ。
「はぁー。そうか。」
しかし阿修羅には先ほどの焦りはなくラッシュをしてくるグラツに紅月を振るう。しかしグラツのラッシュによって簡単に弾かれ、そのままグラツは阿修羅の懐へ入る。
「っへ。所詮ランキング2位もこの程度か!」
そういってグラツはカットインを放つ。この間合いで阿修羅がそれを避ける術はなかった。阿修羅は笑っていた。
「久しぶりに楽しめたよ。」
阿修羅はそう言い放つとカットインを放つグラツの後ろに立つ。走術『アーク』瞬間的に相手の後ろに回るスキルである。
「なにッ!!」
グラツはその声に反応して声を上げる。
しかしグラツが振り向く前に一閃、阿修羅の攻撃が加えられる。グラツのHPバーが一気に50%ほどまで削れる。
「くっそっ!」
グラツは振り返り大きく振りかぶる。大剣スキル『スラッシュ』。しかしモーションの途中で阿修羅はグラツの腹に蹴りを入れる。
「ぐっはっ!」
グラツの巨体はあっさり4mほど吹き飛ぶ。武術『飛天』(ひてん)ダメージはそれほどでもないが早さとノックバック性能に富んだこのスキルだがほとんどのプレイヤーはダメージの低い武術スキルをとっていないためかなりマイナーなスキルである。
「終わりだ。」
阿修羅は大きく振りかぶり4mほど離れているグラツに向けて紅い一閃を放った。紅月スキル『紅花』(べにばな)。紅い一閃を放つ中距離戦闘スキルである。一部のアーティファクトについている特殊なスキルである。その強さ故にアーティファクトを手にいれ、ランカーになったものを一部のプレイヤーはこういう「成り上がり」と。
グラツはとっさに防御姿勢をとったが、ジリジリとHPバーは減り、最後には防御姿勢も崩れれ、1年ぶりの『首切り』争奪戦は幕を閉じた。
「それにしてもやっぱアッシュはすっごいねー。」
阿修羅たちは争奪戦を終え闘技場を後にする。少し離れたところには多くの野次達が阿修羅たちを見ていた。
「やっぱりさすがだと思うわ。技能の違うスキルを使いこなしてて。」
メシルは珍しく阿修羅に感心していた。あれほど焦った阿修羅もかなり久しぶりであったが、その状態でも相手を分析し、答えにたどり着いたのは見事だった。戦闘技能の違うスキルを使いこなすのもかなりの戦闘をこなしていないとできないことである。本来プレイヤーは1つの技能で戦うことが普通である。そもそも多技能修めているプレイヤーも稀なのである。技能をとるのにも金やクエストを行わなければならないため、それよりも狩りをしていたほうが強くなれるというのが一般的に言われていることである。メシルも魔法の雹属性のみに特化している。それゆえの『雹導』であるのでどちらがいいとは言えないのである。今回阿修羅が使った走術なんかはそもそも移動にも使えない短距離的なものであるため好まれず、武術は決定的に火力が足りない。そういった具合にあまり使われていない技能も多くある。
「阿修羅強くなったんだね。あの時も強かったけど。」
灯はなぜか顔を赤らめながらそう言う。
「まぁあのときはLVだけって感じだったからね。今は成り上がりだけどな。」
阿修羅は愛鎌を片手で持ち、鼻で笑ってそう言う。
「それにしても早く転職したほうがよろしいかと。」
メルは突然そう言う。
「早く転職しなければ、他の方も申し込まれるかもしれません。」
リルが続けてそう言う。
「....たしかに...めんどくさそう。」
クツキは顔をしかめてつぶやく。仮にもここにいるメンバーは2つ名付のランカーである。しかも職業についていないためいい鴨状態になってるというわけだ。
「とりあえず職業に就くまでは対戦拒否にしておいたほうがよさそうだな。」
対戦拒否とは2つ名争奪戦を拒否することである。しかし、ある一定以上の対戦は拒否することが出来ないため、あまりしていても意味のないような代物だが、しないよりもましである。
そうこうしている間にセント=グランツ大聖堂についた。
「おぉ。こうなっているのか。」
阿修羅はクラウドに来たことはあったがここに来るのは初めてであった。というよりもクツキ以外は全員初めてであった。阿修羅たちが入り口に立ち止まっているとクツキがセント=グランツ大聖堂に入っていく、それに釣られて他のメンバーも大聖堂に入っていった。