第3話『誰だ、お前は』
酒を呑んだくれ、潰れて寝てしまった綾さんを俺は起こせずにいた。いや、ちょっと違うな。
この天使のような寝顔を見てしまったら、起こそうって気にならなかったんだ。
ビール一缶でこれでは、そんなに酒は強くなかったのだろう。未成年みたいな見た目して、成人してたんだなとつくづく思うよ。
その姿は俺の初恋の相手、綾香さんそっくりだった。
そんな騒動を終えて朝を迎えた俺は、またしても日課のパチンコに向かう。
綾さんは無事に帰っただろうか、そんな疑問を浮かべ、散財して自宅に帰ると彼女の存在は、残り香だけを残して綺麗さっぱりと消え失せていた。
「あぁーダメだ、配達アプリを変えてもまた綾さんが来てしまう未来しか見えん。会いたくない訳じゃないんだがなぁ……」
いつものルーティンであるUberと睨めっこだ。
綾さんと仁義なきお家戦争をしなきゃならんと考えると気が気じゃない。おかしいよな、俺は焼肉弁当が食べたいだけなのによ。
腹を括り俺は、アプリに焼肉弁当の注文を確定させて暫く待機することにした。
「ピンポーン! Uber eatsです」
綾さんという、超ドアホ系小悪魔美少女が現れてから約一ヶ月。やっと俺は、弁当にありつけるのだと信じていた。
奴が現れるまではな……。
「注文の弁当を持って来てやったぞ、ニートのゴミクズが! よくも私の大事な綾先輩をたぶらかしてくれたな? 天罰を下す!」
「Uberはそんな口の利き方しないけどぉー!」
まーた、トンデモねぇ奴が現れやがった。
何? 嫌がらせなの? 俺、恨まれるようなことしてないんだけど。
金髪のツインテール少女が、玄関を開けた瞬間に部屋へ侵入して俺の胸ぐらを掴み睨んで来やがる。
ってか、ニートっての誰から聞いたか知らんが辞めてくれる? 傷つくんだけど、俺の心はガラスで出来てるからさ。
十中八九、綾さんから聞いたのだろうけどこの恨みようは尋常じゃねぇ。得体の知れない生物だからな、慎重に対応しよう。
「持って来てやったぞ、たらふく食えよ? 自家製もんじゃ弁当だ」
「ーーこれは、何だ……。ゲロか?」
「そんなマジマジと見るなよ……。照れるじゃないか//」
「ゲロを食わせようとする弁当屋がどこにあるってんだ! ぶっ殺すぞ!」
ダメだった。
いつも予想斜め上過ぎんだろ。
誰が雑草食うんだよ。
誰が耳くそ食うかよ。
ゲロってどんな思考したらそうなるんだ。
下手に出ようとしたのがダメだった。こうなりゃ、徹底的に排除してやる。身体と精神が保たないんでな。
もう焼肉弁当なんて知るか、さっさと追い返して今日のことはなかったことにしよう。
「ガキの遊びには付き合えん。クレームは入れないでやるからさっさと帰れ」
「帰る訳ないだろ? 私の可愛い綾先輩を騙して恋させたのは貴様何だからな。化け皮を剥いでやる!」
もうやめろぉー!
オムライスの件を思い出してしまったじゃないか!
あれは綾さんが苦し紛れに、無かったことにしたイベントなんだぞ。そんなもん掘り返すなよ、俺もどうにかなりそうだわ。
仮に正直に告げたって、この女は信用しないだろう。どうにか誤魔化し、理解して貰うしか方法はなさそうだ。
「私は、蒼崎彩、綾香先輩の後輩です。彼女に相応しい男かテストしてやる。ニート草十郎よ、昨日のスケジュールを教えて貰おうか。どうせ、ろくなことしてないんだろ?」
「き、昨日……か……」
この場合は、綾さんと居た時のことを答えてたら逆効果だ。
それ以前のことを答えなければならない。
別に嫌われても構わないってに、変な見栄を張りたくなるのは何故だろう。もしかして、俺は綾さんに気が……。いや、無いな。
「昨日はな……」
|(真っ昼間からハイボールをかっ喰らい、パチンコで負けた腹いせで近所のうるさいガキを可愛がった!)
やっべぇよ、言えねぇー!
絶対に言えねぇーよ!
こんなの印象最悪じゃねぇか。これを綾さんにチクられてみろ、愛想を尽かされて嫌われてるじゃねぇーか!
違うだろぉー!
何で俺が綾さんを意識しなきゃならんのだ。綾香さんに少し似てるだけだろう。別に嫌われていいじゃねぇーか。それ程、仲が良い間柄でもないし、何なら鬱陶しいぐらいだ。
真実を告げて、彩をドン引きさせてやる。
「昨日は日曜日だったな。地域のボランティア活動に勤しみながら、煎じたお茶を楽しんで、近所のちびっ子とお遊戯会に付き合っていたんだ」
「き、貴様! ニートの癖に聖人ではないか! 何でそんな善良な市民として生きているのだ? 感動したぞ!」
|(何で嘘ついちゃうんだ俺はぁー!)
綾さんに本当は嫌われたくなかったのか?
本能がそうさせているのか、自分でも分からんが嘘をついたのなら仕方ない。全力で善良な一般市民を演じて見せようじゃないか。
「ぬぐぐ……。じゃあ、一昨日は何をしていたんだ?」
「一昨日はな……」
|(真っ昼間からテキーラをかっ喰らい、スロットで負けた腹いせで近所のうるさいガキを可愛かった!)
どう嘘をつけば良いだろう。
流石にネタがないぞ、足りない頭をフル回転させて有りもしない嘘をつかなきゃならん。
どうして俺が、切羽詰まらないといけないんだよ……。
やっぱり、嘘ってよくないんだな。
「午前中は茶道を学び、陶芸を楽しんで近所の子供達に器をプレゼントして可愛がっていた。親御さん、喜んでいたな」
「なんて善人なんだ! 抹茶なんて今時、自分で点てる人など殆どいないぞ、激レアさんだ! 作った器で喜ばれるなんてサイコー過ぎるぞ!」
ーーーー全部嘘だ。
なんでこんな嘘信じるんだよ、このドアホ系金髪少女はよ。
さて、これからどうしたものか。
早く帰らせないと手遅れになるぞ。
嘘を嘘で固めると、必ず綻びが生じるからな。
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