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4.出待ち

◆◆◆◆◆


 村上も自意識過剰だったにちがいない。

 泣かせた女の子は数知れず、口を利けばどんな女でも、ものにできると信じて疑わなかった。

 常勝ほど自惚れに拍車をかけるものはない。まだ手痛いしっぺ返しを受けていない時代。若さゆえに怖いもの知らずだった。あの(、、)事件さえなければ(、、、、、、、、)


 さっそくその日から行動に移した。

 五十部を置き去りにし、いざ京中テレの建物の前で出待ち(、、、)した。思いのほか男性ファンは多く、人垣の中に埋もれるほどだった。


 正午すぎだった。

 朝の情報番組と打ち合わせを終えた中谷 董子が局から出てくると、たちまち男どもの口から「おおッ!」と、どよめきがあがった。


 村上はたちまち魅せられた。

 はじめて本人を生で見たときは、あっけにとられるほどの容姿に、ゲーム感覚でこの女に近づいたことに鼻白んだ。

 私服でさえ大人っぽい着こなし。いかに村上の世界が狭すぎたか、思い知らされた。




 結局、ファーストコンタクトは口すら利けなかった。

 相手にされるどころか、チラリともむさくるしい男たちには眼もくれなかった。シビアにオンオフの使い分けをしているようだ。外に出るたび、声をかけられ、いちいち応じているようでは切りがない。


 中谷キャスターの帰宅はタク送(、、、)と決まっているらしい。あらかじめ呼んであったハイヤーに乗り込むと、堀川通りへと出ていき、南へと曲がっていった。


「なあおっさん、中谷 董子はどこに住んでんだ?」


 村上は同じ出待ち仲間の、体格のいい40すぎの男に聞いた。

 そびえるように身長が高く、筋肉質の身体つき。登山に行くのじゃあるまいし、大きなリュックを背負っている。ファンもいろんなタイプがいるなか、ひと際目立った。


「ファンのくせに、そんなんも知らへんのか。我らが董子サン、山科やましなの出身やぞ。今から昼食すましたら、自宅に帰るんやろ。ようTwitterにアップしてはるわ。聞くとこによると、明治から続く豪邸に住んでるそうや。さすがに追いかけてったらあかんやろな」


「なら、初日からストーカーしちゃったらマズいか」


「なに抜かしよる、兄さん! 聞き捨てならんへんぞ、今の発言!」


◆◆◆◆◆


 村上はそれから根気よくテレビ局の前で粘り、中谷キャスターが退社するのを待ち伏せした。

 反省会や明日のスケジュールについての打ち合わせが長引くせいもあり、局を出てくる時間帯はまちまちであったが、おおむね13時には帰宅の途につくルーティーンのようだ。

 出待ち入待ち(、、、)とかち合うのを敬遠すべく、局の裏口から出入りする業界人も多いなか、彼女はコソコソせず、堂々と正面玄関から行き来することで知られていた。




 中谷キャスターに、交際相手はいるのだろうか?

 この問題は長年ファンを身悶えさせた。キャスター業界内のみならず、関東や関西エリアの芸能リポートや週刊誌でも注目されていた。

 なにせメディアに露出する機会は多くても、私生活はミステリアスと評されていたのだ。


 他府県と比べ、移動しやすく、広すぎない京都市内。

 プライベートで町を散策している姿を目撃されていてもおかしくはないのに、ふしぎなほど彼女についての情報はなかった。

 親しげな男と手をつないで歩いている目撃談も耳にしない。目立つだけに、うまく偽装工作をしているのだろうが……。


 彼女ほどのステータスを築いた女性なら、会社経営者やトップアスリート、売れっ子芸能人は放ってはおくまい。

 なのに発信しているSNSの内容も、両親や食事、飼っている兎や猫のことばかりだった。




 テレビに出演しているとき、手に指輪をはめていないか、食い入るようにして見た。

 あいにく指輪の類は身につけていなかった。他の女性キャスターもしていないことから、社内方針があるのかもしれない。

 右手の薬指にしていれば先客がいるためお断りという無言のアピールだろう。しかしながら恋人がいなくても、ファッション感覚で右手薬指につける女性も一定数いることから、一概にそうとも言えなかったが……。


 村上は毎朝、メインを務める中谷 董子のニュースを観てから学校へ行き、途中で授業をすっぽかし、例のごとく正午すぎに京中テレの前で出待ちした。


 チャンスは思いのほか早く訪れた。

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