第16話 幼馴染みの襲来RETURN!
「やけに険しい顔をしてるけど……どうしたんだ?」
苦虫を噛み潰したようなかおをしている言乃花に冬夜が問いかける。
「久しぶりに道場の空気に触れたから、気を引き締め直しただけよ」
「きっと道場で帰りを待ち望んでいる一布さんのことでも考えてたんじゃないっすか?」
「はあ? なんでアイツの名前が出てくるの?」
「あれ? やけに過剰に反応してないっすか? 愛の力は偉大っすね」
レイスがニヤニヤしながら話し掛けると言乃花の全身から溢れだした殺気が放たれる。駐車場でにらみ合う二人にリーゼがあきれた様子で話しかける。
「あなたたちは……少しは落ち着きなさい。これから鍛錬が始まるのに仲間内でピリピリしていてどうするの?」
「たしかにそうっすね。リーゼさんを見習って常に冷静であることが重要っすもんね」
「リーゼに怒られる日が来るとはね……レイスが言うようにいつも冷静でいなければいけないわね、まだまだ私も未熟だわ」
言乃花とレイスがチラリとソフィーへ視線を送ると不思議そうな顔をして首をかしげる。そして、言乃花は苦笑しながら、レイスはニヤニヤしながらリーゼに向きなおる。
「ちょっと二人とも……それはどういう意味よ!」
真っ赤な顔をして二人に声を荒らげるリーゼ。必死に笑いをこらえる冬夜と不思議そうな顔をしているメイとソフィー。三人がヒートアップしそうになったところで意外な人物が声をあげる。
「それくらいにしておいたらどうなんだ? お世話になる方々をあまりお待たせするのはいかがなものかと思うぞ」
「あの芹澤がまともなことを言っているわ……」
じっと状況を見守っていた芹澤が三人に対して苦言を呈する。するとリーゼが唖然とした表情でその場で固まった。
「副会長の言う通りね。準備はもうできているだろうし、早く挨拶を済ませましょう」
「リーゼさん、いつまでも固まっていないで早く行くっすよ。ソフィーさんが心配そうに見ているっすよ」
レイスの一言で我に返り、ふと隣に視線を送ると心配そうな顔をしたソフィーがジッと見つめていた。
「リーゼさん、大丈夫ですか? 一緒にいきましょう」
「ソフィーちゃん、もう大丈夫よ! そうね、何かあるといけないから一緒にいきましょうね!」
最高の笑顔でソフィーと手をつなぎ、門のほうへ歩いていくリーゼ。その様子に大きく息を吐き、二人の後に続いてゆっくり歩き始める言乃花。すぐ後ろを遅れないようについていく冬夜とメイ。そして、残されたレイスの隣に静かに芹澤が歩み寄る。
「レイス、冷静になれ。うまく隠したつもりかもしれないが、バレバレだ」
「相変わらず手厳しいっすね」
「すべてにおいて雑だぞ。先ほどの視線の主はヤツではない」
「それは聞き捨てならないっすね。自分が見誤っていると?」
「すでに気持ちが焦っている証拠だ。己を見つめなおすいい機会だと思え!」
何事もなかったかのように門へ向かう芹澤と苦虫をかみつぶしたような表情で佇むレイス。スッと目を閉じ、小さく息を吐くと厳しい表情のまま皆の待つ門へと歩いて行った。
「私はこれで失礼いたします。では夕方お迎えに参ります」
付き添っていた佐々木が告げると深々と礼をし、駐車場に戻っていく。全員で見送ると冬夜たちは門へ向き直る。
「さあ、中に入るわよ」
言乃花の声と同時に木の門がゆっくりと左右に開き、美しい中庭が全員を出迎えた。良く手入れされた植え込みに四方が囲まれた空間は、周囲に清水の流れる水路が張り巡らされており、中央に小さな池が配置されている。
池の向こう側に大きな和風の建物が建っているのが見えた。冬夜達が光景に目を奪われていると、奥から池を周り、砂煙をあげながら駆け寄ってくる人影が……
「言乃花ちゃーん! あなたの一布がお迎えにきましたよ!」
「げっ、道場の中なんだから少しは落ち着きさない!」
言乃花の右手にバチバチと音を立てながら魔力が集まっていく。そして右ストレートを繰り出すように腕を振り抜くと渦を巻いた風が一直線に一布に襲いかかる。
「言乃花ちゃんは恥ずかしがり屋さん……」
彼の言葉が最後まで聞こえることはなく、空へ打ち上げられると道場の前にある池に大きな水しぶきをあげながら落下した。
「いつもの事ながら見事なコントロールっすね。ちゃんと怪我をしないように池に落下させるとは」
「たまたまよ。あの程度で怪我なんてされたらたまったもんじゃないわ」
レイスがニヤニヤしながら言乃花に声をかける。
「冬夜くん、一布さんを助けに行こうよ」
「ああ、スゴイ水しぶきがあがっていたし……溺れたりしてなければいいけど」
池に落ちた一布のもとに冬夜とメイが駆け寄っていく。
大きくため息をつく言乃花。彼女の悩みが解消される日は来るのだろうか?




