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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第四章 現実世界

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第12話 不思議な飲み物「虹色ソーダ」

「おい、翔太朗! うちの道場にトレーニング装置を持ってくるなんて聞いていないぞ?」


 隣に座る健斗が睨みを効かせながら翔太郎に言い寄る。


「ああ、今お前に言ったからな」

「いつも言ってるだろうが! 何事も前もって相談しろと……」

「弥乃さんには相談したぞ? 快く『どうぞやって下さい』って言われたからな。安心しろ、我が芹澤財閥の技術力をもってすれば何の問題もない!」


 翔太朗の高笑いが応接室に響き渡る。二人の様子を見た冬夜は隣に座るリーゼに小声で話しかける。


「なあ、副会長の性格は父親譲りだよな?」

「さすが親子ね、そっくりだわ」

「なんで感心しているんだよ!」

「何を言っているの? ()()()()()がまともなわけないじゃない」


 リーゼの回答にぐうの音も出なくなる冬夜。がっくりとうなだれる様子に心配そうにメイが覗き込んだ時だった。


「失礼致します、お飲み物をお持ちしました」


 会議室の扉が開き、グラスとオレンジ色をした液体の入ったラベルの付いていないガラス瓶を台車に載せた佐々木が入ってきた。そして、慣れた手つきでグラス一つ一つにビンの液体を注いでいくとシュワシュワと音を立て、泡が水面を揺らしている。


「すごい! 泡がたくさん出ているよ!」


 ソフィーが目の前に置かれたグラスに目をキラキラ輝かせて釘付けになり、ピンッと立った耳が小刻みに揺れている。


「見て! 光が当たるといろんな色になるよ!」


 ソフィーと一緒にグラスを見ていたメイも興奮気味に話す。注がれた飲み物は最初オレンジ色をしており、照明の光が差し込むと黄色や水色にと変化していく。


「気に入ってもらえたようだね。この飲み物は『虹色ソーダ』と言って、光が当たることによって七色に変化するんだ。そのシュワシュワとしたものは炭酸と言って、飲み込むときに心地よい喉の刺激を与えてくれる。せっかくだから飲みながら話そう」


 翔太朗に促され、全員がグラスに口をつける。


「なんだろ? 炭酸は小さい頃から飲んでいたけど全然違う!」

「オレンジのようなリンゴのような……いろんな味がするんだけどすごくおいしい!」

「炭酸のシュワシュワ感がすごく癖になるわ。疲れた体に沁み渡るわね」

「これは病みつきになるっすね。たくさんは飲めないっすけど、学園に常備してもらいたいっすね」


 それぞれが感想を言い合っている様子をニコニコとした笑顔で見守っている翔太朗。


「さすが我が父上だ! ところで学園への納入予定はあるんだろうか?」

「ああ、学園長には話してある。夏休み明けから学園の食堂などで飲めるはずだ」

「ふむ、我が実験室にも常備してもらえるように頼んでみるか。来客もある事だからな」


 差し出されたジュースに意識が移り始めた時、静かにグラスを置いた言乃花が軽く咳ばらいをして口を開く。


「大変美味しい飲み物をありがとうございます。ところで、明日以降のスケジュールはどうなっているのか確認させていただきたいと思います。どうでしょう、お父様?」

「さすが我が娘だ。翔太朗、俺のほうから話してもかまわないか?」

「問題ないよ」


 二人で軽くアイコンタクトをとると、健斗が話し始める。


「今後の予定についてだが、この後すぐに保養所に向かってもらう。明日は何も予定は入っていないからゆっくりと疲れを癒やすといい。郊外にあるが、近くの街までは車で五分ほどであるから佐々木くんに言えば送迎もできるから何なりと頼めば良い。明後日から三日間ほどうちの道場で鍛錬を行うが、()()()に課題を用意してある。それぞれが乗り越えていかねばならぬ壁である故、心して取り組むように」

「健斗、ありがとう。僕の方から補足説明をさせていただくと、椿家の道場は車で十分くらいの距離にあり、送迎の車を用意させている。保養所には温泉も完備されているから幻想世界での疲れをじっくり癒すことができると思うよ」


 翔太朗のいう温泉の言葉にリーゼの目が光る。


「温泉? ということはソフィーちゃんと一緒に入れる! 寮のバスルームは部屋ごとにあるから叶わない望みだったのよね……このチャンスを逃すわけには……」

「リーゼ、聞こえているわよ……安心して。煩悩を消し去るくらいキツイ課題を用意してあげるから」

「やっぱりえげつないのはそっちの方っすよね……」


 リーゼたちのやり取りが繰り広げられる中、翔太朗が冬夜に話しかける。


「冬夜くん、鍛錬が終わったら君のご実家にご挨拶に伺おうと思うのだけれど、一緒に行ってくれるかい?」

「え? 家に帰れるんですか?」

「もちろんだ。私たちもご挨拶に伺わなければいけない頃だと思っていたからね。それに君の父親、響のことで聞きたいことがあるんだ」

「親父のことですか……?」


 現在も行方不明である父親の名前を聞いた瞬間、クロノスによる襲撃時にフードを被り顔を隠していた男の声が頭の中に響く。

 考え込む冬夜を見て、意味ありげに口元を緩める翔太郎。

 このタイミングで告げた意図とは……

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