第11話 突き付けられた現実
「さて、中でお茶でも飲みながらゆっくり話そうじゃないか。こちらの世界での過ごし方についても話しておきたいからね」
翔太朗が笑顔で冬夜たちに話しかける。
「わかりました。俺たちだけでよろしいのでしょうか?」
「弥乃ちゃんは一布くんに大事なお話があるみたいだからね。僕と健斗で説明をさせてもらうよ。佐々木、皆様を会議室へ案内してくれ」
「承知いたしました、皆様こちらへどうぞ」
翔太朗の脇に控えていた佐々木が、冬夜たちの前で軽く一礼すると屋上の出入口に向けて歩き始める。すると芹澤が何事もなかったかのように後に続く。呆気にとらわれている冬夜たちを見た芹澤が不思議そうに声をかける。
「どうしたんだ? 早く行くぞ」
「そうね……みんな行きましょう」
小さく顔を横に振るとリーゼがみんなに声をかけると芹澤を先頭にリーゼ、冬夜、メイ、ソフィーの順で後に続く。この時、レイスと言乃花は少し離れた位置で健斗と弥乃と話を始めた。
「お久しぶりです、健斗様、弥乃様」
「お父様、お母様、ただいま戻りました」
「二人ともずいぶんたくましく成長したな。相当な修羅場を経験してきたことがよくわかる」
「言乃花、レイスさん、幻想世界の件は学園長を通じて報告を受けています。気になる動きはまだ確認できていませんが、来るべき時に備えての準備は必要でしょう」
「「はい」」
二人は一礼すると、少し遅れてリーゼたちの後を追うように出入り口へ向かう。
「他の皆様をお待たせするのは良くないですから。あとの説明は任せましたよ」
「ああ、わかった。先に道場に戻っていてくれ」
弥乃に告げると言乃花の後を追うようにゆっくりと歩き始める。健斗が建物に入っていったのを見送ると直立不動で立ち尽くす一布に対し、笑顔で話しかける弥乃。
「さて、一布さん。いろいろお聞きしたいことがありますがよろしいでしょうか?」
「は、はい、師範。な、何のことでしょうか?」
「あなたにはすべきことをお伝えしましたよね? 言乃花を迎えに行くならば軽く手合わせし、成果を確認しなさいと。なぜ気絶していたのでしょうか?」
「……それは」
一布の全身の穴という穴から冷や汗が滝のように流れだす。能面のような笑顔の弥乃から放たれる圧力はどんどん増していく。
「一布さんもきっと深い理由があったのだと思いますし、続きは道場でゆっくりお聞きしますね」
この後、一布は弥乃に首根っこを掴まれひきずられていく……数日後、道場を訪れた冬夜たちはいくつもの青痣と絆創膏を貼り、涙目で出迎える一布と遭遇することになる。
佐々木の案内で本社内の会議室に通された冬夜たち。本社は地上三十階建てのビルになっており、会議室があるのは二十五階だった。室内は中央に大きな円形のテーブルが置いてあり、周りには十人ほどが座れるように背もたれのある椅子が配置されている。
「さあ、みんな好きな席に座ってくれ」
翔太朗が声をかけると佐々木が一番奥に設置されたひときわ大きな椅子の横に立ち椅子を引く。そして、そこに翔太郎が座り、その横に健斗が座った。
二人が座ったことを確認すると、左側にリーゼ、冬夜、メイ、ソフィーが座り、右側に芹澤、レイス、言乃花が座る。
「皆様、すぐに冷たいお飲み物をお持ちしますね」
一礼し、部屋から退出しようとした佐々木を翔太朗が呼び止める。
「佐々木、うちの新商品の飲料があっただろう?」
「はい、発売から数週間で売り切れ続出になった新商品ですね」
「せっかくの機会だ。皆さんにも飲んでいただいて感想を聞きたい」
「かしこまりました。すぐにご用意致します」
再び全員に向かい一礼すると部屋を後にする。佐々木が出ていったことを確認すると、翔太朗が口火を切る。
「幻想世界での修業やミッションご苦労だったね、ようこそ現実世界へ。君たちの活躍は学園長、ハワードやシリルから聞いているよ」
机に両肘をつき、口元で手を組む翔太朗。
「早速だけど本題に入ろう。君たちのレベルでは妖精たちに太刀打ちできない。早急にレベルアップする必要がある」
全員が覚悟はしていたことだが、改めて突き付けられた事実が鉛のように重くのしかかり、圧し潰されそうになる冬夜たち。
「聞きたくないことかもしれないが、自分たちの現状は正確に知っておく必要がある。そこで我が芹澤財閥の開発したトレーニング装置を利用し、椿家での修業に臨んでいただきたい」
翔太朗の口元が吊り上がり、眼鏡が怪しく光る。
その様子を見た冬夜たちの顔に一筋の汗が流れ、不安の色が濃くなる。そんな中、退屈そうに大きなあくびをしていた芹澤。
芹澤財閥の開発したトレーニング装置の効果と冬夜たちに課される修行とは?




