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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第四章 現実世界

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第9話 快適な空の旅と視線の主

「なんだ? 乗らないのか?」


 理解が追い付かず、固まって動けない冬夜に不思議そうな顔で聞く芹澤。


「冬夜くん、どうしたの?」

「メイ、冬夜くん、早く早く!」


 メイが冬夜の顔を覗き込むようにして声をかけ、ソフィーが左手を興奮気味にぐいぐい引っ張る。


「ああ、そうだな……じゃなくて! あなたはいったい何者なんですか?」

「プロフェッサー芹澤以外何者でもない!」

「はいはい。ねえ、耳栓とか持ってないけど大丈夫なの? ヘリってスゴい騒音なんでしょう?」

「はっはっはっ、何を隠そうこのヘリは芹澤財閥が誇る最新式だ! 普通ならば様々な騒音が発生するが、このヘリは室内に特殊な防音材を装備しているから問題ない! さらにプロペラにつけた消音機能が……」

「あー、そう、わかりましたー。言乃花のご両親も待っているんだから今度ゆっくり聞くわ。ソフィーちゃん、一緒に乗りましょうね」

「はい! リーゼさん一緒に乗りましょう!」


 立板に水の如く話し続ける芹澤をあっさりと切り捨てるリーゼ。そして、どさくさにまぎれてソフィーと手をつないで上機嫌でヘリに乗り込んでいく。


「あ! 一布さんは大丈夫か? すごい勢いで吹っ飛ばされていったけど……」

「大丈夫っすよ、自分が助けに行ってきましたから。今は気を失っているっすね」


 音もなく冬夜の後ろに現れたレイスの背中に目を回して気を失っている一布が担がれていた。


「大丈夫っていうのか……」

「あの程度は日常茶飯事よ。うるさいのが静かになってちょうどいいわ、早く行きましょう」


 吹っ飛ばした幼馴染を気にかける様子もなくレイスの横を素通りし、ヘリへ乗り込む言乃花。


「そういうことみたいっす。冬夜さん、メイさん、自分たちも早く乗りましょう」

「早く乗ろうよ! すごく楽しみだね!」

「ああ、俺も乗るのははじめてだから楽しみだな」


 メイの笑顔に微笑み返し、ヘリへ乗り込む。佐々木が全員の搭乗を確認すると操縦席へ乗り込み、隣には芹澤が座る。機内は三人掛けの席が三列になっており、最前列左側からソフィー、リーゼ、言乃花、真ん中の列は冬夜とメイ、最後尾にレイスと未だ気絶している一布の順に乗り込んだ。


「それでは皆様、出発いたします。シートベルトを締め、飛行中は揺れますので立ちあがらないようにしてください。三十分ほどで本社へ到着いたします」


 徐々に大きくなるエンジン音と共に回転翼の空気を切り裂く音が辺りに響く。やがて機体が地面を離れ、大空へ飛び立つ。


「すごい! リーゼさん、どんどん森が小さくなっていきます! こっちは小さな建物がたくさんありますよ!」

「ソフィーちゃん、ほんとだね。これからいろんな景色が見えるわよ」


 ソフィーは窓ガラスにぴったりと顔をつけて夢中で外を眺めている。時折ぴんとした耳が小刻みに震えている様子を優しい笑顔で見守るリーゼとメイ。


「本当にソフィーは楽しそうだね」

「こんな景色はじめて見るよ! 芹澤さん、佐々木さん本当にありがとうございます!」

「そこまで喜んでいただけて恐縮です。令士様が空の旅を楽しんでもらえるようにとご提案なさったのですよ」

「余計なことは言う必要はない。一番効率よく動けるからだ」


 芹澤の表情を伺い知ることはできないが、慌てて窓の方へ顔を背ける様子が見えた。普段の学園生活では見ることのできない一面だった。景色は緑広がる森からビルが立ち並ぶオフィス街へと次第に変わっていく。その中にひときわ高くそびえるビルが現れた。


「皆様、目的地が近づいてまいりました。お疲れのところ大変恐縮ですが、当財閥の会長であり玲士様のお父様と椿様のご両親が皆様にぜひご挨拶をしたいとお待ちでございます。お顔合わせが済み次第、宿泊施設のほうへご案内いたします」


 佐々木がこの後のスケジュールを説明している間に、目の前にあるビルの屋上に三人の人影が見えてくる。


「では着陸いたします。完全に機体が止まり、ご案内するまでそのままお待ちください」


 そのとき冬夜が佐々木に疑問をぶつける。


「佐々木さん、三人の方はあんなに近くにいて大丈夫なんですか?」

「冬夜様、ご心配なく。このヘリポートは玲士様が開発された機器により風の流れが制御されております。稼働範囲外であれば一切問題はございませんよ」


 ゆっくりとビルの屋上に設置されたヘリポートへ着陸し、エンジンが停止すると真っ先に佐々木が降り、周囲の安全確認をする。終えると芹澤の搭乗扉を開け、次に後ろの搭乗口が開けられた。最初に言乃花、リーゼ、ソフィーの順に降り、冬夜、メイと続く。


「ほら、一布さん起きて。目的地に着いたっすよ」

「え? どこに着いたの?」


 気を失っていた一布も目を覚まし、レイスと共に降りる。一同が並ぶと、見るからに高そうなビジネススーツに、きっちりとセンター分けされた青い髪の背の高い男性がゆっくりとこちらに歩いてくる。眼鏡の奥の瞳が柔らかく細められ、親しみやすい笑顔を浮かべている。


「佐々木、ご苦労だった。ようこそ、現実世界へ。私は玲士の父であり芹澤財閥会長の芹澤(せりざわ)翔太朗(しょうたろう)だ」


 翔太朗が笑顔で挨拶をした時、心臓が射抜かれるような強く鋭い視線を全員が感じた。

 即座に魔力を纏い、身構える一同。

 はたして視線の主は誰なのか?

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