第8話 芹澤財閥の御曹司
突然の事態に固まって動けない冬夜たちを押しのけるように芹澤が前に出る。
「佐々木ご苦労だったな、到着が遅くなってすまない」
「令士様、問題はございません。こ宿泊の手配及び椿家へご連絡も滞りなく済ませております」
「さすがだな。大至急向こうでの成果と採取したデータの取りまとめを行いたいのだが可能か?」
「承知いたしました。ですが、皆様に会長と椿様ご夫妻がご挨拶したいと本社でお待ちになられております」
「わかった、すぐに本社へ向かうぞ。その後データ解析を行いたい」
「承知しました。すぐに手配いたします」
サクサクとスケジュールを決めていく二人に、横からリーゼが口を挟む。
「佐々木さん、ご無沙汰しております。芹澤、勝手に予定を決めているけど大丈夫なの?」
「プロフェッサーの計画に問題などあるわけないだろう?」
「アンタの場合は問題しかないでしょうが!」
いつものようにヒートアップしていくリーゼと芹澤の様子を微動だにせず見ている佐々木。そこに大きくため息をつく言乃花と笑いが止まらない様子のレイスが近寄ってきた。
「はぁ……こっちに着くなり最悪の気分よ」
「感動の再会だったじゃないっすか。まあ、一布さんが懲りるとは思わないっすけどね」
「まったくいい加減にしてほしいわ」
二人に対し困惑しきった様子で冬夜が声をかける。
「あのさ、取り込み中のところ悪いんだけど、俺には何が何だかわからないけど……」
困惑する様子に気が付いたリーゼがクスッと笑い、冬夜に向かい話し始める。
「ごめんね、冬夜くんのことを忘れていたわ。どこから説明したほうが良いかしら?」
「リーゼ様、私から皆様にご説明させていただきましょうか?」
やわらかな笑顔でリーゼに話しかける佐々木。
「ありがとうございます。お願いしても良いでしょうか?」
「構いませんよ。冬夜様、メイ様、ソフィー様、芹澤家で執事兼令士様の秘書をしております佐々木と申します」
「え? なんで俺の名前を?」
「私たちのことも知っているのですか?」
冬夜達が不思議そうな顔で聞くと目元を緩め、佐々木が答える。
「学園長様よりご連絡をいただき、非常に楽しみにしておりました。まさか、とてもかわいらしいお客様もご一緒とは少々驚いております」
ソフィーのそばに近寄ると片膝をつき、目線の高さを合わせる。
「はじめまして、ソフィーと言います。よろしくお願いします」
「ようこそいらっしゃいました。現実世界を楽しんでいただきたいと思います」
笑顔でソフィーと話す佐々木に対し、冬夜がもう一人の人物について質問する。
「佐々木さん、ご一緒にいた方はどなたですか?」
「私からお話しするよりもご本人から紹介いただいたほうがよろしいかと思いますよ。そろそろ言乃花様も落ち着かれたようですから」
佐々木がチラリと視線を向けると先ほど言乃花に殴り飛ばされた男性がニコニコとこちらに駆け寄ってきている。
「なになに、僕の話でもしていたのかな? はじめまして! 言乃花ちゃんの幼馴染で将来を誓い合った仲の『鳥月 一布』と言います!」
「誰が将来を誓い合った仲よ! 捏造しないでくれる?」
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ! 小さいころに誓い合った仲じゃないか!」
「いつの話しているのよ! あんたは少し黙っていなさい!」
再び言乃花の右手に魔力が集結し、一布のみぞおちにきれいに決まる。そのまま風魔法の効果も相まって高く空に打ち上げられていく。
「いつ見ても見事な夫婦漫才っすね」
「はあ? どこをどう見たらそう見えるの? 全く……誤解されると困るからちゃんと説明するわ。一布は家が隣同士でうちの道場に通っている幼馴染というか腐れ縁よ。あの程度は日常茶飯事だから気にしないで」
言い終えると横で笑いを必死にこらえているレイスの足を踏みつける言乃花。
「ご紹介も終わったようですね。皆様、あちらに迎えの乗り物をご用意してあります。芹澤財閥の本社にて会長と椿様ご夫妻が皆様をお待ちしております。その後、グループの保養所へご案内いたします。明日以降のスケジュールは夕食の後にお伝えいたします」
(ん? 芹澤財閥って言わなかったか?)
佐々木の言葉に引っかかりを覚える冬夜。その後、姿が見えなかったレイスが一布を抱えて戻ってきた。
「言乃花さん、やりすぎっすよ」
「いいじゃない。気絶しているなら静かになって快適よ」
「フォローする身にもなって欲しいっす」
「何か言った? おいていくわよ」
文句を言うレイスを無視して進む言乃花。しばらく歩くと驚きの光景が現れる。
「なんだ、迎えってコイツできたのか」
「なんでこんなところにヘリが……?」
「その反応が普通よね……」
「メイ、すごいよ! どうやって動くんだろうね!」
「そうだね! ねえねえ、冬夜くん。これってどうやって動くの?」
驚いた様子のない芹澤、唖然とする冬夜、呆れかえるリーゼと大喜びするメイとソフィー。
更なる衝撃に見回れることなど冬夜が知るよしもなかった。




