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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第四章 現実世界

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第7話 言乃花の幼馴染襲来!

「ほらほら、言乃花さんを呼んでいるっすよ」


 ニヤニヤと口元に笑いを浮かべたレイスが後ろから言乃花を煽る。


「レイス、それ以上言ったらあなたの首から上がサヨナラをすることになると思うけれどいいのかしら?」

「おお、怖いっすね。そんなに簡単にやられるつもりはないっすよ。お迎えに来てくれるなんて健気じゃないっすか」

「はあ? どう考えたらそうなるのよ! レイス……前からハッキリしていなかったけど、キチンと決着をつける時が来たようね」

「自分はいつでもいいっすよ。ちょうど森の中ですし、軽く準備運動の相手になりましょうか?」


 言乃花が右手をスッと胸の前に構えると魔力が集結していく。木々を揺らし、草や葉が引きちぎられそうな勢いで音を立てる。レイスは腰を低くし、右手に持つ懐刀には青白い炎を纏っている。

 両者のにらみ合いの糸が切れ、お互いに仕掛けようとした時だった。


「やめなさい! あなたたちが本気でぶつかったらどれだけ大きな危害が出るのかわかっているの? 迎えの人も無事じゃすまないわよ! それよりも自分たちが置かれている状況をよく見てから行動に移しなさい!」


 制止に入ったリーゼの声が森に響く。我に返った二人が気がつくと両足が魔法で固められていた。言乃花の足首にはまとわりつくように氷が張り付いており、レイスの両足は膝から下が塗り固められて地面に固定され、さらに喉元に土の槍が突きつけられていた。


「レイス、お前らしくないな。普段ならば魔法を使う前に術者を仕留めに行くよな?」

「うっ……容赦なく痛い所を突いてくるとは、副会長も人が悪いっすよ」

「なんだ? 止めるだけでは不満か? プロフェッサーの崇高な発明品の()()()にしてやってもよかったんだぞ?」

「……そっちの方がヤバくないっすか?」

「何を言っている? プロフェッサーによる偉大な実験に参加し、あまつさえ貴重な実践データを提供できるまたとない機会だぞ? 光栄に思いたまえ!」


 芹澤の高笑いが森に響き渡る。その後、指を鳴らすとレイスの喉元に突き付けられていた土の槍が霧に溶けこむように消えていく。同時に言乃花を拘束していた氷魔法も解除された。


「レイスさん、言乃花さん、ケンカしたらめっですよ!」


 少し離れた位置から駆け寄ってきたソフィーが二人に対して全身を震わせながら力いっぱい叫んだ。その一生懸命な様子に全員の空気が一気に緩む。


「ソフィーちゃんごめんなさい。少しイライラしてしまったわ」

「ソフィーさんごめんなさいっす。ちょっと焦る気持ちからやりすぎたっす。止めてもらえたおかげで落ち着きました」

「ああっ、ソフィーちゃんが今日もかわいい! 怒られるのはショックだけど、めってしてほしい……」


 リーゼの一言を聞いた言乃花とレイスは互いに顔を見合わせると笑いだす。二人の様子を見たソフィーは少し首をかしげたが、仲直りしたとわかるとニコニコとした笑顔に変わる。


「二人とも落ち着いたようだし、迎えの人を待たせているから早く行きましょう」


 リーゼが場を仕切り直すと先頭に立ち歩き始める。すぐ後ろを冬夜、メイ、ソフィーが追い、三人の背中を守るようにレイス、芹澤、言乃花が続く。


「なあ、さっきから言乃花のことを呼んでいる声が聞こえるけど……誰なんだ? やたらと機嫌悪いし……」

「彼は()()()()()()()よ。幼少のころから同じ道場に通って腕を磨いた仲って聞いているわ。なぜあそこまで機嫌が悪くなったのかは……すぐわかるわよ」


 大きくため息をつくと、それ以上は何も言わず歩き続けるリーゼの様子に冬夜は疑問を感じながら後に続いた。やがて徐々に霧が晴れていき、迎えの人物の輪郭がはっきりと見えてくる。一人は芹澤より少し背丈の高い人物。もう一人の人物はレイスと同じくらいの身長でぶんぶんと手を振っている。すると、こちらの姿が見える位置までくると手を振っていた人物がいきなり猛ダッシュで近づいてきた。


「言乃花ちゃーん! 迎えに来たよ! さあ、僕の胸に飛び込んでおいでー!」

一布(いっぷ)、あれだけ道場で大人しく待っていなさいと言ったでしょうが!」


 冬夜の横を突風が吹き抜けていくと同時に、駆け寄ってきた男性のみぞおちに言乃花の魔力を乗せたストレートがヒット。身体がくの字に折れ曲がりながら吹き飛ばされていく。


「すごい勢いで吹っ飛んでいったけど大丈夫か?」

「いつもの事だから問題ないわよ」


 突然の出来事に冬夜だけでなくメイとソフィーも呆気に取られる。すぐ後ろではレイスがお腹を抱えて笑っていた。


「やっぱり効くね……言乃花ちゃんの愛をちゃんと受け止めた……ぜ……」

「まったくあなたの思考回路はどうなっているのよ」


 学園の冷静さからは考えられないほど呆れかえった表情の言乃花。フラフラになりながら歩いてくる彼の横から真っ白な髪をオールバックにし、隙のないビジネススーツに身を包んだ男性が冬夜達のところに歩み寄ると頭を下げた。


「お待ちしておりました。お迎えが遅くなり申し訳ございません。芹澤家の執事をしております、佐々木と申します。皆様には玲士様がお世話になっております」


 迎えに現れたのは言乃花の幼馴染と芹澤家の執事である佐々木。

 二人との出会いが現実世界で起こる波乱の幕開けだと予想できたのは言乃花だけだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  最初の一文から引き込まれました。題名にもある鳥籠から、囚われている少女が文字通り助けを求めているのだろうかと、読み進めましたが、とにかく話の展開が気になる作り方をされているのと、毎回次の…
[良い点] 個性際立つ人物がたくさん登場してきて、興味深く読ませていただきました。物語の展開が早くて、読者を飽きさせないようにしているように感じました。 [気になる点] 展開が早い分、もう少し登場人物…
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