閑話 メイとソフィーのお買い物
リーゼが有無を言わずリズィによって反対方向のカフェに連行された頃、メイとソフィーは手をつないで街を散策していた。
「二人だけでお買い物って初めてだね、ソフィー」
「うん! どんなお店があるのか楽しみだね」
道端に咲いている草花、店の前に並ぶ看板、聞こえてくる人々の会話など二人にとってすべてが新鮮だった。笑顔で歩く二人を見た街の人々も自然に笑顔になっていく。
「メイ! あそこのお店に行ってみない?」
ソフィーが興奮した様子で指さしたのはお花屋さんだった。店先に色とりどりの花が小さな植木鉢に植えられており、きれいに咲いている。店の前では小柄な店員さんが水やりをしていた。
「すごくきれいなお花がたくさんあるね。行ってみよっか?」
「うん! チューリップのお礼にしーちゃんへお花の種をあげたいの!」
「あ、ソフィー。そんなに引っ張らなくても大丈夫だよ」
グイグイとメイの手を引っ張っていくソフィー。
(ソフィーがこんなに興奮するなんて。しーちゃんと出会ってから本当に楽しそう)
学園で生活を始めたばかりの頃はソフィーが一人で過ごす時間が多く、寂しい気持ちを我慢している様子がよく見られた。しばらくして学園長からタブレットをプレゼントされ、アプリがきっかけで異世界の友達とお話をするようになると、どんどん笑顔が増えていった。異世界にいる友達の『しーちゃん』が時間を見つけては遊びに来るようになった。いろんなことがそれこそ嵐のように巻き起こったが、ソフィーが寂しい顔をすることは無くなった。
(本当に良かった。たくさんの優しい人に囲まれて幸せだな)
お花屋さんの前に到着し、目をキラキラさせながら店先の花をソフィーが見ていると、先ほど水やりをしていた店員が二人に話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「花の種を探しています。たくさん綺麗な花が咲くお勧めはありませんか?」
「でしたら、こちらはいかがですか?」
店員さんが指し示した切り花のラックにはピンク色をした花が所狭しと並んでいた。
「この花は何という名前なんですか?」
ソフィーがキラキラした目で店員に話しかける。
「これはネリネっていうんですよ。花が咲いている時期も長いのでお勧めです」
「メイ、ネリネが花壇にたくさん咲いたらどうかな?」
「うん、そうだね。ちょうどチューリップの隣が空いているし、たくさん植えたらきれいだと思うよ」
「うん、そうする! すいません、多めにいただけますか?」
「はい、わかりました。ご用意するので少しお待ちくださいね」
しばらく待っていると店の奥から店員さんが小さな袋をもって戻ってきた。ソフィーの目線に合わせるようにしゃがむと説明を始める。
「少し多めに球根を用意しました。小分け用の袋も入れておいたのでお友達にも分けてあげてください」
「え? どうしてそのことを?」
「先ほどお店の前で話している声が聞こえました。お友達と一緒に育ててほしいと思って用意しました。ネリネの花言葉には『また会う日を楽しみに』という意味があるのですよ」
「ありがとうございます! 教えてもらったことをお手紙に書いて渡しますね!」
「きっと喜んでくれると思いますよ」
ソフィーは嬉しそうに受け取った袋を抱きしめた。その後、メイと店員さんの三人で楽しく話し、お店を後にした。
「優しい店員さんだったね」
「うん! 花に込められたいろいろな意味を教えてもらえてよかったよ。早くしーちゃんにプレゼントしたいな」
とびっきりの笑顔で歩くソフィーとメイ。二人は近くにあるケーキ屋に寄り、リーゼのお土産にシュークリームを購入した。二人が立ち寄ったお店が後に「幸せのうさぎさんのお気に入りのお店」と爆発的なブームを巻き起こしたことを二人が知るのはずっと先のお話。




