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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第三章 幻想世界

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第17話 陰の主「イノセント家」

 レイスの先導で当主が待つ建物に向かうため、砂利が敷かれた中庭の道を歩く三人。


「言乃花たちはどんな試練だったんだ?」

「目の前にいる()()()()に聞いてみたら?」

「話してあげればいいじゃないっすか。いい準備運動になったと思うっすよ」


 前を向いたままいつもと変わらぬ軽い口調で答えるレイスに対し、肩を震わせながらこみ上げる怒りを必死に抑える言乃花。


(しまった、聞いたらダメなやつだ……)


 殺気を放ち、睨みつける言乃花と全く気にも留めていないレイス。対照的な二人に挟まれ、精神をどんどん削り取られていく冬夜。


(さっきの試練よりもトラウマになりそうだ……メイ、無事に帰れなかったらごめん)


 バチバチ火花を散らす言乃花とレイス、勝手に板挟みになる冬夜。それぞれの思いのまま、入り口に到着する。建物を見た瞬間、冬夜はぎょっとした。


「なっ……!」


 驚きのあまり立ち止まる冬夜。離れた位置から見えていたのは、幻想世界では見慣れた洋風の建物だったのだが、目の前には冬夜のよく知る和風の建物が建っていた。


「おや? 冬夜さんどうしたっすか?」

「いや、さっき見た建物と全く違うように見えるんだが」

「そうですか? 建物は一つしかないですからきっと疲れているんじゃないっすか?」


 何度も見返す冬夜に対し、クスクスと笑うレイス。


「まったく悪趣味なことね。いい加減種明かししてあげたらどうなの?」

「しょうがないっすね。冬夜さんはここに来るのが初めてですから特別っすよ」


 二人が言っている意味が全く理解できない冬夜。先ほどまでの笑顔は消え去り、真剣な表情になるレイス。普段の彼の様子とはかけ離れた雰囲気に圧倒される。


「先ほど冬夜さんが見た建物はこちらで間違いないっすよ。なぜ、違う建物に見えてしまったのか。それは冬夜さんが受けていた試練の残滓が完全に抜けきっていないからっすね」

「試練の残滓?」

「はい、冬夜さんの試練は『鏡世界の悪夢(ミラーナイトメア)』という己の悪夢、トラウマを克服するという試練でした。悪夢にのまれてしまう人も多いんすよ。さすがですね、冬夜さん」


 サラリと恐ろしいことを言うレイスに冬夜の顔がどんどん青くなっていく。


「のみ込まれてしまった人はどうなるんだ?」

「別にどうもならないっすよ。ちゃんと救護部隊も控えていますので。トラウマになりそうな記憶を消して門の外にお送りするだけっすよ」

「レイス、そのあたりにしとかないと。試練の前に脅してどうするのよ」


 ため息をつきながら言乃花が制止する。明らかに面白がって話すレイスは少し残念そうだった。


「さて、話を戻しますね。試練と幻影がみえた関係は、少なからず精神面に負担がかかったからっす。どうしても人間は都合の良い物を見ようとしてしまいますからね。ちゃんと違いが認識できた冬夜さんは大丈夫っすね」

「そうなのか? あの、一つ聞いても大丈夫か? この建物ってこちらではまず見たことがないというか……」

「ご名答。現実世界の建物を模倣しているっすね。そのほうがいろいろと都合がいいので。細かい話はまたの機会にしましょう。俺の父親、当主がお待ちっすからね」


 言い終えると引き戸になっている玄関を開け、中に入っていった。冬夜は困惑していたが、無言で言乃花がレイスに続き入って行く。


「何しているの? 早くしないと置いていくわよ」


 我に返った冬夜は慌てて二人の後に続く。

 室内はよく知った内装となっており、木でできた長い廊下が続く。


「人の気配はするのに不気味なくらい静まり返っていないか?」

「そうね。ここはレイスの実家だけど住み込み式の道場も兼ねているわ。門下生の方たちの中でも許された精鋭しかいないわよ。今日は私たちが来るから裏で動いているんじゃない? 普段なら気配すらしないわよ」

「どこの忍者屋敷だよ……」


 淡々と話す言乃花と呆れかえる冬夜。歩いていたレイスが廊下の突き当りにある襖の前で膝をつく。


「この奥で当主がお待ちっす。固くなる必要は全くないので自然体で大丈夫っすよ」


 いつもの軽い口調ではあるがどこか緊張感が漂う。気が付くと言乃花も膝をついており、慌てて冬夜も続く。


「レイス・イノセント及び試練通過者二名、入室します」


 襖が開いた瞬間、冬夜の目に飛び込んできた光景は圧巻だった。畳が敷かれた大広間、奥に座りまっすぐこちらを見据える男性が一人。両脇には五名ずつに正座して並ぶ男女。


「ご苦労であった。試練通過お見事。当主であるシリル・イノセントがご挨拶させていただこう」


 当主であるレイス父との初対面であった。

 こうして本格的な試練が幕を開けるとともに、着実に不穏な影も近づいていた。

 冬夜にとって衝撃の出来事が迫ってきているとは知るよしもなかった。

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