第2話 襲撃の裏側と新たな刺客(後編)
「……というわけよ。消えたノルンたちを追いかけるためにみんなで学園に向かったのよ」
淡々と状況を説明するリーゼ。最初は冷静に話をしていたが、だんだん言葉に熱が入りはじめ、ついに怒気をまとったオーラが溢れだした。
「あー! 思い出したらイライラしてきたわ! 芹澤……ちょっと手を擦りむいたくらいで大騒ぎしすぎなのよ!」
「何を言っているのだ? プロフェッサーの神の手が傷ついたのだぞ! 一大事ではないか!」
「かすり傷程度……どうにでもなるでしょうが!」
「傷がついたことが問題だ! どれ程の知的財産が失われ……」
「知らないわよ! 変な発明ばかりで、たまには役に立つものを作ったらどうなの! だいたい食堂の電子レンジの件だって……」
ヒートアップしていく二人が言い争う姿に雷が落ちるのは時間の問題だった。
「お二人とも? ちゃんと今の状況が見えていますか? 生徒会役員以外の方もいらっしゃるのですよ?」
言乃花が満面の笑みを浮かべて静かに二人に問う。眼鏡の奥から放たれる視線に一気に凍り付く生徒会室。
「リーゼさん、喧嘩したら『めっ』ですよ!」
続いてソフィーが立ち上がり、珍しく怒った様子で右手を顔の前に付きだす。これにはリーゼも顔が真っ青になり、しおしおと項垂れる。
「二人が静かになったところで、私たちも何が起こっていたのか話したほうがいいわよね?」
「そうっすね。かなり不可解なことがあったんで共有しておきたいっす」
一息つくと、言乃花が話し始める。
「いったい何が起こったの?」
言乃花の見た先には信じられない光景が広がっていた。全力で魔法をぶつけた相手が無傷で微笑んでいたのだ。
「ふふふ。お二人による渾身の一撃、見せていただきましたよ」
「なんで? あれだけの攻撃を受けて無傷なんてありえないでしょ!」
「これが現実ですよ。……全く油断も隙もないですね」
「手ごたえは、残念ながら無しっすね」
閃光が走り、目にもとまらぬ速さで振りぬいた懐刀は虚しく空を切る。レイスが心底悔しそうな表情を浮かべている様子に満足そうな笑みを見せるノルン。その姿が徐々に歪んでいく。
「私たちの役目は十分に果たせました。あそこで倒れているおバカさんを回収して、本来の目的に移行しなければなりません」
「本来の目的? いったい何を考えているの?」
「素直に話すと思いますか? 早く学園に戻らないとあの娘が終わらせているかもしれないですよ」
「待って、あの娘って……」
問いかけた時にはすでに姿が消えてしまっていた。呆然と立ち尽くす二人だったが、すぐに冷静になり辺りを確認する。あれだけの魔法を放ったはずなのに、森の様子は戦闘開始前と何も変わっていない。
「まんまと相手の術中にはまっていたみたいっすね」
「してやられたわ。悔しいけど今はリーゼたちと合流して学園に戻ることが先決ね」
周囲を警戒しながらリーゼと芹澤を捜すと、森の中に不自然に吹き飛ばされた場所があり、その中心に人影が見える。二人は黙って頷き合い、駆け出した。
「……こんな感じよ。そのあとはリーゼの言った通り、合流して学園に向かったわけよ」
「思い返しても腑に落ちない行動ばかりで、全然納得いかないっすよ」
難しい顔をしながら二人が話を終えると続いてリーゼが口を開く。
「私たちの話はこれで全部よ。次は冬夜くんの話を聞かせて。そっちはどんな状況だったの?」
リーゼたちと別れた後に起こったことを説明し始める冬夜。ノルンとうり二つの姿をしたアビーという存在。魔法を消し去る能力使いであり、絶体絶命のピンチに陥ったこと。メイの力が覚醒し、アビーを撃退したことを話した。ただし、あの空間で出会った少女のことは隠して……
「……俺の話は以上です」
「そんなことになっていたなんて……あ、もうこんな時間? さすがに疲れたわね、そろそろ休憩にしない?」
「休憩ならお茶の準備をしますね。食堂に移動しますか?」
「そうね、食堂で一息入れましょう。ソフィーちゃん、私も手伝うからね!」
「ありがとうございます、リーゼさん」
ソフィーを中心にリーゼたちが食堂に向かっていく。メイが一瞬振り向くが、何かを察したようにみんなと一緒に出ていく。レイスと芹澤を残し、全員が部屋を出たのを見計らい、冬夜が声をかけた。
「副会長、一つお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「何でも聞いてくれたまえ」
「副会長は事前にアビーが学園に攻めてくることを知っていましたよね? なぜ最初から迎え撃とうとしなかったのですか?」
「面白い指摘だな。では逆に聞こう。なぜ一人だけ学園に向かわせたと考える?」
冬夜の鋭い指摘に笑みをこぼす芹澤。
牽制し合う二人の間に重苦しい空気が流れる。
張り詰めた緊張の糸を切るように、芹澤の口から語られた真実とは……




