第1話 襲撃の裏側と新たな刺客(前編)
アビーたちの襲撃から数日、急激な魔力枯渇を起こしたメイは元気に回復していった。少しずつ慌ただしい日常が戻り始めた週末の放課後、冬夜をはじめメイとソフィーも実験室と同じフロアにある三階の生徒会室に集合していた。
室内には正方形の形に長机が配置され、入口からみて正面にリーゼ、左側に奥から順に芹澤、レイス、冬夜。その向かい側に言乃花、メイ、ソフィーの順に座り、リーゼが話し始めた。
「集まってもらって悪かったわね。襲撃の日にあったことを一度整理しておいたほうが良いと思ったのよ」
冬夜が右手を上げると口火を切る。
「俺がいなくなった後に何があったのか教えてほしい」
「そっすね。忽然と姿を消した冬夜さんに何が起こったのか気になるっすけど……まずは、会長と副会長に起こったことを話していただいたほうがいいと思うっすよ」
「そうね。私たちのことを話すよりもリーゼ達のことを先に話してもらったほうが、話の順序が合うと思うのよね」
「そうか、プロフェッサーの活躍を聞きたいのだな! よかろう、心して聞きたまえ!」
「アンタは活躍なんてしていないでしょうが! はぁ……」
芹澤に苛立ちながら額に手を添え大きくため息をつくリーゼ。それからあきらめた様子でゆっくりと語り始めた。
「冬夜くんが大穴へ落ちた後からね。あの時、壊滅及ぼす雷砲を放たれて、私たちは絶体絶命の状況だったわ」
「芹澤! あなた……何をしたのかわかっているの? どう考えたって回避できないわよ!」
「ふむ、正面から立ち向かえばこの一撃でやられておしまいだな」
「この期に及んでなにを呑気に言っているのよ!」
「まだわからないのか? 正面から馬鹿正直に受け止める必要などない。さっさとやるぞ」
ズボンのポケットからある物を取り出し、そのまま迫りくる砲撃に向かい投げつけると大声でリーゼに叫ぶ。
「ぼさっとするな! さっさと自分の身を守ることを優先しろ。巻き込まれるぞ!」
「あなたは何を言って……」
「っ、仕方ないな。ちょっとくらいは我慢しろよ」
言い終えると同時にリーゼの足元の地面が消失する。そのままぽっかりと開いた地面に吸い込まれていく。穴自体はそんなに深いわけではないが、いきなり落とされたため、しりもちをつく形になってしまった。
「リーゼ、今すぐフェイに向けて魔法を打て! 全力の一発だ!」
穴の上から芹澤の怒号が飛ぶ。何の前触れもなく突然穴に落とされ、混乱する中で自分が撃てる最高の魔法を練り上げいく。同時に心の底からふつふつと怒りが込み上げてくる。
「わかったわよ! 絶対零度」
空に向かい、最高出力の魔法を放つ。反動で体が吹き飛ばされ、土の壁に打ち付けられる。背中が痛み、静寂を切り裂くような爆発音が聴力を奪い取った。爆風とともに土煙が舞いこんでくる。
「危なかった……防護魔法を使っていなかったら怪我だけではすまなかったわね」
ホッと胸をなでおろすと、外の様子が気になり穴から這い出してみる。すると、先ほどの喧騒が嘘のような静寂が辺りを包み込んでいる。だが、森の木々は木っ端みじんに吹き飛ばされ、最初から何もなかったように地面ががむき出しとなっている。その先に芹澤が倒れており、上半身が土の中に埋もれている。
「ちょっと芹澤、しっかりして! 大丈夫なの?」
大慌てで駆け寄り、被さった土を払い抱き起こすといかにもめんどくさそうな声を上げる。
「全く、もう少し怪我人をいたわろうという気持ちはないのか?」
「ごめんなさい。そんな大怪我しているなら早く手当てしないと……」
「これを見たまえ。私の大事な右手に擦り傷が付いてしまっているだろう」
「は? 怪我ってその程度のことなの? それよりフェイはどうなったの?」
「そいつならあそこに倒れてるだろ? 大したことないやつだ。そんなことより神の手に傷だぞ! 今後の実験に支障が出たらどうするんだ!」
ブツブツと文句を言い続ける芹澤。その態度に腹の底から怒りがこみあげるリーゼ。プルプルと震えながらつかみかかろうとした時、ある異変に気付いた。
「なにあれ? あそこだけなんで景色が歪んでいるのよ?」
ふと視線を下に落とすと倒れていたフェイの身体が少しずつ浮き上がり、その歪みに吸い込まれていく。
「ふふふ。今回は終わりにさせていただきますね。早く学園に戻らないと大切な仲間を失うことになるかもしれませんわよ」
空間内にこだまするようにノルンの声が響く。その声が消えるとともに歪みも消えてしまった。いったい何が起こったのか理解できずにいると後ろから聞き覚えのある声がする。
「リーゼさんたちは無事っすか?」
「リーゼ、副会長、一刻も早く学園に戻らないと」
言乃花とレイスが合流した。二人が駆け寄ってくる姿にホッと胸をなでおろす。
「何をぼさっとしている。早く学園に向かうぞ! 彼に任せきりでは生徒会の名が廃る!」
「そうだ、冬夜くんは? 学園にいるの?」
四人は慌てて学園に向かい走り出す。
その遥か上空から不敵な笑みを浮かべ見下ろす人影があった。
「気のせいっすかね……ヤツの気配がしたと思ったすけど」
レイスが見上げた先に広がるのは雲一つない青空。
ヤツとは誰のことを指しているのか?
新たな敵はすぐそこまで迫っていた。




