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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第1章 運命の始まり
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第4話 旅立ちの時

(……しばらく帰って来られないけど見守ってくれ、母さん。必ず()()()()()()()をはっきりさせてくるよ)


 冬夜は手を合わせたまま閉じていた目をゆっくり開き、元気に声を上げる。


「行ってきます!」


 冬夜が見つめる先には笑顔で微笑む母の写真が飾られていた。毎朝欠かさず行ってきた挨拶を済ませると、少し寂しそうな表情を浮かべる。


 彼の母親がこの世を去ったのは、まだもの心つく前……そのため幼少期より祖父母と父親に育てられてきた。


(あのクソ親父め……全く連絡しないし、いったいどこで何をしてるんだ!)


 唯一の肉親である父親も数年前、意味深な言葉を残して家を出てしまった。泣きながら『行かないで!』と懇願する冬夜を残し……



「すまない、冬夜。どうしても()()()()()()()()()()()()()になってしまった。これをお前に渡しておこう、母さんから託されたものだ。きっと必要になる時が来る……じいさんとばあさんの言う事を聞くんだぞ。父さんのいない間、留守を頼む」


 別れ際に渡されたのはダークシルバーのロザリオ。中心には全ての闇を飲み込むかのような漆黒の小さなブラックオニキス。

 ある決意を胸に父親は幼い冬夜へ妻の形見を託すとそのまま行方をくらませた。冬夜は渡された日からロザリオを首から下げ、肌身離さず身に着けている。



「じいちゃん、ばあちゃん! そろそろ行くね!」

「気をつけていくのじゃよ」

「休みには帰ってきなさいよ。たまには連絡もしなさいよ」

「うん、分かった! じゃあ、行ってきます」


 祖父母に駅まで送ってもらい、冬夜は笑顔で電車に乗り出発した。


あの子(冬夜)まで学園に通うことになるとはな……運命は時に残酷なものだ……」

「大丈夫ですよ。きっと乗り越えて帰って来ますよ」


 行き交う人々の声と踏切の音が響くホームで姿の見えなくなった電車を見つめる祖父母。まるで冬夜に待ち受ける運命を案じているかのように……



(待ち合わせ場所はっと……霧の森? マジか? でも……指定された場所までは地図に詳しく書いてあるし、先に学園の人が待ち合わせ場所へ来てくれるはずだから大丈夫……だよな? いや……考えるのはやめよう。まだ到着まではしばらくかかるし……少し寝るか)


 待ち合わせ場所はいわく付きのようで、湧き上がる不安を押し込めるように言い聞かせていた冬夜だが、暖かい春の陽気と電車の心地よい揺れに、ゆっくりと意識を手放した。



『君はだれ? どうして泣いているの? ……そっか、一緒にここを出ようよ! 僕が外の世界を君に案内するよ! 名前を教えて! 僕の名前は……』


 懐かしさが残る夢の余韻に浸りながら目を覚ました冬夜。


(あれ? なんだ、夢か……あの女の子だった気がするけど、はっきりと思い出せないのはなんでだろう?)


 ぼんやり考えていると車内に停車駅を知らせるアナウンスが響く。


「ご乗車ありがとうございます。まもなく藤宮、藤宮駅に到着します。お忘れ物など無いようお気を付けください」

「あ、やべ! 降りる準備しなきゃ!」


 アナウンスを聞くと慌てて電車を降りる準備を始める冬夜。藤宮駅の改札を出るとバスターミナルが見えた。


「えっと……乗り場は七番か」


 少し離れた搭乗口へ向かい歩き始めると、思わず心の声が漏れた。


「森の中に入るのはかなり不安だけど……詳しい地図もあるし、大丈夫だろう。どんな人が迎えに来るのか、楽しみだな」


 新たな学園生活に思いを馳せながら、冬夜はバスに乗り込んだ。

 この後、自らの命運を決定付ける出来事が待ち受けているとも知らず……

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― 新着の感想 ―
おじいちゃんとおばあちゃんが寂しそうなのにぐっときました。この先どんな運命が待ち受けるのか、どきどきしますね……!
拝読させていただきました。 壮大なプロローグに引き込まれ、4話まで一気に進めてしまいました。 世界観は緻密に設計されていて、情景描写・心理描写も丁寧なため物語に入り込んだ状態で読み進めることが出来まし…
いよいよ、冬夜くんの運命の入学ですね(*^^*) 明らかに普通の学園では無さそうなので、 どんな展開が待っているのか?楽しみの前触れですね(*^^*) 次も読ませて頂きます♩
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