第17話 因縁の対決と忍び寄る脅威(前編)
冬夜たちが裏門から森へ走っていく様子を特別棟の屋根から眺めている学園長。
「さすが副会長……誘い出し方が上手いね。さて、本命が来る前に僕も動いておこうかな?」
冬夜たちが向かった方向とは別の方向を見ながらつぶやく。そして、目を細めるとゆらゆらと蜃気楼のように姿が消えていった。
「ふん、誰かと思えば……私に傷を負わせた恨みは忘れてはいませんよ!」
冬夜を見つけたフェイの表情が憎しみに歪み、溢れ出す妖力が周囲の木々を揺らし始める。
「フェイ、落ち着きなさい! 向こうから揃ってきてくれたのですよ。手間が省けたことを喜びなさい」
本来の目的を忘れ、恨みを晴らさんと暴走気味になるフェイに一喝するノルン。同時に自身に向けられる殺気をのせた視線に気が付く。
「迷宮図書館のときは逃げられたけど……今日は、逃がさない」
迷宮図書館で起きた事件以降、秘密裏にノルンの動向を探り続けていた言乃花。どれだけ探りを入れ続けても一向につかむことができなかった。ここで遭遇できたこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。
「そんな怖い視線を向けなくてもいいじゃないですか。ゆっくり相手をしてあげますよ?」
「前回のような失態は犯さないわ。あなたに聞きたいことがたくさんあるから……」
ノルンの挑発に対し、冷静さを保とうとする言乃花。そんな中、あの男が口を開く。
「実に素晴らしい状況ではないか! サンプルのデータ取りには最高だと思わないか?」
「あんたね……まだそんなことを言っているの?」
芹澤に思わず言い返すリーゼ。しかし、戦況を冷静に分析していたレイスにより、現実に引き戻される。そして軽い口調ながら的確な提案を出す。
「お取込み中に悪いっす。今はアイツ等をどうにかするほうが先だと思うっすよね。会長は彼のサポートに、自分は言乃花さんのサポート入るっす。副会長は、全体の戦況分析を頼みます」
「適任者はあなたしかいないんだから、頼んだわよ。副会長!」
「今日こそ逃がさないわ!」
因縁の相手を前に改めて気を引き締めなおす冬夜たち。その様子を見ていたフェイが不敵な笑みを浮かべ、空高く舞い上がると右手を頭上に掲げると妖力を込め始めた。
「もういいのですか? では、あの時の借りを返させていただきましょう」
「来るぞ! ボサッとするな!」
上空に無数の雷の矢が出現し、五人に向かい一斉に降り注ぐ。芹澤の怒号が響きわたると同時に、矢が次々と突き刺さり爆発が起こる。土煙と轟音により視界と聴覚が奪われる。
無我夢中で横に飛び、すれすれのところで直撃を真逃れた冬夜。視界が土煙により遮られているため、ほかの四人の安否どころか、フェイの姿を確認することすらままならない。
「危なかったわ。何とか無傷で切り抜けられたわね」
絶望的な視界の中から聞き覚えのある声が耳に届く。
「リーゼ! 無事だったのか?」
「冬夜くん? そこにいるの?」
少し視界が戻り、現れたのは水の壁に覆われたリーゼであった。すぐにリーゼのもとに駆け寄る。
「無事でよかった。この水の壁は一体?」
「これね。とっさの判断で爆発を防いだのよ。だけど、他の三人とは分断されたみたいね……」
お互いの無事を確認すると同時に、上空からフェイの声が響き渡る。
「作戦はうまくいきましたね。さて、魔法も自由に使えぬ人間の分際で、この私に傷を負わせた恨み、今ここで晴らさせていただきますよ」
上空から恨みのこもった表情で見下ろすフェイ。その周りを、鋭く研ぎ澄まされ電撃をまとった黄金色に輝く無数のナイフが取り囲む。
「さあ、ネズミのごとく逃げ回り、這いつくばり、命乞いするみじめな姿を見せてください。そして、私を怒らせたことを永遠に後悔しろ!」
その言葉を言い終わると同時に左手が振り下ろされる。そして、電撃をまとったナイフが一斉に二人に向かい降り注ぐ。
「すぐに力を開放して、自分の身を守りなさい!」
リーゼの怒号が響き渡る。突然のことに一瞬判断が遅れてしまった冬夜。全意識を胸からかけたロザリオに集中させるが、一向に反応が返ってこない。
(なっ……どうしたんだ? 今までうまくいっていたのに、なんで発動しない?)
フェイの仕向けた攻撃が冬夜へ向けて一斉に襲いかかる。
何が起こったのか理解できぬまま、窮地を切り抜ける術は冬夜に残されているのだろうか……




