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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第七章 破滅の協奏曲(ペリシュ・コンチェルト)

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第29話 迫りくる第三の影

 芹澤の話に驚く女性を気に留めず、淡々と説明を続ける。


「響さんはメイくんと冬夜くんが一緒に行動していることに驚き、自分が見た虚空(アカシック・)記録層(レコード)とは違うと口走っていましたね。そのまま頭を抱え込んで空中から落下し、目を覚ますと別人のようになっておりました」

「そ、そんな……」


 絞り出すように呟くと呆然と立ち尽くす女性。その様子を見たメイが心配そうに声を掛ける。


「大丈夫ですか? すごく震えてますが……」

「あ、ええ……」

「ダメです! 声も震えていますし、少し休まれたほうがいいと思います」


 動揺を悟られまいと必死に取り繕う女性だったが、声が上ずってうまく返事ができなかった。彼女の異変に気がつくいたメイが語気を強めて訴える。


「どう考えても普通の状態じゃありません! 何があったのかわかりませんが、苦しいなら休みましょう。私で良ければお話を聞きますから」

「ありがとう。ちょっと動揺しただけですから……ごめんなさい、お話の途中だけど少し休む時間を頂いてもいいかしら?」


 メイの気迫に負けた女性は観念したように芹澤へ声を掛ける。


「も、申し訳ない! つい説明に熱が入ってしまい……お体の具合が悪いことに気が付けないとは何たることだ……少しお待ちください」


 芹澤が女性に頭を下げると、膝をついて地面へ両手を当てる。すると掌が淡い光を放つと同時に、地面が公園のベンチのような形に盛り上がる。さらに力を加えると表面が大理石のような質感へ変化した。


「ふう……なんとか完成しました。横になっていただいても問題ありません。表面は硬そうに見えますが、クッション性を持たせていますのでソファーのように柔らかいはずです」

「そんなふうには見えませんが……それでは座ってもよろしいでしょうか?」

「もちろんです! ぜひ座り心地を含めた感想をいただけるとありがたい」


 芹澤に促され恐る恐る座ると、硬質な見た目からは想像できない柔らかさが体を包み込む。クッション性の良いソファーのように腰を優しく包み込み、適度な硬さを保っているため深く沈み込むこともなかった。


「これは本当に土でできているの? それよりも魔法だけでここまでの座り心地を再現するなんて不可能では? 一体どんな技術が使われているのかしら?」


 あまりの座り心地の良さに驚いた女性は口調が素の状態に戻り、さらに両手でベンチのあちこちを押したり触ったりして感触を確認している。その様子を見た芹澤が腕を組むと笑いながら答え始める。


「ははは。プロフェッサーの開発能力と魔力応用を持ってすれば、不可能を可能にすることなど容易なのだ! 私が開発した装置を組み込むことにより分子レベルで物質の構造を置き換えることに成功した!」

「そ、そうなのですね……なんか難しそうな話だから、詳しくはまたの機会に……」


 意気揚々と説明を始めようとする芹澤に対し、明らかに引いている女性。しかし、彼の耳にそんな言葉が届くことはなかった。


「いえいえ、ちゃんと説明をしなければなりません。なぜなら、効果を最大限に体感していただくには正しい知識が必要不可欠。今回の場合でいうと、土の中に含まれる成分は……」

「……本当に()()()()()()()()ね。人の話を聞かない、説明を始めたら止まらないところとか……」


 ベンチに座った女性が右手を額に当て、大きなため息をつくとすぐ近くに人の気配を感じた。顔を上げると、心配そうな顔をしたメイが立っていた。


「どうしたのかしら? メイさんも顔色が良くないですよ」

「いえ、先程まですごくお疲れの様子でしたし……今も大きなため息をついて肩を落とされていたので、どこか具合が悪いのではないかと心配で……」

「ふふふ、ありがとうございます。つい彼の地雷を踏んじゃったみたいで……まあ、当分はあのままでしょう。メイさん、よかったら隣に座りませんか?」

「は、はい! あ、でもお疲れの様子なのにいいのですか?」

「私は構わないですよ。むしろあなたと一緒にお話してみたいの」

「嬉しいです! それでは失礼します」


 満面の笑みを浮かべてメイが女性の隣に座り、驚きの声を上げる。


「このベンチすごいふかふかですね! 見た目は地面と一緒なのに、全然土もつかないし……岩みたいに見えるのにすごく柔らかいです!」

「でしょ? 適度な硬さと柔らかさが共存しているというか、ものすごく優しく包み込んでくれる暖かさもあるのよね」

「ほんとです! もっとひんやりしているイメージを持っていたんですが、全然違います!」


 子供のようにはしゃいでいるメイの様子を見て、女性は目を細めながら見守っている。


「あ! すいません……隣に座らせていただいているのに、こんなに大騒ぎしちゃって……」

「大丈夫よ。楽しそうにしてる様子にすごく癒されたから」


 顔を真っ赤にしてうつむくメイに対し、女性が優しい視線を向けた時だった。いきなり立ち上がると真剣な声で話しかける。


「さて……そろそろ()()()()()ようです。メイさん、ちょっと伏せて頂けますか?」

「え? はい、伏せていればいいのでしょうか?」


 女性に促されるまま顔を伏せた瞬間、目の前で話していた芹澤の声が途切れる。


「がっ……」

「え? プロフェッサーさん?」


 短い悲鳴のような声が聞こえ、倒れこむような音が聞こえてきた。

 いったい女性は何を企んでいるのだろうか……

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